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1119)賃料の変動率に優るスライド法の変動率は無い

 スライド法は、従前合意賃料に変動率を乗じて、価格時点の継続賃料を求める手法である。

 算式は、

    従前合意賃料×変動率=スライド法賃料

である。

 もう一つの求め方があるが、それは今回省く。

 上記算式の「変動率」は、不動産鑑定士が自らデータによって作りあげるものである。
 他人が、不動産鑑定士の評価のために作ってくれるものではない。

 スライド法の変動率が分からないと言って、消費者物価指数の変動率でこと足りていると判断している不動産鑑定士が多く居るが、そんなものでは無い。

 ある賃料の鑑定書で、スライド法の変動率を求めるのに、下記の11の指数を計算して、その平均を当該建物の賃料の変動率として、スライド法賃料を求めていたものがあった。

   @ 家賃指数                a
   A 市街地価格指数             b
   B 建物建築費指数             c
   C 消費者物価指数             d
   D 企業物価指数              e
   E 賃金指数                f
   F GDP                     g
   G 商業動態統計              h
   H 企業向けサービス価格指数     i
   I オフィス募集指数            j
   J 公租公課の変動率           k
             平均                     x

 平均のXをスライド法の変動率とするものであった。

 @からJの変動率を求めることは、大変な労力である。

 そうして求めたスライド法の変動率は、「適正」と一見みえる。

 しかし、良く考えてみれば、上記@〜Jの変動率及び平均変動率と対象建物の賃料の間に強い相関関係があるのかと云う疑問が生じてくる。

 その強い相関関係の存在が立証されない限りは、その求め方及び求められた変動率に信頼性は無い。

 目くらましの求め方・変動率にしかならない。

 賃料は上記要因に依って形成されているとは断言出来なく、それ以外の要因が強く作用しているかもしれない。

 賃料は上記11の要因を含めて、より多くの要因が重なり合って形成された結果のものである。

 賃料がそうして形成されたものであるのであれば、賃料の変動率は、賃料の変動率をスライド法の尺度にするのが最も良い。

 賃料の変動率に優るスライド法の変動率は無い。

 類似した地域の類似した建物の賃料変動率、それは事務所賃料の推移、店舗賃料の推移、マンション賃料の推移、アパート賃料の推移、工場・倉庫の賃料の推移によって求められる。

 丸の内の大地主の三菱地所が、全国に所有して賃貸している事務所、店舗、倉庫、ホテル等全用途の毎月の平均賃料を、3ヶ月毎に発表している。

 三菱地所の株主への情報公開である。

 例えば下記のごとくである。

                2007年 1月     坪当り 21,585円
                       2月                  21,607
                       3月                  21,733
                       4月                  21,843
                       5月                  22,085
                       6月                  22,081
                       7月                  22,234
                       8月                  21,977
                       9月                  22,049
                      10月                  22,237
                      11月                  22,515
                      12月                  22,545

2012年 1月       23,956 2月 23,863 3月 23,974 4月 23,624 5月 23,775 6月 23,734 7月 23,681 8月 23,519 9月 23,448 10月 23,526 11月 23,666 12月 23,701
2013年 1月       23,777 2月 23,773 3月 23,850 4月 23,396 5月 23,527 6月 23,598

 この賃料データより、例えば2007年10月〜2013年6月までの賃料変動率は、

                          23,598円
                        ───── = 1.061                         
                          22,237円

6.1%の変動と求められる。

 但し、上記三菱地所の賃料は、新規賃料、継続賃料が混在している賃料であり、建物の古いもの、新しいものが混在し、用途も混在している状態の賃料である。

 現実に授受されている賃料の毎月の賃料データによるものであり、賃料変動率を求めるデータとしては、大変貴重なものである。

                      (2013年7月3日の田原塾の講話録一部に加筆して)


(追記)
 2013年9月14日 午後2時 本コラムを書き上げている最中に、テレビの速報として、惑星分光観測衛星「スプリントA」を搭載した「国産新型ロケットのイプシロン打ち上げ成功」のニュースが入って来た。
 日本の科学者、科学技術を称えたい。



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