1977) 講演「還元利回り・期待利回りの求め方」の内容(4)
11.批判
上記算式を具体化した上記数値一覧において、u当り賃料5,000円は比較法によって求められた賃料である。それは賃貸事例比較法によって求められている比準賃料を採用していることから、田原鑑定の求めている期待利回りの求め方は間違っているという批判が、過去になされた。また現在でもなされている。
その批判は次の様な内容のものである。
「積算法と賃貸事例比較法は、各手法の適用において共通する価格形成要因に係る判断に整合性に留意しながら、それぞれ独立して新規賃料を求めるものであるから、積算法の適用過程において賃貸事例比較法の適用結果である比準賃料を用いることは明らかに鑑定評価手法における誤りである。」と。
12.反論
上記の還元利回り・期待利回りの求め方について、上記のごとくの批判がなされた。
この批判に対して、次のごとく反論する。
@ 鑑定基準の改正
上記の批判は、平成26年5月1日に鑑定基準の改正により、退けられることになった。
イ、改正前の鑑定基準
総論
第8章
第7節 鑑定評価方式の適用
鑑定評価方式の適用に当たっては、鑑定評価方式を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、原則として、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式を併用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三方式の併用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。
ロ、26年改正後
第7節 鑑定評価の手法の適用
鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係わる市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。(平成26年鑑定基準国交省版P38)
A 基準改正の解説
イ、鑑定評価の手法が三方式にこだわらず、一つの手法に複数の方式を取り入れることになった鑑定基準の変更について、基準を解説する基本書物には次のごとくの説明がなされている。
平成26年5月1日に鑑定基準の改正の重要方針の1つとして「不動産市場の国際化への対応」の項目が掲げられた。
その項目の中の1つとして、鑑定基準の考え方が大きく変更となった。
「鑑定評価手法に関し、原則として「3方式」を併用することを求めている改正前規定について、市場分析により把握した市場の特性を適正に反映した「複数の手法」を適用することを求める規定に変更」することになった。(『要説 不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン』P29(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会監修、鑑定評価基準委員会編著、住宅新報社、2015年10月発行))
ロ、この「複数の手法」を適用する規程の変更の解釈として同著P150で次のごとく解説する。
「鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類され、三方式それぞれの考え方を中心とした鑑定評価の三手法が規定されているが、これら各方式と各手法とは必ずしも一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであることに留意する必要がある。
そのほかに、鑑定評価の三手法の考え方を活用した手法が、価格を求める手法と賃料を求める手法のそれぞれに固有の手法として規定されている。
このように、鑑定評価の各手法を適用して求められた価格又は賃料は、それぞれの手法に共通する要因を反映したものであり、いずれもそれぞれ最終的に求めようとする価格又は賃料を指向するものであるから、これら共通する要因に係る判断の整合性について再吟味することによって適正な鑑定評価額を最終的に導き出すことができる。」
B 13年の歳月を経て
イ、2001年に発表した還元利回り・期待利回りの求め方の算式が、発表以後賛同を得る一方批判も受けた。
ロ、現在においても、鑑定基準が前記のごとく変更されたということが分かっていない複数の不動産鑑定士から、法廷で田原鑑定の期待利回りの求め方は鑑定基準違反であると激しく攻撃され批判を受けているが。
ハ、だが、13年の歳月を経て、ようやく求め方の妥当性が認められたようである。
ニ、日本不動産鑑定士協会連合会が、鑑定評価の三方式が、それぞれ一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであると鑑定評価の考え方の大転換を行った。
ホ、上記還元利回りの求め方が、その大転換の遠因の1つになっているかどうかは、私には分からないが、少なくとも今後裁判の法廷において、田原鑑定の還元利回り(期待利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準違反であり、その様な利回りの求め方は認められないものであると云う批判は、その批判こそが鑑定基準違反となることから、そうした批判は影を潜めることになろうとホッとしている。
13.企業決算書に記されているデータから還元利回りを求める
@ まえがき
上記標準粗利回りの算式と必要諸経費率によって、当該賃貸建物の還元利回りは求められ、又、知ることが出来る。
その求められた単体ビルの還元利回りが、一般的な賃貸ビルの還元利回りと整合性がとれているか知る必要性もある。
一般的な賃貸ビルの還元利回りは、どれ程か。それを、どうすれば知ることが出来るか。それを知る1つの方法を述べる。
株式上場している企業が所有する賃貸不動産については、時価評価することが義務付けられている。
その時価評価の結果の価格等は、有価証券報告書・決算書に記されている。
この記載データより賃貸不動産の還元利回りを知ることが出来る。
日本の不動産業界のトップ企業の三菱地所等の決算書より、それら企業が所有する賃貸不動産の還元利回りを知る方法について述べる。
純収益 ─────── = 還元利回り 土地建物価格である。
164,860百万円 ────────── = 0.0237≒0.028 6,953,534百万円2.8%である。この還元利回りは、注書きにあるごとく減価償却費は賃貸費用に含まれており、純収益には含まれていないことから、償却後還元利回りである。
164,860+50,283 215,143 ────────── =───────=0.0309≒0.031 6,956,534 6,953,534償却前還元利回りは、3.1%である。
2017年3月31日 4,828,439百万円 2018年3月31日 5,436,150百万円
平成29年3月期 平成30年3月期
資産 3,176,948 3,535,906 賃貸収入 554,003 575,948 利益 135,774 138,338 減価償却費 52,103 51,045
135,774 ──────────── = 0.028 4,828,439である。2.8%である。
138,338 ──────────── = 0.025 5,436,150である。2.5%である。
135,774+52,103 ──────────── = 0.039 4,828,439である。3.9%である。
138,338+51,045 ──────────── = 0.035 5,436,150である。3.5%である。
139,368 ──────────── = 0.025 5,678,415である。2.5%である。
1339,368+38,981 ──────────── = 0.031 5,678,415である。3.1%である。
30,409 ──────────── = 0.032 946,597である。3.2%である。
30,409+15,809 ──────────── = 0.049 946,597である。4.9%である。
29,475 ──────────── = 0.028 1,071,146である。2.8%である。
29,475+11,428 ──────────── = 0.038 1,071,146である。3.8%である。
三菱地所 2.8% (2019年3月) 三井不動産 2.5% (2018年3月) 住友不動産 2.5% (2018年3月) 野村不動産 3.2% (2018年3月) 東京建物 2.8% (2017年12月)
三菱地所 3.1% (2019年3月) 三井不動産 3.5% (2018年3月) 住友不動産 3.1% (2018年3月) 野村不動産 4.9% (2018年3月) 東京建物 3.8% (2017年12月)