代理人弁護士が、私の不動産鑑定書の建物の価格の求め方について、
「田原鑑定は建物価格を求めるのに、減価償却を二重カウントして求めている。中古要因の0.8の根拠と、その算出内容を問う。」
と証人尋問してきた。
私の建物の価格の求め方は、建物の再調達原価に減価修正率を乗じて建物価格を求めている。
その中の減価修正を、
中古要因 0.8
経年要因 0.65
0.8×0.65=0.52
0.52の修正率とする。
再調達原価を平方メートル200,000円とし、これに減価修正率0.52を乗じて、建物価格を、
200,000円×0.52=104,000円
平方メートル104,000円と建物価格を求めている。
この中古要因と経年要因が、減価償却の二重カウントだと代理人弁護士は指摘非難し、内容の説明を求めてきたのである。
私は、
「減価償却の二重カウントではない。中古要因の修正は新築建物に対する中古建物の市場の違いによる修正である。減価償却による修正ではない。
この修正を行わないと、中古建物が市場の価格の実態と合わない非常な高い価格がもとめられてしまう。現実の市場価格を求める為には必要な修正である。」
と説明した。
中古要因0.8 の根拠及び数値の算出方法も説明した。
その代理人弁護士に説明した内容は、『賃料<家賃>評価の実際』p224(清文社)に記載してある内容とほぼ同じであるから、その個所を以下に抜粋し転載する。
「減価修正の方法は、耐用年数に基づく方法と観察減価に基づく方法の2つがある。
耐用年数に基づく方法は、更に定額法、定率法に分かれる。
減価を一定額にするか、あるいは一定の率によるのかの違いである。
定額法で減価修正を行うと減価修正不足を生ずる場合がある。それは、新築時の建物の市場性と比べて、築数年の建物は市場性が急激に落ちるためである。
新築建物の購入希望者は多いが、中古建物はイヤだいう人が多い現象のためである。
「新築中古」という妙な言葉が使われることがある。
建売住宅を建てたがなかなか売れず、1年以上も買い主が見つからず売りに出されている建物をいう。あるいは新築で買い主がついたが数日しか居住しないか、或いは全く居住せず理由あって売却する建物のことをいう。
こうした建物の価格は大幅に価格ダウンする。
定額法の減価修正では、この「新築」と「中古」の格差を埋める修正を行うことができない。これが出来るのは定率法である。
しかし定率法は減価修正の方法の一つであるがあまり採用されない。
定額法採用のほうが多い。定額法に附随する上記減価修正不足を解消するために、再調達原価に「中古要因」として0.8を乗ずる方策をとることが行われている。新築建物は中古建物より2割相当高い、逆にいえば中古建物は新築建物より2割安いということである。
この0.8即ち20%減の理由は、新築建物の工務店の利潤相当の排除である。
新築建物の建築費には、建物を建てた工務店の諸経費が20%程度含まれている。これが無ければ新築建物は出来ない。
しかし、中古建物は取引市場が異なり、かつ新築建物ではない。
工務店の利益相当は中古建物には必要ではない。
中古市場では、新築建物の価格20%減は当然の経済行為と見る。
例えば築1年の建物の場合、1年経過しているのみであるから、耐用年数25年とすれば4%(1÷25=0.04)の価格ダウンであるべきと主張する人は当然いる。そして20%は過大という。
しかし、築1年とはいえ、中古の状態の建物である。新築建物と4%の価格ダウン程度で中古建物を買う人が現実にいるであろうか。4%程度の価格差であれば新築の建物を大半の人は買おうとしてしまう。買う人がいなければいつまでも同じ価格で売りに出している訳にはいかない。価格を下げざるを得ない。
中古住宅より新築住宅を好む新築願望の日本人の性格は、統計調査ではっきりと現れている。
『東京都住宅白書』平成12年度版(東京都住宅局)P24で、旧総務庁の『住宅・土地統計調査』によっているが、東京の持家調査において中古住宅を購入した割合は16.6%であるという。
この割合でどうして日本人の新築願望がわかるのかということになるが、アメリカ・ニューヨーク市では67%が中古住宅購入者の割合という数字と見比べればその疑問が解ける。
日本人の新築願望の壁を乗り越えるには、中古建物の築1年の価格減が4%という価格の分析ではダメである。その考え方では市場性は得られない。売れない。
売れるため、即ち購入者の購入意欲を引き出すためには、20%程度の価格ダウンは必要である。
再調達原価に0.8の中古要因の修正が必要である。その修正を行ったあとに、定額法による経年修正を行う。」
(『賃料<家賃>評価の実際』p224より転載)
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