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1.はじめに
不動産が持つ特性に伴う3つの価格である積算価格、比準価格、収益価格は、理論的には一致すると云われる。
しかし現実には、資料不足等で一致することが困難と云われているが、とはいえ、一致するのが理論的とはいえ原則であるから、3つの価格に価格差があっても、その差は、合理的な一定の範囲に収まるのでは無かろうか。そうでなければ上記理論は成り立たなくなる。
3つの価格を求めるのは、その側面から成り立っている不動産の価格を互いに担保し、求められた価格の適正さを証明担保するためでもある。
既成市街地にあっては、積算価格は求めることは出来ない事から、比準価格と収益価格の間のことになる。
そうした考えより、資料としての信頼性が高いと判断される地価公示価格の鑑定書が公開されたことによって、その公開鑑定書より、比準価格と収益価格の関係を分析して見た。
採用した地価公示価格は、令和4年1月1日時点の地価公示価格で、データ資料は、その公示価格鑑定書である。公示価格鑑定書は、A鑑定書、B鑑定書の2つあるが、最初のA鑑定書のみの分析とする。
公示鑑定書に分析記載されている比準価格、収益価格は専門家の不動産鑑定士が鑑定した価格であるから適正であることを前提にしている。
都心5区と呼ばれる千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区の商業地の地価公示価格の比準価格と収益価格の分析とする。
比準価格/収益価格の割合の分析より、公示価格の適正さの程度も分析、証明することが出来る。
2.分析結果
@ 平均割合値、標準偏差等
比準価格/収益価格の割合の都心5区商業地の平均値、標準偏差等の一覧は、下記である。
区名
|
公示地数
|
最低割合
|
最高割合
|
平均値
|
標準偏差
|
変動係数
|
千代田区
|
53
|
1.015
|
1.296
|
1.144
|
0.042
|
0.037
|
中央区
|
55
|
1.015
|
1.256
|
1.144
|
0.051
|
0.045
|
港区
|
53
|
1.023
|
1.31
|
1.154
|
0.056
|
0.049
|
新宿区
|
49
|
1.079
|
1.475
|
1.171
|
0.086
|
0.073
|
渋谷区
|
33
|
1.082
|
1.409
|
1.15
|
0.082
|
0.071
|
平均
|
|
1.043
|
1.349
|
1.153
|
0.063
|
0.055
|
都心5区商業地の各割合の平均は、
平均最低割合 1.043
平均最高割合 1.349
平均平均値割合 1.153
平均標準偏差 0.063
平均変動係数 0.055
である。
各区の最低、最高割合について、千代田区で云えば比準価格/収益価格の割合が1.015の公示地価格がある一方、1.296の公示地価格もある。
比準価格と収益価格は等価であるとするならば、比準価格/収益価格の割合は、1.0となる筈である。
それが1.296もの割合データが出現することはおかしいと思わないか。
比準価格と収益価格の2つを求めるのは何故かと云えば、前記したごとく互いの価格によって適正さを担保し、2つの価格から求められた鑑定評価額の適正さを証明担保するためであろう。
比準価格と収益価格の間に1.296もの開差があって、互いの価格が適正であると云うことが担保出来るのであろうか。
その様な開差があるのを、互いの価格が適正であることを担保していると云うことは不可能であろう。
専門家の集団として、千代田区の1.296、新宿区の1.475の様な開差、5区平均では1.349のごとくの開差が生じること自体おかしな現象である。
A 出現率5%、31.74%の価格割合と公示価格鑑定の件数
都心5区商業地の各区の比準価格/収益価格の割合が、出現率5%、31.74%の公示価格鑑定の件数一覧は下記である。
区名
|
公示地数
|
出現率5%の割合
|
出現件数
|
出現率31.74%の割合
|
出現件数
|
総件数
|
千代田区
|
53
|
1.226
|
2
|
1.186
|
4
|
6
|
中央区
|
55
|
1.244
|
3
|
1.195
|
5
|
8
|
港区
|
53
|
1.264
|
2
|
1.210
|
4
|
6
|
新宿区
|
49
|
1.340
|
2
|
1.256
|
7
|
9
|
渋谷区
|
33
|
1.311
|
3
|
1.230
|
1
|
4
|
平均
|
|
1.277
|
2.4
|
1.215
|
4.2
|
6.6
|
統計学上の許容される有意水準は、5%以上の出現率である。その5%を切るデータは、データとして否定される。
都心5区商業地の地価公示価格の鑑定評価にあって、データとして否定されるものが5区平均として2.4件ある。この事実は由々しきことである。
出現率31.74%は、10人中3人が出現すると云うことである。
不動産鑑定の専門家としては、10人中3人が算定する価格では無く、10人中7人が算定する価格を求めるべきでは無かろうか。
10人中3人が算定する程度の地価公示価格の鑑定評価が、都心5区商業地の中に平均4.2件ある。10人中7人の専門家は算定しないと云う価格が4.2件もあると云うことは、恥ずべきことでは無かろうか。
3.終わりに
@ 公示商業地の比準価格/収益価格の割合は1.18以下を
比準価格/収益価格の割合が出現率5%という鑑定評価など、とんでもない鑑定であり、専門家と自負する人が行うべきものでは無い。
不動産鑑定評価の専門家であれば、少なくとも10人中7人以上が算定する出現率68.26%以上の鑑定評価をするべきであろう。
その割合を達成する比準価格/収益価格の価格割合は、千代田区の商業地で1.186である。
1.18以下の割合であるならば、10人中7人以上が算定する価格が求められる。
新宿区の68.26%以上の出現率の割合は、1.256以下であるが、平均値が1.171であるから、1.18の割合の達成は充分可能である。
地価公示価格の商業地の鑑定評価にあっては、最低でも比準価格/収益価格の割合が1.18以下の価格割合の比準価格、収益価格の鑑定評価に依って、地価公示価格を決定すべきであると私は意見する。
A 収益価格は比準価格よりも低額はおかしい
都心5区公示商業地の価格検討で、公示商業地は243地点あった。その公示鑑定書(A鑑定書のみである)の土地価格の比準価格と収益価格を全て見たが、243地点の全てが、比準価格>収益価格である。
1件として収益価格>比準価格は無かった。これはいささかおかしいことではないのか。
収益価格が比準価格よりも高い価格があってもよく、又、有り得る。都心5区商業地の全地点の土地価格(単価)は、比準価格が収益価格よりも高い価格であると云うことは、おかしい。
それら土地に賃貸建物を建てている。その複合不動産の収益価格は、土地建物の積算価格よりも高い価格である事は、多々ある。
その複合不動産の収益価格から、部分鑑定評価として土地・建物の価格割合より土地価格を求め、その土地価格の単価を求めると、比準土地価格の単価よりも高くなることもある。
この価格現象について、建付地である場合にはそういう事も有り得るという言い訳は、通らない言い訳である。
。
土地比準価格が土地収益価格より、全ての地点で高いという都心5区公示商業地の鑑定価格は、少しおかしいでは無かろうか。
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