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645)鑑定協会は実務修習テキストの継続賃料の減価償却費の求め方を即刻訂正せよ!

 社団法人日本不動産鑑定協会は、実務修習テキスト(以下「実務修習テキスト」と呼ぶ) に記載する継続賃料の減価償却費の求め方を即刻修正せよ。

 社団法人日本不動産鑑定協会は、不動産鑑定士の三次試験合格者の実務修習生への実務講習において使用している実務修習テキストで、継続賃料の鑑定書の例を掲載している。

 その鑑定書例は模範例として載せているのであろうが、そのP351の必要諸経費の中で、建物の減価償却費を次のごとく求めている。

    「再調達原価÷耐用年数=減価償却費」

 そして具体例の計算として、築10年の建物の減価償却費を次のごとく求める。

       再調達原価     耐用年数
          143,700,000円 × 1/40 = 3,593,000円

 築10年経っている建物の減価償却費を、3,593,000円と求める。

 この求め方は間違っている。(更地価格を求める土地残余法の求め方の場合と勘違いして居るのではなかろうか)

 中古建物の減価償却費は、再調達原価を耐用年数で除して求めるものでは無い。

 価格時点における建物価格を、残存耐用年数で除して減価償却費を求めるものである。

 賃貸建物の賃料収入を得るために必要とされる経費が、必要諸経費である。
 賃貸建物の減価償却費という費用は、賃貸建物の収益を得るための経費であると言うことは、理論上納得出来る。

 但し、賃貸収益に対応する建物の減価償却費という費用は、建物取得費が対応するものであって、中古建物の再調達原価に収益を得るための費用性があるであろうか。

 即ち、収益に対する費用性が必要諸経費であるという理論から考えると、中古建物の再調達原価が費用性を持つという理論構築は困難である。

 所得税法施行令120条の2は、建物の定額法による減価償却費の求め方として、「当該減価償却資産の取得価額にその償却費が毎年同一となるように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各年分の償却費と」すると明記する。

 所得税法施行令120条の2のいう「取得価額」とは、不動産鑑定評価で言えば、価格時点の建物価格を云うのである。再調達原価を云うのでは無い。

 不動産鑑定評価で、価格時点で求める価格と言うものは、市場で売買される価格を云うのであり、それは第三者が取得する価格を表示したものである。

 価格時点で評価した建物価格は、それは取得価額ということになる。再調達原価で第三者は中古建物を買わない。

 こうして考えれば、中古建物の減価償却費を再調達原価で求める方法は、税法に違反した求め方であることになる。

 鑑定協会の実務修習テキストが、模範鑑定評価書として例示して教え、指導している為に、それを金科玉条のごとく信じ込み、継続賃料の減価償却費を再調達原価を基本価格にして求める不動産鑑定書が裁判所に続々提出されてくる。

 その求め方は間違いであると指摘すると、建物を造った金額を回収するのが減価償却費の目的であるから、再調達原価で求めるのが適正な求め方であるとか、鑑定評価基準は減価償却費の求め方を細かく書いてある訳でなく、依ってそれは不動産鑑定士の判断の範囲に属するものであるから、自分の求めて居る再調達原価による減価償却費の求め方は正しいと自分勝手な屁理屈をつけて主張してくる。

 代理人弁護士、裁判官は、それらについては全く知識も無く分からない。
 専門家である不動産鑑定士が主張しているのであれば、それが正しいであろうと判断する。

 相手側代理人弁護士に至っては、間違っていることが分からず輪を掛けて、猛烈に正当性を主張し、間違いであると指摘する田原鑑定士の方が誤った考えを持っていると攻撃してくる。
 それに当該不動産鑑定士も加担し、自らの鑑定が正しいと執拗に主張する。

  そうした不動産鑑定士の発言、姿勢を目にすると、同じ不動産鑑定士として情けなくなる。と同時に、世間の人々に不動産鑑定士の能力は、その程度かと言うことが分かり、甚だ恥ずかしくなる。

 あまりの無知と傲慢な態度に、私もいささか堪忍袋の緒が切れた。

 公認会計士、税理士の人に、会計上・税法上での建物の減価償却費の求め方を、恥を忍んで確認の為に聞いた。

 その答は、以下の通りである。

 「建物の減価償却費は、取得価額を残存耐用年数で除して求めるものです。 再調達原価を全耐用年数40年で求めるやり方など間違っております。
 10年経過しており、その建物はその分、既に減価償却して居ます。その建物を取得した人は、取得した建物価格で、取得後の残存耐用年数に応じた減価償却費を経費計上するのです。

 再調達原価で減価償却費を行った場合、税務署は過大な経費計上、利益隠しとして問題にし、許しません。

 不動産鑑定士は、そんな税法違反の求め方で減価償却費を求めているのですか。分野を越境するかもしれませんが、その求め方は間違いです。」
と。

 公認会計士、税理士の方から、再調達原価を基本価格にして求める中古建物の減価償却費の求め方は間違いであると明確に指摘された。

 所得税法施行令120条の2でも、減価償却費は取得価額で行えと規定しており、中古建物の減価償却費の求め方は再調達原価で行えとは規定していない。

 不動産鑑定士のどこの誰が再調達原価による減価償却費の求め方を考え、広め、実務修習テキストに載せることになったのか私は知らないが、この求め方は間違いであることから、鑑定協会は、即刻全国の不動産鑑定士に対して通知していただきたい。

 面子云々と言っているどころではない。
 間違いを長い間放置していることの悪影響を考えるべきであろう。

 裁判所の継続賃料訴訟で、再調達原価を基本価格にして減価償却費を求めている鑑定書が後を絶たない。それら鑑定書の存在は甚だ迷惑であり、裁判が混乱する。

 そして必ずと言って良いほど、間違いが分からず自分の求め方は正しいと主張する。
 そして間違いであると指摘する私の方が誤っていると反論してくる。
 本末転倒であるが、裁判所ではそれが罷り通っている。

 求め方が間違っていることを指摘し、教えることは、本来は鑑定協会が行う役目ではないのか。

 何故、私がその役目を、不勉強な、盲目的に信じ込んでいる不動産鑑定士に教えてやらねばならないのか。

 全くイヤになる。

 間違いを指摘されても間違いと分からず、正しいと主張し、反論する態度は少し傲慢では無いのか。
 
 少しは社会的に恥ずかしいと思わないのか。


  鑑定コラム633)「実務修習の継続賃料の求め方は間違っている」
 
  鑑定コラム639)「借地権付建物の基礎価格」

  鑑定コラム646)「自らの間違いを正当であると主張する不動産鑑定士がいるいる」

  鑑定コラム649)「積算賃料=実際実質賃料という等式が成り立つのか」

  鑑定コラム673)「減価償却費の求め方は、不動産鑑定士の自由な判断であるという主張」

  鑑定コラム1402)「築後52年の建物に新築価格の減価償却費を考える家賃の鑑定書」

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