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4.Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない
Jリートとは、東京証券取引所に上場されている不動産投資信託をいう。
三井不動産系列の日本ビルファンド投資法人をトップにして、2013年6月末で41の投資法人の銘柄が上場されている。
41の上場投資法人がリートとして持つビルの数は、不動産証券化協会によれば、2013年6月末で2,345棟である。保有残高は、取得時価ベースで、10.3兆円である。
そのJリートが、所有しているリート物件の還元利回りを発表している。
そのJリートが発表する還元利回りを、賃料評価の期待利回りに使用あるいは援用する賃料鑑定書が現れだした。
以下のごとくである。
「対象建物と地域性、建物用途も同じくするJリートの賃貸建物の還元利回りは、5.4%である。減価償却費を考慮して本件の期待利回りを4.5%とする。」
と言うごとくである。
上記のごとくの記述の鑑定書を読めば、多くの人々は、下記のごとく判断するのでは無かろうか。
「地域性も同じで、建物用途も同じであり、かつ上場されているJリートの物件の利回りであれば信頼出来る。
何故なら、その不動産の価格は、専門家である不動産鑑定士が鑑定評価していることから、そこで求められている5.4%の還元利回りは信頼性が高い。
減価償却費も考慮されていることから、求められた4.5%の期待利回りは適正と判断出来る。」と。
地域的、用途的に類似的であるからと、Jリートの物件の利回りを持ってきて、そして減価償却費を考慮しているからと云って、その利回りを賃料の期待利回りにすること、或いは援用することは根本的に間違っている。
間違っているということを、以下に説明する。
Jリートが発表する還元利回りは、NCFキャップレートである。
NCFキャップレートは、ネットキャッシュフロー(Net Cash Flow)の純収益に対する利回りである。
NCF純収益は、NOI(Net Operaiting Income 純営業収益、減価償却前営業利益)に敷金運用益を加算し、資本的支出(CAPEX)を控除した純収益である。
投資法人が発表するNCFキャップレートは、どの様にして求められているのかと云うと、その求め方は極めて単純である。
NCF純収益
───────────
不動産鑑定評価額
で求められる。
つまり、当該リート物件の不動産鑑定評価額が先に求められており、その金額に対する当該リート物件のNCF純収益の割合が、投資法人が発表しているNCFキャップレートと言うことである。
では、分母となる不動産鑑定評価額と言うものはどういうものなのかということになる。
それは、当該リート物件の価額には違いないが、価格の種類は、収益価格であるということである。
収益価格とはどういうものかと言うと、純収益を還元利回り(ここで云う還元利回りは、上記の説明によって求められるNCFキャップレートでは無い。別の手法で求められる還元利回りである。これがどの様にして求められているのかは、前記3章に記したごとくの還元利回りである。)で除して得られた価格を収益価格という。
不動産の価格には、
積算価格
収益価格
比準価格
の3つがある。
積算価格は、原価的要因から価格をみる手法の価格で、一棟の建物の場合、土地は取引事例比較法より更地価格を求め、建物は原価法で建物の積算価格を求める。求められた両価格を加算して求められた不動産価格である。
比準価格とは、市場性の面より価格を見る手法で求められる価格で、土地建物を一体とした複合不動産の状態で取引された取引事例より比較して求められた価格である。
収益価格については、先に述べたから省略する。
Jリートの物件の価格は、収益価格が不動産鑑定評価額である。
Jリートの物件の価格として採用されるのは、積算価格でも比準価格でもなく、収益価格である。
それは、各投資法人の有価証券報告書にはっきりと明記されている。
例えば、日本ビルファンド投資法人の第23期有価証券報告書(平成25年3月28日 関東財務局提出)のP87に、次のごとく記されている。
「全て収益価格での不動産鑑定評価額」
と。
三菱地所系のジャパンリアルエステイト投資法人の第23期有価証券報告書(平成25年6月25日)のP45では、
「収益価格を採用することにより鑑定評価額が決定されています。」
と記されている。
他の投資法人の不動産鑑定評価額も全て収益価格である。
投資法人が発表するNCFキャップレートは、先に説明したごとく、
NCF純収益
──────────
不動産鑑定評価額
で求められた利回りであるが、それは、
NCF純収益
──────────
収益価格
の利回りであるということになる。
即ち、投資法人が発表するNCFキャップレートは、収益価格に対応する利回りである。
賃料評価の積算賃料の基礎価格は、
土地の更地価格+建物の積算価格
で求められる価格である。つまり積算価格である。
そして賃料の純賃料(純収益)は、
基礎価格×期待利回り=純賃料
で求められる。
Jリートの還元利回りは、前記したごとく収益価格の鑑定評価額より求められた利回りである。
価格を求める還元利回りと賃料を求める期待利回りとは、貨幣の表と裏の関係にあるとして、即ち、
還元利回り=期待利回り
とすると、収益価格に対応する還元利回りを積算価格に対応する期待利回りに採用してよいものであろうか。
価格の種類が異なるものから成り立っている利回りを、同一として論じることが出来るであろうか。それは出来ないであろう。
積算価格=収益価格
では無いかと思われる人がいると思うが、両価格は金額でイーコルでは無い。
Jリートの評価額にあっては、
収益価格 > 積算価格
である。
収益価格が積算価格より20%〜30%高はザラである。50%高であるのも珍しくない。
例えば、
NCF純収益 10億円
積算価格 150億円
の賃貸不動産があったとする。
この物件の還元利回りは、
10
──── ≒ 0.067
150
6.7%である。
収益価格が、積算価格の50%アップの価格であった場合は、
10 10
───── =──── ≒ 0.044
150×1.5 225
4.4%である。
積算価格の場合 6.7%
収益価格の場合 4.4%
となる。
分子の純賃料が一定の場合、分母の価格が50%上がれば、利回りは
、
6.7%÷1.5≒4.4%
と下がるのである。
即ち、価格が倍になれば、利回りは1/2になるという経済経験則に従うのである。
収益価格の純収益は、減価償却費相当が含まれている純収益である。それ故その純収益によって得られた利回りは、減価償却費の要因を含んでいる利回りである。
減価償却費を含まない利回りにするには、減価償却費相当を控除しなければならない。控除する減価償却費相当の利回りを1%とすれば、
4.4%−1.0%=3.4%
3.4%が利回りとなる。
以前裁判所鑑定人不動産鑑定士の鑑定書で、減価償却費率が甚だ高い率が求められ、その結果期待利回りが甚だ低く求められ、結果積算賃料が安くなり、とんでもなく安い鑑定人の賃料評価額となり、裁判官はそのまま判決を書き、負けてしまった経験がある。
その原因は、減価償却費率の分母を建物価格にして計算している為に、減価償却費率が高く求められていたのである。
減価償却費率は、土地・建物価格に対する減価償却費の割合である。
当の鑑定人不動産鑑定士は、減価償却費/建物価格 で減価償却費率を計算していたのである。土地価格を無視して求めているから、当然、減価償却費率は高く求められる。
その求め方は間違っていると意見書を出して反論したが、裁判官は聞く耳を持たず、鑑定人の低い賃料が正しいとして採用され裁判は負けてしまった。
話が横道にそれた。話を元に戻す。
何故減価償却費相当の利回りを1%を控除しなければならないかというと、積算賃料を求める期待利回りは、その利回りには減価償却費要因が含まれていないため、それと類型を同じくするためである。
前記したごとく、
還元利回り=期待利回り
であるから、期待利回りは3.4%と求められる。
こうして求められた期待利回り3.4%を、Jリート物件と地域が同じで、利用用途も同じであるからと云って対象不動産の賃料の期待利回りに使用してよいものであろうか。
求められた3.4%の利回りは、収益価格に対応する利回りである。
純賃料を求める算式は、前記した
積算価格×期待利回り=純賃料
である。
この算式の期待利回りは、積算価格に対応する利回りでなければならないであろう。
ここに3.4%を採用した場合、それは、
積算価格×収益価格に対応する期待利回り
という算式になる。
その様な算式は、数学として成立しない。
つまり上式の算式は間違っていることになる。
Jリートの還元利回りは、賃料評価の期待利回りには使えないということである。
もう一つ致命的な不可要因がある。それを述べる。
Jリートの賃料は、新規契約した賃料というものは、極少なく、ほとんどが継続している賃貸借契約の賃料である。
その賃料から求められる純収益は、継続賃料の純収益である。
継続賃料の純収益から求められた還元利回りは、継続賃料の要素を持った利回りと云うことになる。
つまり、Jリートより求められた還元利回りは、継続賃料の還元利回りということになる。
積算賃料は新規賃料であり、純収益は新規賃料より求められた純賃料でなければならない。
期待利回りは新規賃料形成する利回りで無ければならせない。
積算賃料の純賃料=基礎価格×期待利回り(新規賃料によって求められた利回り)
上記算式によって求められた純賃料に必要諸経費を加算したものが、積算賃料である。
この期待利回りに、継続賃料で求められた利回りを使用することは、不可であろう。
この要因を全く考えずに、Jリートが発表している還元利回りのデータを20件、50件とか中には100件近くのデータを集め、その平均を求め、その値を期待利回りに採用している賃料鑑定書も見受けられる。
酷な言い方であるが、その賃料鑑定書の期待利回りは、的はずれも甚だしく適正な期待利回りとは云えない。求められた賃料は、論理的に正当性は無い。
その賃料鑑定書は、賃料鑑定失格の鑑定書ということになる。
Jリートの発表利回りは、積算賃料の期待利回りには使え無いと云うことが、以上の説明で分かったであろう。
(著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P78 プログレス)
5.還元利回り・期待利回り
還元利回りは、純収益を還元して元本価格を求める利回りである。期待利回りと表裏一体の関係にある。価格を求める時に使用されるものである。
求める算式は、
純賃料÷還元利回り=土地、建物の価格
である。
これに比し、期待利回りは賃料を求める時に使用される利回りである。
求める算式は、
土地、建物の価格×期待利回り=純賃料
である。
2つの算式を見ればわかるが、還元利回り・期待利回りは、純賃料とその元本である土地、建物の価格の間を取り持つ利回りであり、割る場合(価格を求める)が還元利回り、掛ける場合(賃料を求める)が期待利回りである。
期待利回りと還元利回りは、貨幣でいえば表と裏の関係にあると云える。
期待利回りは賃貸借期間に対応する利回りであるが、還元利回りは当該不動産が消滅するまでの全期間に対応する利回りである。
両利回りは、地域と個別性で形成される。
当該不動産が属する地域の土地価格、地域で形成されている賃料、当該建物の建築年数等の個別性、そして契約内容の個別性を反映して形成されるものであり、各建物ごとに還元利回り、期待利回りは異なって形成されてしかるべきものである。
還元利回り・期待利回りは、土地建物の価格と家賃の純賃料より求められるものであり、総合還元利回り・総合期待利回りを云う。
土地還元利回り(土地期待利回り)、建物還元利回り(建物期待利回り)は、それぞれの総合利回りから求められるものであり、土地還元利回り(土地期待利回り)、建物還元利回り(建物期待利回り)が、独立して求められるものではない。
土地還元利回り4.4%と言った場合、総合還元利回りがその前に求められているものであり、総合還元利回りが求められていなくて、土地還元利回りが先に独立して存在するものではない。(2回目終了 (3)に続く)
鑑定コラム1974)「講演「還元利回り・期待利回りの求め方」の内容(1)」
鑑定コラム1817)「千葉県不動産研究会での正規分布・回帰分析の講演」
鑑定コラム1679)「2017年千葉県不動産研究会の講演」
鑑定コラム1976)「講演「還元利回り・期待利回りの求め方」の内容(3)」
鑑定コラム1977)「講演「還元利回り・期待利回りの求め方」の内容(4)」
鑑定コラム1978)「講演「還元利回り・期待利回りの求め方」の内容(5)」
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