○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

2244)日税不動産鑑定士会『継続地代の実態調べ』(平成30年)の地代データの最高公租公課倍率は14.4倍

1.はじめに

 税理士で不動産鑑定士である人々が集まって作っている日税不動産鑑定士会(会長 下ア 寛氏)という団体がある。

 その団体が3年に一度、東京23区の地代の実態調査を行い、結果を『継続地代の実態調べ』という書籍にして発表している。直近の発表は平成30年版である。

 地代を調査し、分類し統計分析して『継続地代の実態調べ』を調査発行する日税不動産鑑定士会の人々の働きには頭が下がる。感謝したい。

 この書籍の不動産鑑定の地代評価そして地代の裁判訴訟解決への貢献には多大のものがあり、感謝の言葉以外無い。

 その書籍の中に、分析として公租公課倍率が調査地代ごとに発表されている。

 その発表されているデータを利用して、東京23区の公租公課倍率の限界倍率と出現率はどの程度なのか分析して見る。

2.公租公課倍率とは

 地代の決定でよく使われる公租公課倍率とは、土地公租公課(固定資産税、都市計画税)に対する地代の割合を云う。

 算式は、


                 支払地代
              ───────   = 公租公課倍率                      
         公租公課
である。

3.データ

 日税不動産鑑定士会発行の『継続地代の実態調べ』(平成30年版)の地代データは、商業地、住宅地等併せて425件である。

4.東京23区地代の公租公課倍率の平均倍率、標準偏差

 前記した日税不動産鑑定士会が調査発表している『継続地代の実態調べ』(平成30年版)掲載の地代データ425件の公租公課倍率データを使用して、平均倍率、標準偏差を求めると、下記である。(前記『継続地代の実態調べ』には、標準偏差は発表されていない。)

      平均公租公課倍率    4.34倍
            標準偏差        1.86

5.最高公租公課倍率

 東京23区425件の地代の中で、実際に賃貸借されている土地賃貸借契約の中で、最高の公租公課倍率は14.4倍である。

 14.4倍という倍率が平成30年において現実に存在していると実証出来る倍率の最高倍率と云うことになる。

 この辺りが公租公課倍率の限界かもしれない。それは地代の限界と云うことにもなる。

6.公租公課倍率10倍を超えるデータ

 東京23区425件(前記同会が異常倍率データとして排除しているデータも含める。住宅地、商業地等全てをひっくるめてである。)の地代データの中で、公租公課倍率が10倍を超えるデータは、下記である。bヘ別添資料のデータ番号である。
       8   中央区築地5丁目   14.2倍
       25   台東区橋場1丁目   11.7倍
       70   杉並区梅里1丁目   10.3倍
       111   墨田区八広1丁目   10.9倍
       235   大田区池上台4丁目  13.6倍
       271   世田谷区野沢2丁目  14.4倍
       352   豊島区西巣鴨4丁目  10.7倍
       393   練馬区小竹町2丁目  12.0倍
 東京23区地代データ425件のうち公租公課倍率10倍を超えるデータは上記の8件である。

 最高倍率は14.4倍である。

7.23区公租公課倍率14.4倍地代の出現率

@ 正規分布

 自然現象、経済現象及び人間の多くの行動は、大規模データ分析による統計の結果によれば何故か正規分布の形をとるものが多いと統計学者によって研究分析されている。その理由は何故かは不明である。

 そうした事から多くの現象が正規分布の理論を使って分析し、研究調査され、活用されている。

 正規分布の理論を使ったものとして、最も身近に感じるのは、進学に伴う学力判定の偏差値であろう。

 地代の公租公課倍率も正規分布に従うであろうとして分析する。

A 出現率の算式

 出現率は出現する確率である。その確率を求めるには、下記の算式から正規分布のZ値を求めて行う。
                            データ値−平均値
              Z値  =  ──────────                     
                                標準偏差

B 最高倍率14.4倍の地代の出現率

 東京23区の地代公租公課倍率の最高倍率は14.4倍である。この出現率を求める。

 データ値は14.4である。倍率の平均値は4.34である。標準偏差は1.86である。これらの数値を前記の算式に代入する。
                            14.4−4.34
              Z値  =─────── =  5.4                     
                              1.86
 Z値は5.4である。

 正規分布の右側半分の正規分布表によれば、確率は、3.33961E−8である。

 つまり3.33961/100,000,000である。

 出現率は分布両側の数値で云う(片側数値を2倍する)ことから、出現率は1億分の7ということである。

 出現率1億分の7という地代に果たして市場性があるのか甚だ疑問である。

 この市場性の有無の側面から、14.4倍の倍率の地代が適正地代であるか否かの検討が必要である。

8.23区公租公課倍率10倍以上の地代の出現率

 前記した東京23区地代の公租公課倍率10倍以上の事例は8件である。その出現率を計算すれば、下記である。
      番号         Z値        右半分正規分布          出現率

   8      5.3 5.80221E-8 1億分の12    25      4.0 3.1686E-5 10万分の6    70     3.2 0.0006872 1万分の14    111     3.5 0.0003369 1万分分の7    235     5.0 2.87105E-7 1千万分の6    352     3.4 0.0002369 1万分の5    393     4.1 2.0668E-5 10万分の4
 公租公課倍率10.3倍〜14.4倍のデータの出現確率は1万分の14〜1億分の7と云うことになる。

9.標準偏差1倍の倍率の地代の出現率

 標準偏差の+1倍の倍率は、
      4.34+1.86=6.2
である。6.2倍である。

 Z値は、
                       6.2−4.34
                     ───────  = 1.0                         
                           1.86
である。

 Z値=1の正規分布表の右半分の確率数値は、0.15865526である。出現率は32%である。

 標準偏差の−1倍の倍率は、
      4.34−1.86=2.48倍
である。2.48倍である。

 Z値は、
                       2.48−4.34
                     ───────  = −1.0                       
                           1.86
である。

 Z値=−1の正規分布表の左半分の確率数値は、0.15865526である。出現率は32%である。

 つまり標準偏差±1の出現率は32%ということである。

 標準偏差1倍の出現確率は32%であり、倍率はゾーンで云えば2.48倍〜6.2倍ということになる。

10. 公租公課倍率の出現率一覧とグラフ

 東京23区の地代の最高倍率は14.4倍で、その出現率は1億分の7と分かった。

 同じ求め方で、公租公課倍率1.5倍〜10倍の出現率を計算し、その結果を一覧すれば下記である。


公租公課倍率 Z値 正規分布半分 ×2 出現率 出現率 %
1.5 -1.53 0.063 0.126 0.126
1.8 -1.37 0.0853 0.1706 0.171
2 -1.26 0.1038 0.2076 0.208
2.48 -1 0.1587 0.3174 0.317
2.5 -0.99 0.1611 0.3222 0.322
3 -0.72 0.2358 0.4716 0.472
3.5 -0.45 0.3264 0.6528 0.653
4 -0.18 0.4286 0.8572 0.857
4.34 0 0.5 1 1
4.5 0.09 0.4641 0.9282 0.928
5 0.35 0.3632 0.7264 0.726
5.5 0.62 0.2676 0.5352 0.535
6 0.89 0.1867 0.3734 0.373
6.2 1 0.1587 0.3174 0.317
6.5 1.16 0.123 0.246 0.246
7 1.43 0.0764 0.1528 0.153
7.5 1.7 0.0446 0.0892 0.089
8 1.97 0.0244 0.0488 0.049
8.5 2.24 0.0125 0.025 0.025
9 2.51 0.006 0.012 0.012
9.5 2.77 0.0028 0.0056 0.006
10 3.04 0.0011 0.0022 0.002


 上記で求められた出現率を縦軸に、公租公課倍率を横軸に取ってグラフ化にしたのが、下図である。




地代公租公課倍率と出現率




11.公租公課倍率20倍の出現率

 東京23区で実在する最高の公租公課倍率は14.4倍である。その出現確率は1億分の7と求められた。これが実在している事実を知れば、許容される倍率の限界と思われる。

 仮に公租公課倍率20倍の地代があったとする。実在するかどうか私には分からないが、その出現確率を求めてみる。

 Z値は、
                         20−4.34
                     ───────  = 8.4                         
                           1.86
である。

 Z値8.4の確率計算はエクセル計算ではゼロと表示される。

 エクセルで計算出来るZ値の限界はZ値7.8までである。

 Z値7.8で正規分布表右片側確率は3.1E-15である。出現確率は千兆分の6である。

 Z値7.8以上は、エクセル計算の「NORMSDIST」のプログラムでは「0」と計算される。小数点以下のゼロの数が多すぎて、計算しても無意味ということである。(エクセルの計算限度は15桁までである。E-15とは、小数点以下15桁の意味である。0.000……と0が15続くということである。)

 Z値8.4は、10のマイナス15乗以上である。

 Z値8.4の出現率は千兆分の1を超え京の領域のものでは無かろうか。その様な出現率の公租公課倍率は一般的には存在しなく、当然そうした倍率のもととなる地代も一般的には存在しないと考えた方がよい。

12.最後に

 商業地域の中にあって居宅利用の場合、固定資産税の減額特例がある。その場合、商業地目的の用途の近隣地代の公租公課に比較して公租公課は安い為、公租公課倍率は10倍程度となる場合がある。

 この事については、鑑定コラム1409)で記している。

 こうした事もある事から公租公課倍率10倍は有り得ると云えるが、そうした特例を除けば公租公課10倍は、早々あるものでは無い。

 本件分析の日税不動産鑑定士会発行の『継続地代の実態調べ』(平成30年版)の地代データ425件の中にあって8件である。存在率は、
                8÷425=0.0188≒0.019
1.9%である。
 
 公租公課倍率10倍以上の地代は希と云える。

 そして現実に土地賃貸借契約されている地代として、平成30年時で公表されているデータとして最高の公租公課倍率は、14.4倍である。

 その倍率の地代も、いずれ賃借人が余りにも高い地代である事に気づき、地代減額請求に動くのでは無かろうか。

 地主が応じなければ、地代減額請求訴訟となり大幅減額の地代に落ち着く事になるのでは無かろうか。

 そもそも公租公課14.4倍の地代に市場性があるか疑わしい。

 地代の市場性とは何かと思われることになるが、公租公課倍率14.4倍の地代を支払う借地権を買う人がいるかどうかということである。

 先ず居ないであろう。ということは、その地代には市場性が無いということになる。

 不動産鑑定は市場性ある価格・賃料を求めるものである。地代の市場性は、その地代を支払っている借地権価格に置き換えて考えてみれば良い。

 その地代を支払っている借地権を購入する人がいると判断出来れば、その地代は市場性があると判断される。

 その判断はどの様にするのかと云えば、上記した統計学による出現率で行えば、客観的に公平に判断できる。

 繰り返し述べるが、不動産鑑定評価は市場性ある適正賃料・価格を求めると云うことであることを忘れ無いように。

 ゆめゆめ市場性のない地代の鑑定評価を求めておいて、それが適正な地代であると自分都合で主張しないように。裁判を混乱させないように。

 なお上記日税不動産鑑定士会が調査発表している『継続地代の実態調べ』(平成30年版)掲載の地代データ425件の公租公課倍率のデータには、商業地、住宅地が混在している。この事から、平均倍率、標準偏差はその要因を含んでおり、商業地のみの場合、住宅地のみの場合にそのまま適用出来るものでない事をお断りする。

 一般的には、商業地の場合は倍率は低く、住宅地の場合には高い傾向がある。


 以下に、日税不動産鑑定士会発行の『継続地代の実態調べ』(平成30年版)のデータ一覧を転載する。

番号 倍率 倍   番号 倍率 倍   番号 倍率 倍   番号 倍率 倍
1 3.5   53 4.6   105 5.1   157 5.3
2 2.2   54 4.6   106 5.7   158 5.3
3 3.6   55 6.9   107 4.8   159 5.2
4 3.9   56 9.9   108 4.3   160 6.0
5 2.9   57 3.3   109 4.1   161 3.4
6 3.2   58 3.2   110 5.2   162 3.5
7 5.8   59 5.5   111 10.9   163 3.5
8 14.2   60 4.6   112 5.2   164 3.5
9 6.7   61 7.6   113 4.3   165 3.5
10 5.1   62 6.6   114 4.1   166 6.8
11 4.6   63 6.8   115 3.1   167 5.7
12 5.3   64 9.5   116 3.5   168 2.6
13 6.4   65 3.4   117 3.0   169 2.6
14 2.3   66 3.0   118 4.3   170 2.6
15 3.6   67 3.8   119 3.9   171 2.6
16 4.9   68 2.7   120 2.2   172 2.4
17 0.5   69 2.9   121 4.3   173 4.4
18 4.4   70 10.3   122 4.3   174 3.9
19 3.1   71 5.9   123 4.3   175 4.9
20 2.8   72 6.0   124 4.3   176 3.0
21 5.8   73 6.1   125 4.3   177 3.0
22 2.3   74 3.9   126 4.3   178 3.1
23 2.6   75 7.6   127 2.6   179 3.6
24 4.2   76 3.1   128 1.7   180 3.1
25 11.7   77 3.0   129 1.5   181 2.9
26 5.2   78 1.8   130 4.6   182 4.1
27 2.4   79 2.4   131 4.6   183 3.5
28 3.1   80 2.6   132 4.3   184 2.7
29 3.6   81 2.7   133 4.6   185 3.0
30 4.0   82 3.3   134 4.6   186 4.3
31 4.1   83 4.7   135 4.6   187 2.6
32 5.5   84 2.5   136 4.6   188 3.2
33 3.8   85 4.8   137 4.6   189 4.1
34 4.6   86 4.1   138 4.6   190 2.6
35 4.6   87 4.7   139 4.6   191 5.2
36 4.6   88 4.4   140 4.6   192 4.0
37 4.6   89 3.8   141 2.0   193 2.3
38 4.0   90 6.9   142 4.8   194 3.0
39 4.0   91 3.0   143 4.8   195 4.9
40 4.8   92 3.0   144 4.8   196 6.9
41 2.9   93 4.8   145 4.8   197 5.2
42 5.3   94 2.1   146 4.8   198 5.4
43 5.3   95 4.8   147 4.8   199 5.1
44 4.0   96 3.0   148 4.8   200 5.4
45 2.0   97 3.0   149 1.7   201 4.6
46 3.1   98 3.3   150 5.3   202 4.6
47 3.3   99 2.2   151 5.3   203 4.8
48 4.3   100 6.0   152 5.3   204 4.8
49 3.9   101 7.6   153 5.3   205 6.9
50 2.5   102 7.8   154 3.5   206 5.1
51 2.4   103 7.0   155 5.3   207 5.3
52 2.0   104 5.3   156 5.3   208 6.3



番号 倍率 倍   番号 倍率 倍   番号 倍率 倍   番号 倍率 倍
209 5.3   265 2.5   321 3.8   377 2.8
210 6.6   266 3.8   322 3.1   378 3.4
211 7   267 5.6   323 6.2   379 2.2
212 4.9   268 4.3   324 4.7   380 4.5
213 3   269 3.5   325 4.6   381 4.6
214 4.7   270 3.1   326 4.8   382 3.4
215 4.1   271 14.4   327 4.3   383 3.4
216 4.8   272 4.2   328 4.8   384 3.2
217 3.7   273 4.2   329 3.9   385 9
218 3.9   274 3.5   330 5.3   386 8.7
219 3.9   275 3.8   331 5.1   387 0.6
220 4.9   276 2.4   332 5.9   388 4
221 7.6   277 2.8   333 5.1   389 3.9
222 4.5   278 3.1   334 2.5   390 3.9
223 4.5   279 3.8   335 5.1   391 5.9
224 4.5   280 3.5   336 2.7   392 5.2
225 6.8   281 3.5   337 7   393 12
226 6.7   282 3.3   338 6.8   394 5.2
227 4.4   283 3.9   339 4.3   395 2.5
228 4.5   284 3.1   340 4.5   396 6.5
229 4.9   285 3.5   341 4.2   397 4.5
230 4.6   286 6.1   342 3.8   398 3.5
231 3.8   287 3.3   343 3.6   399 3.5
232 3.9   288 3.1   344 4.5   400 3
233 5.2   289 3.1   345 4.7   401 2.2
234 5.9   290 6.9   346 5.2   402 5.8
235 13.6   291 7.2   347 5.2   403 5.2
236 3.9   292 3   348 2.5   404 7.1
237 4.4   293 3.4   349 3.8   405 9.4
238 4.5   294 4   350 3.2   406 4.2
239 4.9   295 3.6   351 4.8   407 3.1
240 4.5   296 3.3   352 10.7   408 3.3
241 4.6   297 3   353 4.7   409 5.6
242 2.2   298 3.2   354 9   410 4.4
243 4.1   299 3   355 5.4   411 3.8
244 4.6   300 4.5   356 3.7   412 2.3
245 3.9   301 3.2   357 1   413 6.4
246 3.2   302 3.1   358 4.4   414 5.2
247 6.6   303 1.1   359 1   415 5.9
248 3.3   304 3.7   360 4.4   416 4.3
249 3.2   305 4   361 5   417 4.5
250 3.1   306 4.3   362 4.9   418 2
251 1.7   307 3.8   363 1.1   419 1.8
252 1.3   308 1.8   364 5.6   420 2.5
253 7.4   309 4.1   365 5.4   421 2.4
254 0.7   310 2.6   366 5.1   422 3
255 5.1   311 2.6   367 1.9   423 3.6
256 5.1   312 2.8   368 3.1   424 2.6
257 2.5   313 2.8   369 4.4   425 7.6
258 5   314 3.1   370 2.6      
259 3.1   315 3.9   371 2.3      
260 4.7   316 2.3   372 3.9   平均 4.34
261 5   317 8.4   373 2.8   標準偏差 1.86
262 3.8   318 5.7   374 3.4   変動係数 0.43
263 5.6   319 5.4   375 2.7      
264 4.3   320 2.7   376 2      





  鑑定コラム1409)「公租公課の10倍の地代は有りうる」

  鑑定コラム239)「公租公課倍率法・平成17年」


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ