一棟の建物を賃借していることを、多くの人に知らしめる為に、「この建物の賃借権は甲にあります」という内容のものを、建物の外側に張り付けて、建物賃借権の存在を公示する明認方法の建物が、東京新宿通りの一等地に出現した。
建物賃借権の明認方法が出現したのは珍しい。
私の知識では、初めてである。
明認方法とは、どういうものか。
それは、慣習法の1つで、権利の存在を物件に表示して公に示す方法をいう。
明認方法として行われる例は、山林の立木に名札を付けて、立木の所有者の存在を示すやり方である。
この場合は、所有権の権利を示すやり方である。
新宿の建物の場合は、所有権でなく、建物の賃借権の明認方法が行われているのである。
「賃借権の表示」として、下記の文言を記した表示板が建物の外壁に張り付けられている。
『本建物(下記)一棟全体は、下記賃借人が下記賃貸人から賃借していますが、賃貸人による改修工事のため、一時的に明渡しておりますので、同工事が完了するまでの間、本表示をもって同賃貸借について明示いたします。
賃借人の表示 省略
賃貸人の表示 省略
建物の表示 省略』
明認方法が行われることも珍しいが、東京の新宿の一等商業地の建物の賃借権の明認方法は極めて珍しいことではなかろうか。
慣習法を研究している法学者にとって、格好の研究材料になりそうであり、学問的にも賃借権の明認方法の貴重な実例として、歴史に残るのではなかろうか。
明認方法が取られているこの不動産が売買されたと、日本経済新聞社が発行している『日経不動産マーケット情報』2014年6月号(P9)が報じている。
明認方法を行うからには、この建物一棟の賃借権には、強固な借家権が附着していると思われるが、それを承知で企業は購入したのであろうか。
それとも売買は賃貸借を破るという論理で、その様な賃借権を認めないという論理による購入であろうか。
賃借権を無視した購入であるならば、明認方法は「慣習法」として法的に認められた法的手段であることから、簡単には購入者の思惑通りには事は進まない。
どれ程の金額で売買されたのか私には知る由もないが、新宿の一等地であることから、購入金額は半端な金額ではないであろう。
購入者は全額自己資金で購入することなどしない。
現在の超々金融緩和を利用して金融機関からの借入金に頼っていると思われるが、その資金を提供した金融機関も随分と豪胆なことをするものだと私は敬服する。
賃借権の登記が容易に出来る法整備が、今後必要ではなかろうか。
法律学者、法務省官僚、国会議員は、建物賃借人の賃借権の法的保護を充分考えて欲しい。
いつまでも明治時代に作られた民事法のままで良いものでは無かろう。
下記に関係する写真を掲載する。
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