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1772)地代期待利回り

 2018年3月29日にコラムアップした鑑定コラム1758)「倉敷・岡山の土地還元利回り、建物還元利回り」で、土地還元利回りの求め方まで説明し、「次は、地代期待利回りの求め方である。それについて後日述べたい。」と記したが、その後地代期待利回りについて述べていない。今回その地代利回りについて述べる。

1.経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料の概念

 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、継続賃料の差額配分法の項において次のごとく述べる。

 「差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間で発生している差額について」(改正鑑定基準国交省版P34)

と、「経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料」と云い、経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料という新しい概念を記す。

 その新しい概念である経済価値に即応した適正な実質賃料とはどういうものかについて、「価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする」(改正鑑定基準国交省版P34)と述べる。

 経済価値に即応した適正な実質賃料とは、新規賃料であり、それは積算法、賃貸事例比較法等により求められるものということになる。

 経済価値に即応した適正な支払賃料ついては、基準は「契約に当たって一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。」(改正鑑定基準国交省版P34)という。

 権利金の要因は、実質賃料を形成していると解釈される。

 権利金は償却するものではないことから、権利金要因相当を実質賃料から控除することになる。

 権利金が授受されていることは、権利価格が発生していることになる。

 ここで権利金については、権利設定のために授受されている権利金が当然含まれるが、借地権の場合、自然発生的に形成されている借地権価格も含まれる。

 鑑定基準を読むと、「経済価値に即応した適正な賃料」は新規賃料であり、それは積算法と賃貸事例比較法等より求めるといっていることから、それは新規賃料であり、「経済価値に即応した適正な実質賃料」という用語による賃料を作る必要は無いのではないか、という疑問が基準を読む人には当然生じる。

 しかし、新規賃料であるという一方、敢えて「経済価値に即応した適正な実質賃料」と区分することは、違いがあるということを意味する。

 その解は、「実質賃料より権利金」と云っている個所にある。

 経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料とは、権利価格が発生している状態の実質賃料、支払賃料をいうのである。

 家賃の場合には、借家権価格が発生していることは少ないことから、積算法、賃貸事例比較法より求められた新規賃料となり、それはそのまま経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料になるが、地代にあっては借地権価格が発生しているのが一般的であることから、借地権価格要因を新規賃料より控除したものが経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料ということになる。

 地代における「新規賃料」と「経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料」の概念をまとめると、下記である。

 地代における新規賃料とは、借地権価格が発生していない状態の新規地代である。そうした地代は、唯一定期借地権の新規地代の場合しか無い。

 地代における「経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料」とは、新規地代であるが、借地権価格が発生している場合に、その要因を考慮した地代である。

 経済価値に即応した適正な支払賃料とは、価格時点で権利金相当を支払って、土地の新規賃貸借契約が結ばれる場合の支払地代を云う。

 自然発生的に借地権価格が発生している場合には、その価格相当の権利金の授受が価格時点でなされていると考えて、その状態の支払地代をいうのである。

 鑑定基準は、借地権の価格は、借地権者に帰属する経済的利益を云い、その発生について2つを挙げる。(改正鑑定基準国交省版P44)

 一つは、土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益という経済的利益を云う。

 他の一つの経済的利益は、賃料差額によって生じるとして、その賃料差額について次のごとく云う。

「借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という)」(改正鑑定基準国交省版P45)

 地代と借地権価格とは切っても切れない関係にある。

 その借地権の経済価値を求めるには適正な賃料(適正地代)が必要であり、その適正地代は、「借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料」ということになる。

 こうして考えると、地代の場合の「経済価値に即応した適正な賃料」とは、借地権が付着している状態の地代ということになる。

 これらの事について、鑑定基準は、もっと分かり易く記述してもよいでは無いのか。

 借地権が付着し借地権価格が発生しているにも係わらず、借地権価格の存在など無視し、更地価格に土地期待利回りを乗じて、それが宅地の経済価値に即応した適正な地代であるとし、その地代と実際実質地代の差額の1/2を従前地代に加算して、それが適正な差額配分法の地代であるとする地代鑑定書が後を絶たない。

 その地代は、借地人の権利価格である借地権価格の半分等を削りとって、地代としているが如きである。

 中には、もっとひどく、総合還元利回りを地代期待利回りとして地代を求めている鑑定書もある。

 こうした地代評価そのものが分かっていないと思われる鑑定書が出回っている状況は、鑑定業界としては由々しき問題である。

 地代の個所の鑑定基準が充分で無く、継ぎ接ぎの基準の部分もあり、分かり難い。

 それによって前記のごとくの鑑定書が出現している。

 加えて平成26年鑑定基準で、賃貸事業分析法が導入され、その手法は土地残余法の手法であると鑑定基準が記した。

 現在の土地残余法は、償却前純収益、償却前還元利回りを使用して土地収益価格を求める。

 このことから、そうして求めた純収益、還元利回り(期待利回り)を使用して、地代を求める鑑定書が出回り出した。

 家賃は土地建物所有者が同一人であるから償却前の期待利回りを使用し、必要諸経費も償却前必要諸経費で行っても、結果は同じで問題が生じないが、土地建物の所有者が異なる地代評価に、必要諸経費を償却前の必要諸経費で把握すると、減価償却費が純収益に入り、かつ、期待利回りに減価償却費が含まれる期待利回りとなり、本来減価償却費は建物所有者の利益、即ち借地人の利益であるべきものが、地代として借地人が負担するという現象が生じる。

 そうして求められている賃貸事業分析法の求め方は根本的に間違っていると裁判で指摘しても、鑑定基準通りに行っており、間違いではない。適正な求め方であると反論される始末である。

 平成26年鑑定基準改正の賃貸事業分析法は、減価償却費が地代を形成するというとんでもないことをしでかしてくれた。早々に再改正した方がよい。

 地代評価にかなり混乱を来している。

 地代の部分の鑑定基準は、もっと分かり易く、書き直すべきと私は思う。

2.土地期待利回り

 評価対象地の上に、当該土地の建築基準法制限内の賃貸建物を想定し、その賃貸建物の賃料収入より、減価償却費込みの必要諸経費を控除して、純収益を求める。

 この純収益を当該土地建物の価格で除したのが、総合還元利回りである。

 この総合還元利回りから、建物還元利回りと土地還元利回りを区分して求められたものが土地の還元利回りであり、それが土地期待利回りである。

 鑑定コラム1747)「京都右京区の住宅地の土地還元利回りは2.2%である」で求められている2.2%の土地還元利回りが土地期待利回りである。

 鑑定コラム1758)「倉敷・岡山の土地還元利回り、建物還元利回り」で求められている岡山の1.5%、倉敷の1.5%の土地還元利回りが、土地期待利回りである。

3.借地権価格の発生

 上記土地期待利回りには、借地権価格が発生していない。

 普通の借地権(旧借地法適用の借地権を云う。以下同じ)の地代の場合には、借地権価格が発生しているから、上記土地期待利回りは、地代期待利回りにはなり得ない。

 唯一なり得るものがある。それは定期借地権の地代期待利回りの場合である。

 定期借地権は、原則として借地権価格は発生しない。それ故、その地代は普通の借地権の地代よりも遙かに高い地代となる。更地価格に土地期待利回りを乗じた金額以上の地代水準となる。つまり借地権の経済的利益の差額が生じない金額となり、借地権価格は発生しないことになる。

 普通の借地権の地代は、更地価格に土地期待利回りを乗じた金額より、かなり低額の地代水準にある。

 この開差、即ち更地価格に土地期待利回りを乗じた金額に土地公租公課を加えた金額(これを新規実質地代と呼ぶ)と、現行支払地代との開差が、借地権価格の発生となる。

 或いは公租公課を除いたそれぞれの純地代の開差が、借地権価格の発生となる。

 更地価格に相続税の借地権割合を乗じたものが、借地権価格であるという鑑定書を多く見かけるが、その様な安易な求め方で借地権価格を求めるべきものではない。

 たとえそうした借地権割合を使用したとしても、名儀書替料、更新料、建替承諾料、条件変更承諾料等の費用の有無を考えなければならない。

4.地代期待利回り

 賃料差額から借地権価格を求める場合、鑑定基準は、前記したごとく「借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という)」(改正鑑定基準国交省版P45)と云っている。

 このことから借地権が付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料とは、更地価格に土地期待利回りを乗じた金額に、更地価格を1とした場合の借地権割合(一応賃料差額から求められた借地権価格を当該土地の更地価格で割った割合とする)を控除した割合を乗じ、それに公租公課を加算した金額となる。

 算式で示すと、下記である。

   更地価格×土地期待利回り×(1−借地権割合)+土地公租公課

 ここで、

             土地期待利回り×(1−借地権割合) =地代期待利回り

で求められる割合を「地代期待利回り」とすれば、上記適正地代を求める算式は、

      更地価格×地代期待利回り+土地公租公課

となる。

5.地代

 鑑定コラム1747)記述の京都北区の地代分析例を採用して、以下説明する。記述はダブルが、そこは辛抱して読んで欲しい。

 鑑定コラム1747)で、京都の土地期待利回り(土地還元利回りに同じ)は、2.1%と求められている。

 借地権割合を60%とすると、地代期待利回りは、上記分析から、
 
             2.1%×(1−0.6)=0.84%

0.84%である。

 更地価格を77,550,000円とし、土地公租公課が320,000円とすれば、適正地代は、

           77,550,000円×0.0084+320,000円=971,420円

である。

 月額地代は、

             971,420円÷12=80,952円

である。

 土地面積が300uであったとすれば、u当り地代は、

            80,952円÷300u≒270円

である。

6.検証

 上記から、京都市北区の住宅地の継続地代は、月額u当り270円と求められた。

 では、この継続地代が現実の京都市北区の継続地代水準と、どういう関係にあるのか。

 このことについては、鑑定コラム1747)で記述していることから、その部分をそっくり下記に転載する。

        
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 京都市内の借地権付建物の売り物件から、地代水準を調べてみる。

 借地権の売物件は多くあるものではない。京都北区内に1件、下記の借地権付建売住宅の売り物件があった。

 平成30年2月28日現在で、知事登録免許(5)の京都市上京区の不動産業者が、京都市北区柴竹西南町(地下鉄烏丸線北大路駅徒歩14分)の住宅地で借地権付戸建住宅を売り出している。

 その売出借地権付戸建住宅の借地は、旧借地法適用の借地で、借地面積67.31u、月額地代18,324円である。

                18,324円
             ────── = 272円                                  
                67.31u

 地代はu当り272円である。

 上記分析で求められた地代は、u当り270円であった。北区の住宅地の実際の地代事例は、u当り272円である。

 分析結果は、実証のデータから検討して、的はずれの分析では無いと判断される。

****



  鑑定コラム1747)
「京都右京区の住宅地の土地還元利回りは2.2%である」

  鑑定コラム1758)「倉敷・岡山の土地還元利回り、建物還元利回り」


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