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1747)京都右京区の住宅地の土地還元利回りは2.2%である

 この鑑定コラムは、鑑定コラム1742)「京都右京区のマンションの還元利回りは3.0%」の続きである。

 上記コラムは、土地建物の総合還元利回りを求める内容であった。

 土地建物それぞれの還元利回りは、何%かについては論じていなかった。

 今回のこのコラムは、総合還元利回りから土地の還元利回り、建物の還元利回りをどの様にして求めるのかの内容のコラムである。

1.総合還元利回りとは

 総合還元利回りとは、土地建物が複合不動産として一体とした利用から得られる純収益を、その一体不動産の価格で除した利回りを総合還元利回りと云う。

 総合還元利回りは、家賃の還元利回りとも呼ばれる。家賃の利回りである。

 前の鑑定コラム1742)「京都右京区のマンションの還元利回りは3.0%」のコラム記事に記した3.0%の還元利回りは、総合還元利回りである。

2.複合不動産の収益価格

 土地建物が一体利用されているマンション、貸ビル等の賃貸複合不動産の純収益を、総合還元利回りで除して求められる価格は、収益価格と呼ばれる。

3.総合還元利回りは地代の期待利回りにはならない

 総合還元利回りを地代の期待利回りであるとして、土地価格に総合還元利回りを更地価格に乗じて、求められた金額が純地代として求めている地代評価書に遭遇したことがあるが、総合還元利回りは土地建物の複合した状態の利回りである。

 それは、土地単独の還元利回り若しくは地代の期待利回りになるものでは無い。

 地代の期待利回りは、土地の還元利回りから求められるものである。

 総合還元利回りは、複合不動産の純収益から求められるものであり、土地の還元利回りは、土地の純収益から求められるものである。

 複合不動産の純収益と土地の純収益とは、類型が異なる純収益である。

 類型が異なる純収益から求められる総合還元利回りと土地の還元利回りとは明確に異なり、総合還元利回りが土地の還元利回りにはなり得ない。地代の期待利回りにもなり得ない。

 土地の還元利回りは、更地の還元利回りに同じものである。

 地代の期待利回りは、土地の還元利回りに借地権要因を考慮した土地の還元利回りである。つまり借地権価格要因が付着している土地の還元利回りである。地代の純地代(純収益)を地代の期待利回りで割ると更地価格が求められる。

 後記の京都北区の地代の期待利回りは、0.0084(0.84%)であり、地代の純地代は651,420円である。

 651,420円を0.0084で割ると、

             651,420円÷0.0084=77,550,000円

が求められる。

 77,550,000円は、北区の想定住宅地の更地価格である。

 還元利回りと期待利回りは、貨幣の表裏のごとくの関係にある。

 純収益を土地建物の価格で割ったものが、還元利回りである。

 土地建物の価格に掛けて純収益を求めるものが、期待利回りである。

 算式で示すと、下記である。

    土地建物の純収益
     ──────────  = 還元利回り                           
    土地建物の価格

    土地建物の価格×期待利回り =  土地建物の純収益

 総合還元利回り、土地還元利回り、建物還元利回り、地代期待利回りの関係を図示すると、下記である。

               複合賃貸不動産の純収益と土地建物価格
                               ↓
        総合還元利回り(総合期待利回り)
                      ↓               ↓
               土地還元利回り     建物還元利回り
               (土地期待利回り)   (建物期待利回り)
                      ↓
               地代期待利回り

4.総合還元利回りを地代の期待利回りとする地代鑑定書に遭遇した

 上記で述べたごとく、複合不動産の還元利回りと土地の期待利回りは類型が異なり、同じもので無い。

 そして地代の期待利回りは、土地の還元利回り(土地の期待利回りに同じ)に借地権要因を考慮して求められるものであることから、土地の還元利回りとも異なる。土地の還元利回りよりも低い利回りとなる。

 例えば、土地の還元利回りを2.2%とする。そして借地権割合を60%とする。

 その場合の地代の期待利回りは、

      2.2%×(1-0.6)=0.88%

0.88%である。

 それ故、総合還元利回り(3.0%)と地代の期待利回り(0.88%)とは全く別の利回りである。

 それにも係わらず、地代訴訟において、裁判所の鑑定人不動産鑑定士の地代鑑定書で、総合還元利回りを地代の期待利回りに採用する鑑定書に遭遇した。

 そのことはどういうことかと、具体的に云えば、前記した鑑定コラム1742)「京都右京区のマンションの還元利回りは3.0%」の3.0%を地代の期待利回りとして、更地価格に乗じて、その金額を純地代と求めるごとくである。

 裁判所の鑑定人不動産鑑定士は、土地の還元利回りと建物の還元利回りは同じであるから、総合還元利回りは土地の還元利回りでもあり、総合還元利回りを土地の還元利回りに採用することは間違っていないと回答して来た。

 そして又、土地の還元利回りと地代の期待利回りは同じであるから、土地の還元利回りを地代の期待利回りに採用することは間違っていないと回答して来た。

 総合還元利回りと土地の還元利回りとは異なっている。土地の還元利回りと建物の還元利回りとは同じではない。

 土地の還元利回りと地代の期待利回りとは異なっている。

 それ故、鑑定人の鑑定書は、地代の期待利回りが根本的に間違っており、不適切鑑定であるとどれだけ主張しても、裁判官は、裁判所選任の鑑定人不動産鑑定士の求めた地代が正しいと信じ込み、純地代は、総合還元利回りを土地価格に乗じた額とする裁判鑑定書の金額が適正と認める判決をだしてしまった。

 その一審判決を控訴審も支持してしまった。最高裁に上告しても、あっさりと上告棄却である。

 裁判官は、適正な地代の求め方を理解しているのかと嘆くばかりである。

 真っ当な地代鑑定が否定され、上記で述べたごとくのおかしな裁判鑑定が適正であるとする判決が出される。

 かくのごとく、裁判所の鑑定人不動産鑑定士の鑑定書は、裁判官から信頼されているのであるから、不動産鑑定士はもっと賃料評価について勉強してくれないか。

5.土地の還元利回りと建物の還元利回りとは異なる

 土地の還元利回りを2%とすると、建物の還元利回りは5%と云う具合に、土地の還元利回りと建物の還元利回りとは異なる。

 そして、建物の還元利回りは、土地の還元利回りよりも高くなっている。

 不動産鑑定基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、還元利回りを求める方法として4つの手法を挙げるが、その中の一つに「土地と建物に係わる還元利回りから求める方法」がある。そのことについて、鑑定基準は次のごとく述べる。

 「この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係わる各還元利回りを各々の価格構成割合により加重平均して求めるものである。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P30)

 鑑定基準は、土地、建物に係わる「各還元利回り」と云う。このことは、土地と建物の還元利回りは、異なっていると云うことを示している。

 土地建物の還元利回りが同じであるならば、土地建物の価格構成割合による加重平均で求めることの必要性は無い。これは土地建物の還元利回りが異なっているために行う行為である。

 土地建物の還元利回りが、何故異なるかと云うことについては、拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P62(プログレス 2017年2月)で、次のごとく記している。

 「建物の期待利回りは、土地の期待利回りより何故高いかについては、私は建物の経済的耐用年数が来た時に、建て替えるため即ち再取得するための資金の積み立て額が必要であり、その金額の利回り相当分が土地利回りよりも高いと考える。」

6.償還基金率

 償還基金率とは、n年後1円にするために毎期末に預託すべき率をいう。
 耐用年数n年の建物の取得価格を、n年後に再取得するために、年利率rで年末に一定額を償却額とし積立てる場合に使用する率が償還基金率である。

 償還基金率の算式は

r ─────────    (1+r)のn乗 −1
            但し、r:利率                n:年数

である。年金終価率の逆数である。

7.京都右京区の土地の還元利回り

 京都右京区の住宅地に想定したRC造3階建の賃貸マンションの総合還元利回りは、3.0%と求められている。

 この利回りから、土地、建物の還元利回りを求める。

 土地の還元利回りをXとする。

 建物の還元利回りは、


                    X + 償還基金率相当

とする。

 建物の経済的耐用年数を40年とする。平均償却率は、

                    1/40 = 0.025

0.025である。

 この0.025を償還基金率を求める利率とする。

 利率0.025、期間40年の償還基金率は0.015である。

 建物の還元利回りは、X+0.015である。

 総合還元利回りと土地建物価格、土地建物個別還元利回りの間には、次の関係式が成り立つ。

    土地価格×土地還元利回り+建物価格×建物還元利回り
     ───────────────────────      = 総合還元利回り
                土地価格+建物価格

 土地価格は、52,650,000円である。

 建物価格は、53,280,000円である。

 土地建物価格の合計は、105,930,000円である。

 総合還元利回りは3.0%である。

    52,650,000×X +53,280,000×(X+0.015)
  ────────────────────────── = 0.030       
              105,930,000

 これを解けば、

                    X=0.022

である。

 土地の還元利回りは、2.2%である。

 建物の還元利回りは、

                    2.2%+1.5%=3.7%

である。

 京都右京区の住宅地の土地の還元利回りは、2.2%である。

8.京都の他の区の賃貸マンションの土地の還元利回り

@ 京都各区の住宅地の土地300uの住宅地価格
 
 平成29年1月1日時点の京都市の住宅地の平均価格は、下記である。単位はu当り円である。この価格を価格時点のu当り価格とする。

       北区             258,500円
              上京区           298,000円
              左京区           234,000円
              中京区           251,000円
              東山区           215,000円
              下京区           218,000円
              南区             171,200円
              右京区           175,500円
              伏見区           148,600円
              山科区           130,800円
              西京区           194,200円

 上記u当り単価の300uの土地価格は、下記である。

       北区             77,550,000円
              上京区           89,400,000円
              左京区           70,200,000円
              中京区           75,300,000円
              東山区           64,500,000円
              下京区           65,400,000円
              南区             51,360,000円
              右京区           52,650,000円
              伏見区           44,580,000円
              山科区           39,240,000円
              西京区           58,260,000円

 建物価格は、各区とも53,280,000円と同じである。

 京都各区の住宅地の総合還元利回りは、鑑定コラム1742)で、下記と求められている。

       北区             2.7%
              上京区           2.8%
              左京区           2.8%
              中京区           3.9%
              東山区           3.3%
              下京区           3.9%
              南区             3.2%
              右京区           3.0%
              伏見区           3.0%
              山科区           3.0%
              西京区           2.8%

 上記右京区と同じ求め方で、京都市の他の区の住宅地の土地の還元利回りを求めると、下記である。

       北区             2.1%
              上京区           2.2%
              左京区           2.2%
              中京区           3.3%
              東山区           2.6%
              下京区           3.2%
              南区             2.4%
              右京区           2.2%
              伏見区           2.2%
              山科区           2.1%
              西京区           2.1%

9.地代の期待利回りと地代

 上記で求められた土地の還元利回りは、土地の期待利回りに同じである。

 土地の期待利回りより、地代の期待利回りを求める。北区の住宅地の地代の期待利回りと地代を考える。

 北区の土地の期待利回り(土地の還元利回り)は、上記より2.1%である。

 借地権割合が60%とすれば、北区の地代の期待利回りは、

                2.1%×(1−0.6)=0.84%

0.84%となる。

 この割合を更地価格に乗じたものが純地代となる。北区の場合、

          77,550,000円×0.0084=651,420円

651,420円が純地代である。これは年額の純地代である。

 これに土地の公租公課を加えたのが、価格時点の適正地代(年額)である。

 土地の公租公課(固定資産税と都市計画税)は、それぞれの土地により異なる。

 仮に、土地の公租公課を320,000円とすると、適正地代は、

             651,420円+320,000円=971,420円

である。

 月額地代は、

             971,420円÷12=80,952円

である。

 u当り地代は、

            80,952円÷300u≒270円

である。

 果たして、この地代は ?

 この地代と現行支払地代との開差を埋める手法が、継続地代を求める手法の一つである差額配分法であり、その手法から求められる地代が、差額配分法地代である。

10.求められた地代の検証

 上記分析で、北区の住宅地の地代は、u当り270円と求められた。この地代は妥当かどうか、北区内の住宅地の借地の実際の地代例から検討してみる。

 京都市内の借地権付建物の売り物件から、地代水準を調べてみる。

 借地権の売物件は多くあるものではない。京都北区内に1件、下記の借地権付建売住宅の売り物件があった。

 平成30年2月28日現在で、知事登録免許(5)の京都市上京区の不動産業者が、京都市北区柴竹西南町(地下鉄烏丸線北大路駅徒歩14分)の住宅地で借地権付戸建住宅を売り出している。

 その売出借地権付戸建住宅の借地は、旧借地法適用の借地で、借地面積67.31u、月額地代18,324円である。

                18,324円
             ────── = 272円                                  
                67.31u

 地代はu当り272円である。

 上記分析で求められた地代は、u当り270円であった。北区の住宅地の実際の地代事例は、u当り272円である。

 分析結果は、実証のデータから検討して、的はずれの分析では無いと判断される。

 更地価格に総合還元利回り2.1%を乗じて純地代を求め、公租公課を加算した地代が適正であるとしたら、求められる地代はとんでもない高い地代となることが分かろう。前記地代判決例では、その地代が適正であるとするのである。


  鑑定コラム1742)
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  鑑定コラム1734)「1月末の京都は寒かった」

  鑑定コラム1633)「土地価格に家賃利回りを乗じて地代を求めるな !」

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