2005年4月頃であったろうか。
全く面識のない不動産鑑定士の方から電話が入った。
賃料について2時間ほど講演をしていただけないかという講演依頼の電話であった。
電話を架けてこられた方は、社団法人日本不動産鑑定協会四国会の会長であった。
云ってみれば、不動産鑑定士の四国地区の代表者の立場の人である。
本来はそういう立場の人を知っていなければならないのだが、私は鑑定協会の仕事などしたことが無いから、そういう立場の人とは全く交際は無く、面識は無い。
四国会の会長が私に講演して欲しいということを聞いて、私は一瞬自分の耳を疑った。
そもそも私が講演を頼まれることはあまり無く、加えて賃料について話して欲しいということである。
驚いたというのは、不動産鑑定士にとって賃料評価はなじみが薄く、賃料評価を一度も行ったことなく、30年、40年の不動産鑑定人生を終える不動産鑑定士が、かなりいるのが現実の姿であることを知っている為である。
どうして賃料の講演を必要とするのであろうかと思ったから驚いたのである。
今迄、鑑定協会は多くの講習・セミナーを、会員の不動産鑑定士を対象にして行っている。
それら講習・セミナーは、価格分析を主とした新しい知識の習得が目的であり、法律改正による鑑定評価の留意事項とか、収益還元法とか、土壌汚染とか、開発法とか或いは倫理規定等の内容のものである。
賃料について講習・セミナーが開かれたことはほとんど無い。
不動産鑑定評価は価格中心であり、賃料は全く視野の外に置かれていた。
私は収益あっての価格であり、収益(賃料)こそが価格よりも重要であると考えていたが、そうした考えを持つ人は鑑定業界にあっては少ない。
賃料の継続賃料の鑑定評価が必要とされる場面は、賃料紛争の時であり、それは裁判での訴訟の場合が大半である。
それ故、そうした場面に積極的に関与しなければ、賃料の評価を経験することは無いということになる。
多くの人々は、不動産鑑定士で有れば誰でも継続賃料の評価を行えるであろうと思いがちであるが、残念であるが継続賃料をまともに評価出来る不動産鑑定士は多く居ない。そう云うとあたかも自分が出来ると偉そうに云っているごとく聞こえるかもしれないが、決してそうでは無い。私だって未だ未熟であり、多くの分からないことがあり、間違いをやっている。
そうした鑑定業界の実情であるため、賃料をテーマにした講演を開いても、足を運んでくれる人は極めて少ないであろうと思っていた。
その様に思っていた所に、東京を遠く離れた四国高松にある四国会の会長から、賃料の講演依頼があったのであるから、大変驚いたのである。
2005年6月3日、高松で鑑定協会四国会の年次総会の開催前の行事の一つとして、2時間かけて賃料の話を行った。
参加者は自分の勝手な解釈で、せいぜい30名程度であろうと思っていたら、70名の後半の出席者であることを知って驚いてしまった。
そんなに多くの人々が参加されるので有れば、気安く講演を引き受けるべきでなかったと、現地で人数を聞いた時、一瞬後悔の念が走った。
四国4県から不動産鑑定士の方々が出席されていた。
2時間で賃料の評価の話を全部するのは困難である。
新規賃料、継続賃料の見落としてはいけない重要な部分を、特に自分が失敗した経験の個所も交えて話した。
それでも15分程度の時間オーバーとなってしまい、主催者に迷惑をかけてしまった。
当日講演を終えて四国会の会長に、どうして私を講師に選んだのかと聞いたところ、若い不動産鑑定士が賃料の本を出している田原という不動産鑑定士の賃料の話を是非聞きたいという要望が強く、それならということで役員会に諮って決定したと答えられた。
ありがたいことである。
この話を聞いた地方の若い不動産鑑定士の一人の人がこんな事を言っていた。
「四国会の会長さんは、頭が新しい方だ。」
と。
私が四国会で家賃の講演をしてきたと、知り合いの不動産鑑定士と酒を飲みながら話したところ、
「田原さんも有名人になったなァ」
という。貶しているのか、ほめているのか、驚いているのか、揶揄しているのか、何とも分からない批評の言葉を浴びた。
私に賃料の講演の機会を与えて下さった鑑定協会四国会の会長、そしてそれに賛同して下さった四国会の副会長以下幹部の方々に感謝したい。
高松に一泊して四国会の人々とゆっくりと酒を飲みながら話をしたかったが、東京羽田を早朝のフライトで高松に行き、高松の最終便のフライトで日帰りとなってしまった。
それは翌日の6月4日に東京で開かれるADR(裁判外紛争解決)のセミナーに参加する為に、やむを得ず日帰りとなってしまった。
折角高松まで招いて下さった四国会の人々には失礼な振る舞いであり、深くお詫びしたい。
鑑定コラム1058)「大阪府不動産鑑定士協会での講演」
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