○鑑定コラム
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空室損失とは、建物を賃貸している場合に、空室が生じることによって発生する家賃未収入の損失をいう。
空室であっても、共用部分の清掃や固定資産税等を支払わなければならないから、その損失相当と考える人もいるかもしれないが、その様な損失ではない。
共用部分の電気代・清掃費・固定資産税等は空室の有無に関係無く、費用計上されて居ることから、空室が生じたからと言って、新たにそれらによる損失は生じない。
過日、継続家賃の訴訟で、裁判所が選任した鑑定人不動産鑑定士作成の継続家賃の鑑定書が郵送されてきた。
知り合いの弁護士から、
「不動産鑑定書は難しくて、よく分からないから専門家の目で見て、内容を検討して欲しい。」
ということであった。こうしたことは今迄にも何回も有る。
他人の不動産鑑定書のあら探しをするのが私の商売では無いが、知り合いの弁護士の頼みということもあり、送られてきた不動産鑑定書に目を通した。
読んでいて甚だ分かりにくい不動産鑑定書であった。
不動産鑑定書、特に賃料の鑑定書は分かりにくいものが多い。偉そうに聞こえるかもしれないが、謙虚に云っても、分かりにくさには慣れている私ですら理解に苦しむ内容のものであった。
とてもではないが、事件担当の裁判官が内容を理解するのは、そして何処が間違っているのか発見する事は、まず出来ないであろうと思われる内容の不動産鑑定書であった。裁判官は内容が理解出来ないゆえ、専門家の判断だから正しいんだとして、判決されてはたまったものでない内容の鑑定書である。
何の説明もされずに数値が突然出てくるのには閉口する。どうしてこの数値なのだ。その根拠は?。と思われるものばかりである。
論理の統一性は無く、家賃の求め方が根本的に分かっていないのでは無いかと思われる個所が随所にあった。
その中の一つに、家賃の必要諸経費に空室損失が計上されてあった。
賃料収入の5%の金額であった。
空室損失は賃料の必要諸経費を構成する費用項目であろうか。
空室損失は賃料収入のリスクに属するもので、賃料の必要諸経費では無い。 しかし、悲しいことに、現行の『不動産鑑定評価基準』は、賃料の必要諸経費に次のものを挙げ、その中に空室損失が入っている。
・減価償却費
・公租公課
・修繕費
・管理費
・火災保険料
・空室損失
・貸倒引当金
『不動産鑑定評価基準』が「空室損失」を賃料の必要諸経費として明記して有るために、「空室損失」は必要諸経費であると思いこんで、支払賃料の1ヶ月とか、年間賃料の5%とか10%の金額を「空室損失」として計上してくる不動産鑑定書が、あとを絶たない。
「空室損失を計上するのは間違いである」
と指摘すると、代理人弁護士を通じて『不動産鑑定評価基準』の必要諸経費のページをコピーして、証拠提出してくる。
そして代理人弁護士は云う。
「『不動産鑑定評価基準』に必要諸経費の項目として「空室損失」は挙げてある。項目としてあげて有るから、計上するのが正しい。
計上するのが間違いと主張する田原不動産鑑定士の方が間違っている。」
と主張してくる。
こちらの方が間違っていると逆襲してくるのである。
無知と言うのか、それを通り越して立派と言うのか、あきれかえざるを得ない主張である。
継続賃料というのは、賃貸借契約が存在している状態の賃料である。
賃貸借契約があるということは、当該店舗・居室・事務所には空室は発生しない。
空室の発生する余地は無い。
賃貸借契約が結ばれているのに、どうして空室が発生するのか。
そして、5%もの金額を支払わなければならないのか。
他の階に空室が有った場合、その収入減を考えるべきであるという意見があろうが、それは貸主の収入上の経営の問題である。
既契約の当該賃料が、他階の空室の賃料の負担を何故しなければならない義務があるのか。その様な義務など無い。そんな賃貸借契約書などみたことは無い。
賃料は、
純賃料+必要諸経費=賃料
で構成されている。
この必要諸経費の構成項目は、前記した通りであるが、この中の空室損失に5%の金額が計上されれば、その分だけ賃料は高くなる。
つまり、合理的根拠無く賃料は高く求められることになる。
そして、それは鑑定人不動産鑑定士の評価したものであり適正であると、何も知らない裁判官は間違いを間違いと認識せず、そのまま判決採用してしまう。
判決は強制力を持っているから始末が悪い。賃借人は不合理な賃料の支払いを強制されることになる。
高裁に一審の判決は間違っていると控訴すれば、高裁は中味の吟味をするのは面倒であるので、一審の判断は適正で有ると、お茶を濁すごとくの判決文を書いて、間違いを更に正当化してしまう。
何ともやりきれない、おかしな賃料裁判が一部の裁判で行われている。
代理人弁護士も、鑑定評価の内容が間違いであっても、結果が依頼者側に有利な場合には、全く沈黙してしまう。
逆に、
「 裁判所が指定した鑑定人の鑑定結果が適正であり、それに裁判所は従うのが当然である。」
と主張してくる。鑑定評価の内容が間違いで、依頼者側に不利な結果だったとしても、果たしてその代理人弁護士は同じ主張をするものかどうか。
社団法人日本不動産鑑定協会、監督官庁の国土交通省は、空室損失の必要諸経費計上は間違いであるから、それをどうして訂正しょうとしないのであろうか。
訂正しないために迷惑を受けている人、被害を受けている人が多くいるのに、どうして放置しているのであろうか。消費者のために不動産鑑定は有るのでは無かろうか。
賃料など不動産鑑定では小さいものであって、そのためにわざわざ『不動産鑑定評価基準』を改定する必要など無いと思っているのであろうか。或いは地価公示価格を中心とする土地価格を監督するのが、国土交通省の地価調査課の役目で、賃料など知らないとでも考えているのであろうか。
私が行為として最も嫌う「不作為の作為行為 」なのか。
現在、キャシュフローによる収益価格による土地価格の求め方が全盛である。
そのキャシュフローでは、減価償却費は金銭の支出が無いことから、経費計上しない。
そのうちに、こうした考え方で育ち、慣れてしまい、それが当然と思いこんでしまった不動産鑑定士が、今度は、減価償却費を家賃の必要諸経費に計上せずに家賃評価する不動産鑑定書が、大手を振るって闊歩するようになるのでは無かろうか。
空室損失については、下記の鑑定コラムにも記事があります。
鑑定コラム347)『不動産鑑定評価基準』はダブルスタンダードなのか
鑑定コラム579)空室損失は経費ではない
鑑定コラム1133)何度言えばわかるであろうか 空室損失は経費では無いと
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