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219)家賃評価の期待利回りは減価償却後の利回りである

 新規賃料は、積算賃料と比準賃料とから求める。
 その積算賃料は、土地建物の原価性の面より分析する賃料であり、
     純賃料 + 必要諸経費 = 積算賃料
として求める。

 期待利回りとは、積算賃料の純賃料を求める時に、基礎価格に乗じる割合を云う。
     基礎価格×割合=純賃料
の「割合」を期待利回りという。

 即ち、賃貸借に供される不動産の価格に対して期待される純収益の割合である。

 純賃料は、土地建物それぞれに求められる場合と、土地建物が複合して求められる場合の二つの場合がある。
 土地建物それぞれに求められる場合とは、次のごとく求められる。
     土地の基礎価格×土地の期待利回り=土地の純賃料
     建物の基礎価格×建物の期待利回り=建物の純賃料
 この場合の純賃料は、
     純賃料=土地の純賃料+建物の純賃料
と求められる。

 ここで使われる土地の期待利回りは、土地の還元利回りとほぼ同じ数値である。
 期待利回りと還元利回りとは貨幣の表と裏の関係にあり、ほぼ同じ数値と解釈されている。

 積算賃料は純賃料と必要諸経費とで構成されているが、その必要諸経費は、次の項目で構成されている。

    減価償却費
    公租公課
    管理費
    修繕費
    火災保険料
    貸倒引当金
    (空室損失)

 空室損失は、本来賃料の経費を構成する項目では無いが、『不動産鑑定評価基準』は必要諸経費として経費計上していることから、( )で一応費用項目に挙げておく。

 上記の積算賃料の必要諸経費の項目を見れば分かるごとく、「減価償却費」が構成項目になっていることから、「期待利回りは減価償却後の利回り」ということになる。

 賃料の訴訟で、ある家賃の不動産鑑定書が賃貸人側から裁判所に提出され、その不動産鑑定書の賃料の金額が、そのまま適正という裁判官の判断がなされ判決された。

 不動産鑑定士の評価額がそのまま採用されることは、裁判官が専門職業家としてその能力を高く評価して、その判断を採用したことになるということになるのであるから、それは専門家冥利につきる。

 しかし、その専門家の判断が誤っていたらどういうことになるであろうか。
 専門家という名の下で裁判官の判断を狂わし、ひいては消費者に対して財産権の侵害を引き起こしてしまったことになるのでは無かろうか。

 1審判決後、賃借人側の代理人弁護士は、その判決の家賃は甚だ高いと判断して控訴した。そして、一人の民間人から一人の不動産鑑定士を介して、私に、1審判決が適正とした不動産鑑定書を読んで、意見書を書いて欲しいと頼んできた。その代理人弁護士に聞けば、1審の裁判中に不動産鑑定書を3人の不動産鑑定士に見てもらい、不動産鑑定書について意見書を書いてくれと頼んだが、誰も引き受けてくれなかったという。そして判決が出されてしまったという。
 やっと意見書を書いてくれる不動産鑑定士に巡り会えたと云っていた。

 その家賃の不動産鑑定書には多くの間違いがあったが、その中の一つに期待利回りの誤りがあった。

 その家賃の不動産鑑定書は、土地の期待利回りとして5%を採用していた。
 その採用根拠に、
 「土地の期待利回りは、地価公示価格、基準地価格で採用されている還元利回りの5%を採用する。」
と理由が記してあった。

 この文章を見て、
 「この家賃の不動産鑑定書を書いた不動産鑑定士は、家賃の期待利回りとはどういうものか根本的に分かっていない。」
と私は直感した。

 地価公示価格、基準地価格の評価は、キャッシュフローで評価しており、必要諸経費には減価償却費を含めていないはずである。

 確認の為、地価公示価格、基準地価格の評価の手引き書を取り寄せて見たところ、総費用として減価償却費は計上されていなかった。

 地価公示価格、基準地価格の評価の総費用、即ち必要諸経費は次の費用項目であった。
      修繕費
      維持管理費
      公租公課
      損害保険料
      貸倒引当金  
      空室等による損失相当額

 減価償却費は費用に含まれていない。
 このことから、地価公示価格、基準地価格の評価の還元利回りは、減価償却前の利回りということになる。

 減価償却前の利回りと減価償却後の利回りとは、どう違うか。

 本鑑定コラムの189)の「東京の賃貸ビルのファンドバブル化」の記事で、キャッシュフローの利回り(この利回りは減価償却前の利回りである)4%の場合、減価償却後の利回りは2.8%になると述べた。
 この2.8%が、家賃の純賃料を求めるのに採用する期待利回りであるのに、これを採用せずに、4.0%を採用して純賃料を求める行為に相当するのである。
 純賃料は当然甚だ高く求められることになる。

 例えば土地の基礎価格を1億円とする。
 減価償却前の利回りでの純賃料は、
     100,000、000円×0.04=4,000,000円
となる。
 減価償却後の利回りでの純賃料は、
     100,000、000円×0.028=2,800,000円
となる。

 純賃料の差額は、
     4,000,000円−2,800,000円=1,200,000円
となる。月額では、
     1,200,000円÷12=100,000円
10万円の賃料の差が生じるのである。減価償却前の利回りで求めた賃料は、間違いであり、現実を遊離した甚だ高い家賃が求められるのである。
 本来の賃料が月額50万円であるとした場合、60万円と求められるのである。
 賃料が下落しているのにもかかわらず、逆に賃料上昇として求められる可能性だって生じる事になる。

 1審の判決が全面的に採用した家賃の不動産鑑定書は、減価償却前の利回りを使用して求めた賃料である。期待利回りは減価償却後の利回りでなければならないことから、この家賃の不動産鑑定書は誤った手法で家賃を求めているのである。

 その家賃の不動産鑑定書は、必要諸経費の項目に減価償却費を計上していた事から、減価償却費が2重に計上され、かつ純賃料が過大に求められていることになる。

 こうした減価償却前の利回りを、家賃の期待利回りに採用するという家賃の不動産鑑定は、家賃の評価そのものが分かっていないと判断され、専門職業家としては重過失を犯していることになる。手法に大きな間違いがあり、不当鑑定ということになろう。

 その重過失の不当鑑定に相当する家賃鑑定書を適正な評価と判断して、鑑定評価額をそのまま採用して判決した1審の判決は不当判決ということになろう。

 高裁への意見書にその旨を論述して提出した。
 高裁の裁判官は果たして私の指摘を理解して、1審の判決を破棄してくれるかどうか。

 高裁の判断が、1審の判決に間違いが無いと1審判決を支持するようでは、賃借人の財産権の侵害を裁判所自らが行うことになってしまい、家賃の裁判とは一体なんだという基本を問うことになってくる。
 

 引用した鑑定コラムの189)は下記をクリックすれば繋がります。

 「東京の賃貸ビルのファンドバブル化」


 本鑑定コラムには賃料に関する多くの記事があります。下記に一部紹介します。

  鑑定コラム226)家賃より地代を求める家賃割合法

  鑑定コラム214)共益費は賃料を形成しないのか

  鑑定コラム231)保証金が100ヶ月とゼロの店舗支払家賃は同じなのか

  鑑定コラム236)従前合意賃料は妥当な賃料だったか

  鑑定コラム68)賃料と改正鑑定基準

  鑑定コラム71)差額配分法と私的自治の原則

  鑑定コラム101)基礎価格の再認識の必要性

  鑑定コラム563)「地価公示価格の還元利回りは減価償却後の利回りなのか」

  鑑定コラム567)「鑑定コラムで読まれている記事上位10(2009年7月1日) 」

  鑑定コラム599)「鑑定コラムで読まれている記事上位10(2009年10月1日)」


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