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143)松下電産が松下電工を子会社化

 会社創立以来初めての大巾な赤字決算に陥りながら、大胆なリストラ、経営構造改善を断行して、見事にV字型企業収益回復を実現し、経営立直しに成功した松下電器産業の中村邦夫社長は、今や名経営者の一人に数えられようとしている。

 この松下電産の赤字決算の状況に付いては、鑑定コラム21)の 「セル生産方式」 の記事に述べている。

 その松下電産が、兄弟会社の松下電工を子会社化することにした。(2003年12月19日松下電器産業ホームページプレスリリース)

 松下電産が所有している松下電工の株式31.8%を51.0%に増やして、松下電工を松下電産の子会社にして、経営支配権を握るという。

 その19.2%(51.0-31.8=19.2)の株式取得を株式の公開買付によって行うという。
 公開買付予定価格は1株当り1,040円であり、これは、それまでの平均株価の30%高の金額という。
 いわば30%アップの買い進みである。この公開株式の買付による買い進みについては、『鑑定コラム』の81) 「買い進み修正率1.30、売り急ぎ修正率0.55」 でのべている。これは不動産鑑定で云う事情補正に当たる。即ちどうしても隣接土地が欲しいという場合の買い進み要因と同じである。

 松下電工は松下電産の兄弟会社であり、株式公開買付という方法を取らずに増資等の方法で、松下電産は経営権を握ることは出来たろうにと思われるが、株主優遇の政策のためにあえて株式公開買付の手法を選択したのか、どうも、その辺りのことは門外漢の私にはわからない。

 経営権を握るために51%の株式割合にする必要があり、その為に19.2%の株式の取得しなければならない。
 その対価(予定)が146,172百万円という。
 松下電工の売上高等は次の通りである。(14年11月末現在)

     売上高     859,361百万円
     営業利益     22,238百万円

     土地価格    101,833百万円
     建物価格    104,973百万円
      小計     206,806百万円
     有形固定資産  280,037百万円(土地、建物を含める)
 売上高に対する営業利益率は、
     22,238÷859,361=2.6%
である。

 甚だ厳しい見方をすれば、所有工場等の不動産を全部賃借していたとしたら、営業利益は家賃支払になり、営業利益はゼロ、もしくは赤字ということになる。この辺りが、松下電工が松下電産の子会社化になることを決意した要因の1つではなかろうかと、私は勝手に推測する。
 
 買収のための投下資本1461.72億円に相当する売上高、営業利益は、
     売上高   859,361×0.192=164,997百万円
     営業利益  22,238×0.192=4,270百万円
である。

 投下資本に対する売上高倍率は、
     164,997÷146,172≒1.13
である。4倍前後が適正倍率と思われるから、1.13倍は甚だ低い。

 売上高に対する投下資本の割合は、
     1/1.13≒0.88
である。0.25前後が適正割合と思われるから、0.88とは甚だ高い。

 投下資本に対する利益率は、
     4,270÷146,172≒0.029
で、2.9%である。この様な低利回りで合理的な経済人は企業買収するのであろうか。

 一方、松下電工の売上高に占める土地・建物の割合は、
     206,806÷859,361=0.240
で、1/4の割合関係にある。これは妥当な数字と思える。

 しかし、投下資本の割合でみた有形固定資産額は、
     280,037×0.192=53,767百万円
である。

 この有形固定資産に対する投下資本の割合は、
     146,172÷53,767=2.71
である。

 企業買収にあって、1つの大きな目安となるのは、有形固定資産額の金額であろう。それをはるかに超えて、それも2.71倍で製造企業買収することは異常ではなかろうか。特許等の無体財産の価値があるという言い訳は、充分あるであろうが。

 その異常性は、上記で分析した売上高倍率、投下資本利益率にも顕著に表れており、かつ、売上高にほぼ近い金額で製造企業を買収することにも、そのことがうかがえる。

 これらを考えると、松下電産による松下電工の子会社化は、松下電工の緊急な救済措置といえるのではなかろうか。

 企業の所有不動産の価格あるいは不動産鑑定の目で、本件の企業売買を見ると、経済合理性に基づく合理的な経済行為とは私にはとても思えない。

 となると、経営の合理化によってV字型収益回復で経営改善し、経営危機を乗り切った松下電産が、本体の立直しを終え、松下グループの本格的な再構築にシフトし、本体及びグループの収益性をより高めるための経済合理性の追求の経営方針に舵切りしたと見るべきか。

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