2469) 千代田・中央・港区住宅地地価公示価格の鑑定書に見る比準価格と収益価格の関係
1.はじめに
平成30年より地価公示価格の鑑定書が公開される様になった。公開された地価公示価格の鑑定書より比準価格と収益価格の関係を分析する。
採用する地価公示価格は、令和4年の千代田・中央・港区の住宅地の地価公示価格とする。公示価格鑑定書は同一公示地点を二人の不動産鑑定士が評価していることから、AとB2つの鑑定書があるが、先にあるA鑑定書の比準価格と収益価格とする。
千代田区、中央区の住宅地の地価公示地は少なく、その少ない住宅地公示地にあって、収益価格で無く開発法価格を求めているため、比準価格、収益価格の住宅地の地価公示がより少なくなる。データが少なくては統計分析の結果の信頼性に影響することから、港区と一緒にして分析する。
求められている比準価格、収益価格は、不動産鑑定評価の専門家である不動産鑑定士が求めたものであるから、適正な価格であるものとする。
千代田区商業地の地価公示の比準価格と収益価格との関係を、鑑定コラム2459)で行っている。
その分析と同じであるため、求め方等の説明は、出来るだけ重複を避けるが、始めて本コラムを読む人もいることもあり、必要な個所は最小限の記述とする。詳細を知りたい時は、鑑定コラム2459)の当該部分を読んでいただきたい。
2.3つの価格の等価性
不動産鑑定評価は、不動産が具有するそれぞれの面からの分析価格として、コストの面より積算価格、市場性の面より比準価格、収益性の面より収益価格の価格がある。
そして、3つの価格は理論上は一致すると云われている。
@ 門脇惇説
3つの価格の等価性については、門脇惇氏は、著書『不動産鑑定評価要説』P120(税務経理協会、昭和46年)で次のごとく述べられている。
「3試算価格は、それぞれ、効用に見合う面、造る費用を償う面、一般に認められてその価格で取引される面、すなわち価格の三面性に照応するものであり、市場で揉まれ、淘汰されて、一つの正常価格に帰一するものであると解すべきこと。」
A 武田公夫説
また武田公夫氏は、著書『不動産評価の知識』P133(日本経済新聞社、1993年)で、次のごとく述べられている。
「各方式の適用によって求められた試算価格または試算賃料は、理論的には一致するはず」
と3価格の理論的一致を認める。
実際には一致しないが、それは「資料不足など」によるのが原因でありと述べられる。
既成市街地では、原価法の適用は困難であるため行われない。その為、積算価格は求めなく、比準価格、収益価格が求められる。
門脇、武田両氏の説に従えば、比準価格、収益価格は、理論上は一致することになる。
3.不動産鑑定士実務修習テキストの比準価格と収益価格
最新の2022年版第16回実務修習の「実務修習・指導要領テキスト」(編集公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 2021年11月1日発行)に、土地面積605.75uの更地を例にした更地の鑑定評価書が掲載されている。
P49に、例題による試算価格が記されている。
比準価格 495,000円/u 収益価格 457,000円/uである。
495,000円 ────────= 1.083 457,000円1.083である。
比準価格 2,170,000円 収益価格 1,660,000円千代田−2の比準価格/収益価格の割合を求めると、
2,170,000円 ──────── = 1.307 1,660,000円1.307である。
番号 | 所在 | 比準価格 円/u | 収益価格 円/u | 比準価格/収益価格 |
千代田-2 | 東京都千代田区紀尾井町3番27外 | 2170000 | 1660000 | 1.307 |
千代田-4 | 東京都千代田区富士見1丁目8番6 | 1680000 | 1420000 | 1.183 |
千代田-6 | 東京都千代田区平河町2丁目21番1 | 1990000 | 1720000 | 1.157 |
中央-1 | 東京都中央区月島2丁目1618番 | 1070000 | 871000 | 1.228 |
中央-2 | 東京都中央区明石町528番2 | 1850000 | 1610000 | 1.149 |
中央-3 | 東京都中央区勝どき3丁目419番1 | 1440000 | 1230000 | 1.171 |
中央-4 | 東京都中央区月島3丁目2503番 | 1410000 | 1250000 | 1.128 |
中央-5 | 東京都中央区佃3丁目22番9 | 980000 | 780000 | 1.256 |
中央-7 | 東京都中央区佃2丁目208番1 | 1380000 | 1210000 | 1.140 |
港-2 | 東京都港区六本木5丁目367番1 | 2460000 | 2060000 | 1.194 |
港-3 | 東京都港区南青山4丁目342番外 | 2690000 | 2520000 | 1.067 |
港-5 | 東京都港区西麻布1丁目1番147 | 1660000 | 1090000 | 1.523 |
港-6 | 東京都港区白金台4丁目273番196 | 1100000 | 646000 | 1.703 |
港-7 | 東京都港区南麻布5丁目18番17 | 2200000 | 1460000 | 1.507 |
港-8 | 東京都港区白金台2丁目184番5 | 1280000 | 872000 | 1.468 |
港-9 | 東京都港区高輪1丁目701番61 | 1540000 | 906000 | 1.700 |
港-10 | 東京都港区三田2丁目309番16 | 1770000 | 1240000 | 1.427 |
港-11 | 東京都港区赤坂8丁目130番外 | 2280000 | 1640000 | 1.390 |
港-12 | 東京都港区高輪4丁目30番303外 | 1430000 | 786000 | 1.819 |
港-13 | 東京都港区元麻布2丁目138番9外 | 2730000 | 1630000 | 1.675 |
港-14 | 東京都港区元麻布3丁目242番30外 | 1930000 | 1760000 | 1.097 |
港-15 | 東京都港区赤坂4丁目1122番 | 1450000 | 943000 | 1.538 |
港-18 | 東京都港区南青山2丁目26番3外 | 2340000 | 2230000 | 1.049 |
港-20 | 東京都港区南麻布4丁目9番18外 | 1620000 | 1390000 | 1.165 |
港-21 | 東京都港区南青山4丁目190番外 | 2040000 | 1790000 | 1.140 |
港-22 | 東京都港区南麻布1丁目225番48外 | 1820000 | 900000 | 2.022 |
港-23 | 東京都港区三田2丁目35番1 | 2090000 | 1550000 | 1.348 |
港-24 | 東京都港区高輪2丁目45番17 | 1450000 | 1110000 | 1.306 |
港-25 | 東京都港区六本木3丁目28番1 | 1490000 | 861000 | 1.731 |
港-26 | 東京都港区東麻布2丁目17番15 | 1650000 | 1220000 | 1.352 |
港-27 | 東京都港区白金4丁目468番49外 | 1590000 | 869000 | 1.830 |
平均 | 1.380 | |||
標準偏差 | 0.263 | |||
変動係数 | 0.191 |
平均値 1.380 標準偏差 0.263 変動係数 0.191
X−μ Z=────── σで求められる。
15.87%+15.87%=31.74%31.74%以下あるということである。
1−0.3174=0.68260.6826となる。白い部分の出現率は68.26%、約68%である。
X−μ Z=────── σであるから、
Zσ=X−μであり、この算式から、
X=μ+Zσである。
X−μ Z=────── σであるから、
Zσ=X−μであり、この算式から、
X=μ+Zσである。
平均値 1.380 標準偏差 0.263である。
平均値+標準偏差×1.96である。
1.380+0.263×1.96=1.8957≒1.90である。
比準価格 ────── =1.0 収益価格になることである。
1.0〜1.90となる。
平均値+標準偏差×1である。
1.380+0.263×1=1.643である。
100%−31.74%=68.26%68.26%を越える出現率の土地価格を求めるべきであろう。その土地価格とは、10人中7人以上の不動産鑑定士が求める土地価格である。
割合 | 件数 |
1.0 | 3 |
1.1 | 9 |
1.2 | 2 |
1.3 | 5 |
1.4 | 2 |
1.5 | 3 |
1.6 | 1 |
1.7 | 3 |
1.8 | 2 |
1.9 | 0 |
2.0 | 1 |
2.1 | 0 |
計 | 31 |