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239)公租公課倍率法・平成17年

 地代を求める場合に公租公課倍率法という手法がある。

 公租公課倍率法は『鑑定評価基準』では手法として明記されていない。
 しかし、継続賃料の手法を4つ示しているが、最後の「賃貸事例比較法等」と「等」と記してある。

 これは4つの手法以外にも、評価手法があることを示しており、公租公課倍率法はその中の1つの手法ではないかと思う。

 地代のスライド法の求め方は、純賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ、必要諸経費である公租公課を加算して求める手法である。

 消費者物価、公租公課の上昇が落ち着いていれば問題は生じないが、消費者物価の変動率よりも公租公課の上昇額が著しく高い状態が続くと、おかしな現象が生じてくる。

 例えば、坪当り1,000円の地代があるとする。
 その内訳をみると、純賃料が150円で公租公課が850円という地代が出現する現象が生じた。

 それは公租公課が毎年10%程度上昇し、消費者物価変動が2年間で3%程度の上昇という状態がしばらく続けば、当然そうした現象が生ずる。
 この純賃料と公租公課のおかしな割合関係を是正する為には、公租公課倍率法による地代分析が必要である。

 平成6年に、私は主として平成2年、3年の東京地方裁判所借地非訟事件鑑定委員会の付随処分のデータによって「地代と公租公課の関係について」(『東京鑑定会報』第44号、(社)日本不動産鑑定協会東京会)の論文を発表した。

 その後、時間が経過し、その地代倍率は、地代の変動、固定資産税の変動によって倍率も変化してきてやや即応しなくなってきた。

 その後の地代の変動、固定資産税の変動を調査し、平成15年現在の地代の公租公課倍率を分析してみた。
 その倍率は以下の通りである。


    公租公課                      地代倍率
         月・坪円
       100〜120円                       6.4
    121〜140円                       5.9
       141〜160円                       5.5
    161〜200円                       5.1
       201〜240円                       4.7
       241〜280円                       4.4
       281〜320円                       4.1
       321〜400円                       3.9
       401〜500円                       3.7
       501〜600円                       3.5
       601〜800円                       3.3
       801〜1.000円                     3.2
       1,001〜1,500円                   3.1
       1,501〜2,000円                   2.9

 この倍率表は地代の妥当性を判断する場合には、一つの指標或いは参考になるのではないかと思われる。

 この表から、例えば公租公課が月額坪300円であった場合、倍率は281円から320円の欄から4.1と求められるから、
       300円×4.1=1230円
地代は月額坪1230円ということになる。
 なお、上記倍率は東京の地代分析であり、地方にそのまま適用出来るかどうかは分からない。

  (2005年11月プログレス社から発行予定の著書『賃料<地代・家賃>評価の実際』から一部を転載・加筆)




****追記 平成26年10月17日 寺の貸地の地代は公租公課の3倍以下  鑑定コラム1260転載

 平成26年(2014年)の9月下旬、東京地裁の18階大会議室で、鑑定委員協議会が開かれた。

 年一回開かれる恒例の会議である。

 借地非訟事件を扱う裁判官と鑑定委員による課題案件の討議である。
 鑑定委員は、弁護士、不動産鑑定士、建築士等民間精通者である。

 大学の講義日で無かったことから、今年も協議会に参加した。

 所長代行、総務課長を従えて、東京地裁の所長が会議室に入場し、席に着席すると会議は始まる。

 東京地裁の所長の挨拶が最初に行われる。

 所長は荒井勉裁判官であった。

 借地非訟事件の90%は解決しており、鑑定委員の判断が、裁判官の決定を経て、国民の生活、経済活動の指針、基準になっていると述べる。

 全国の借地非訟事件のうち、半分以上を東京地裁が担っていると報告される。

 去年は小池裕所長裁判官、一昨年は岡田雄一所長裁判官の話であった。

 岡田雄一所長裁判官は、その後名古屋高裁長官への転任となった。
 小池裕所長裁判官は、その後東京高裁長官への転任となった。

 今、話をされている荒井勉所長裁判官も、いずれ高裁長官そして最高裁判事の道を歩まれるのか。

 そんな気持ちを抱いて、荒井勉所長裁判官の話を聞いた。

 所長、所長代行、総務課長が退室後、借地非訟を職掌する部統括裁判官が議長となって協議会の討議が始まった。

 検討課題は4問あった。

 そのうちの一つに、借地条件変更承諾料の問題があった。

 現行借地借家法17条1項は、次のごとく規定する。

 「建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立により、その借地条件を変更することができる。」

 この条文の「用途の変更」による場合には、どう対処すべきかということが、検討課題になった。

 用途指定が自宅利用として貸した土地が、貸家の用途の土地に変更されたり、店舗用途になった場合、どう判断処理すれば良いのかということである。

 この検討課題で、一人の弁護士が挙手して、自分の考えを述べた。

 「・・・・寺の貸地は、公租公課の3倍以下である場合には、その地代には収益性が無いと確か税法にある・・・・」

という類の発言であった。

 その発言を聞いた時、

 「お、この弁護士、良く勉強している。
 借地関係に明るそうだ。
 なかなかの弁護士だ。 ・・・・・」

と私は思った。

 そして、一つのコラム記事を思い出した。

 宗教法人の貸地の住宅地の地代が、公租公課の3倍以下の低水準の地代にあることに関して、

 「その理由は、宗教法人(公益法人)に関しては、(法人税施行規則第4条)において、住宅用土地の貸付業で収益事業に該当しないものの要件として、住宅用土地に課される固都税の3倍以下という規則があるためです。」

と記するコラムを思い出した。

 このコラム記事は、公益社団法人東京都不動産鑑定士協会研究研修委員会(委員長 杉浦綾子氏)が、平成25年3月に発行している『平成24年度 継続地代の調査分析』P23に掲載されている。

 コラム記事の著者は無記名であるため、執筆者はどなたか私には分からない。
 不動産鑑定士であることは間違いないが、税務関係の知識にも造詣が深いと思われることから、税理士の資格も持っておられる方ではなかろうかと推測する。

 お寺は、地代が公租公課の3倍以下であるならば、宗教法人の非課税の特権を受けるのであれば、貸地の地代を公租公課の3倍以下にするであろう。

 都内の借地には、寺の貸地が多い。
 このことから、コラム氏は、寺の貸地の地代が、

 「地域の地代相場を牽引する」

こともあるという。

 そしてこうも云う。

 「住宅地の公租公課の「3倍以下」という水準は、収益事業とは言えない程、「低廉な地代」という意味だったのです。」

と。

 寺の貸地の地代が何故安いのか。
 地代は公租公課の3倍と巷間何故云われているのか。
 公租公課の3倍の地代は高いのか安いのか。

 それらの原因を教えてくれたコラム氏は、識見の高い不動産鑑定士と私は思う。

 コラム氏が根拠を示した法人税施行規則第4条を、下記に記す。

(住宅用土地の貸付業で収益事業に該当しないものの要件)
第四条  令第五条第一項第五号 ヘ(不動産貸付業)に規定する財務省令で定める要件は、同号 ヘに規定する貸付業の貸付けの対価の額のうち、当該事業年度の貸付期間に係る収入金額の合計額が、当該貸付けに係る土地に課される固定資産税額及び都市計画税額で当該貸付期間に係るものの合計額に三を乗じて計算した金額以下であることとする。


法人税法施行令(昭和四十年三月三十一日政令第九十七号) 「第五条第一項第五号」
五  不動産貸付業のうち次に掲げるもの以外のもの
 イ 特定法人が行う不動産貸付業
 ロ 日本勤労者住宅協会が日本勤労者住宅協会法第二十三条第一号及び第二号に掲げる業務として行う不動産貸付業
 ハ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人が同法第二条第三項第八号(定義)に掲げる事業として行う不動産貸付業
 ニ 宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)第四条第二項(宗教法人の定義)に規定する宗教法人又は公益社団法人若しくは公益財団法人が行う墳墓地の貸付業
 ホ 国又は地方公共団体に対し直接貸し付けられる不動産の貸付業
 ヘ 主として住宅の用に供される土地の貸付業(イからハまで及びホに掲げる不動産貸付業を除く。)で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の財務省令で定める要件を満たすもの

                   (鑑定コラム1260より転載)




 公租公課倍率法に関して、本ホームページの『鑑定コラム』に次の記事があります。

 鑑定コラム   61) 「地代と公租公課倍率法」


 本鑑定コラムには地代に付いての多くの記事があります。鑑定コラムの中の地代に関しての記事を検索する場合には、グーグル或いはヤフーの検索窓に下記をコピーして貼り付け、検索実行すれば関連記事の一覧が表示されます。又「地代」の検索日本語の所の言語を替えて検索すれば、その関係の記事一覧が検索されます。

      地代 site:www.tahara-kantei.com


  鑑定コラム884)「定期借地権の地代は、公租公課の7倍前後」

  鑑定コラム1260)「寺の貸地の地代は公租公課の3倍以下」

  鑑定コラム1356)「地代と公租公課の関係」

  鑑定コラム1409)「公租公課の10倍の地代は有りうる」

  鑑定コラム2244) 「日税不動産鑑定士会『継続地代の実態調べ』(平成30年)の地代データの最高公租公課倍率は14.4倍」


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