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1402)築後52年の建物に新築価格の減価償却費を考える家賃の鑑定書

 頭を抱える家賃鑑定書に、再々度出くわした。

 継続家賃の鑑定書である。

 対象建物は、築52年の建物である。

 築52年の建物の家賃を求める必要諸経費の減価償却費に、対象建物の再調達原価の金額を使用して求めている。

 建物本体は再調達原価の1/50の金額、設備は再調達原価の1/15の金額とし、2つの合計を減価償却費として計上している。

 1/50とは、建物の経済的耐用年数は50年と云うことであろう。

 とすると、対象建物は築後52年であるから、経済的耐用年数を過ぎていることになる。

 つまり減価償却は終了している建物である。

 その建物に、なに故に、再調達原価、即ち新築建物価格の減価償却費が必要諸経費として加算されなければならないのか。

 設備も築後52年経っていることから、とうの昔に減価償却は終えている。

 なに故に新築建設費の1/15の金額を、築52年の建物は、賃料の必要諸経費として負担しなければならないのか。

 経済的耐用年数を過ぎている建物に、賃料の必要諸経費として、減価償却費を必要諸経費として認める根拠があるであろうか。

 減価償却費とは、建物投下資本をその建物の経済的耐用年数のあいだに回収するためにあるものであろう。

 経済的耐用年数が過ぎたと云うことは、建物の投下資本の回収が終わっていることを意味するのである。

 加えて、経済的耐用年数が過ぎた建物賃料に、新築建物価格の減価償却費を費用として加算する根拠など無かろう。

 減価償却費を除く他の項目要因の金額を一定とすると、減価償却費は、新築建築費を基礎にしてその1/50(設備は1/15)の金額であるから、新築建物も築52年の建物も必要諸経費は同じ金額ということになる。

 その様なことは現実にはあり得ないであろう。

 と言うことは、再調達原価の金額で減価償却費を求めることは間違っているということになる。

 手許に届いた賃料鑑定書は、減価償却費について、2つの大きな間違いを犯している。

 具体の例えを、下記に述べる。

 築後52年の建物価格を2000万円とする。

 再調達原価は10億円とする。建物本体と設備の割合を75:25とする。

 減価償却費は、新築建物の場合、年間、

          建物  10億円×0.75÷50=1500万円
          設備   10億円×0.25÷15=1667万円
          合計                     3167万円

となる。

 この金額が、減価償却が終わっている築後52年の建物の家賃の経費として加算している。

 上記減価償却費が成立するのは、経済的残存耐用年数が50年ある新築建物の賃料を求める時のみである。

 築年数が経っている場合は、築年数が経っている時の建物価格を基礎にして、残存耐用年数で除して減価償却費は求めるものである。

 築後52年を経た建物価格が2000万円であれば、この2000万円が減価償却費を計算する建物価格である。

 経済的残存耐用年数が0年であれば、減価償却費は0円である。

 経済的残存耐用年数が、今後5年あると判断されれば、

     2000万円÷5=400万円

400万円が減価償却費である。3167万円では無い。

 古い建物の家賃が安くなるのは、機能性の陳腐化も一つの原因であるが、その他の原因の一つとして、建物の減価償却が毎年実行されて、建物価格が安くなっていることが原因しているのである。

 減価償却費を求めるのに再調達原価の金額で行うことは、間違いであると、本鑑定コラムのコラム617 2009年12月25日発表)、コラム645 2010年3月21日発表)でも指摘している。

 当該不動産鑑定士は、当方の鑑定コラムを読んでいないのか、或いは私の主張は間違いであると無視して、再調達原価の金額で求めるのが適正であると信じ込んでいるようである。

 東京地裁の法廷で、反対側の代理人弁護士から、減価償却費の求め方が甚だしく間違いであると指摘された場合、どうなることやら。

 不動産鑑定士及び指導する不動産鑑定士、総括不動産鑑定士、専任不動産鑑定士ょ、しっかりしてくれないか。名ばかりの不動産鑑定士では困る。



****(追記) 2014年10月30日

 本記事は、建物価格の減価修正の話をしているのではない。
 建物価格を求める減価修正と間違えて読んでいる人がいるようであるが、本記事は賃料の必要諸経費等の中の経費項目である減価償却費の話である。減価修正と減価償却費とは全く異なる。間違われないように。


  鑑定コラム617)
「減価償却費は再調達原価でおこなうのか」

  鑑定コラム645) 「鑑定協会は実務修習テキストの継続賃料の減価償却費の求め方を即刻訂正せよ!」

  鑑定コラム673) 「減価償却費の求め方は、不動産鑑定士の自由な判断であるという主張」


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