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260)「不動産鑑定士は情報に疎い」との叱責

 2006年の正月、地方の2、3人の不動産鑑定士と電話で話す機会があった。
 新年の挨拶がてらの情報交換のようなものであった。

 その話の中で、地方の不動産鑑定士の共通した悩みは、鑑定の仕事が減り、今後の先行き不動産鑑定はどうなるのだろうかという不安であった。

 私から言わせれば、地価公示価格、基準地価格、相続税路線価の評価、固定資産税の標準地の評価、そして競売評価の仕事があり、東京より見れば鑑定の仕事は充分過ぎる程有り余っているのではないかと思える。欲張るのもいい加減にせい。虫が良すぎるょと云った。

 どうもそれでも先行き不安という。
 その原因は、公共事業に伴う役所の用地買収が殆ど無くなり、公共事業関係の不動産鑑定が無くなってしまった。
 それと地方の銀行からの担保不動産評価の依頼が全く無くなってしまったことによる不安であるらしい。

 東京の不動産鑑定士は、15年前に地価の大暴落を味わい、それ以降、不動産鑑定の仕事は役所、民間とも減り続けている。公共事業関係などは用地課などとっくの昔に無くなり、用地係すらなくなり、管財課に吸収され、1年に1件か2件程度の不動産鑑定の発注の状態になって久しい。

 地方は、地価公示価格、基準地価格のほか、大量の固定資産税標準地評価をかかえている。聞くところによれば一人で1000個所近く持っている人もいるのではないか。御殿の建つような収入を得ているという噂も聞く。

 今頃になって不景気の波が押し寄せて来て、公共事業関係の仕事が殆ど無くなり弱ったというのは虫が良すぎるのではないかと、気心が分かっている関係であることもあって厳しく繰り返して話した。

 東京で、海外勤務の経験もあり、不動産鑑定とは全く無関係の職業の知人と会った時、地方の上記の不動産鑑定士の状況をよもやま話で話したら、その知人から、

 「不動産鑑定士は全く情報に疎い。公共事業が減っているのは中堅の建設会社がゴロゴロ倒産していることは、公共事業が無くなったということであり、それは公共事業に伴う用地買収も当然無くなることを暗示していることである。それが分からないのか。
 自分達は別の世界に居り、別格であるとでも思いこんでいるのか。」

と厳しく叱責された。

 そして加えて、地方銀行からの不動産鑑定評価が無くなったということについて、こう云う。

 「そんなことは当たり前だょ。
  金融庁が地銀に対してリレーションバンクになれという指導をしている。
  その中で、不動産担保は駄目です。事業担保、動産担保で金を貸しなさいと指導しているのですょ。

 そうした指導しているのだから、地銀は不動産担保をこれからは行わない。行ったら、金融庁が目をひからしているから行えない。

 そんな状況であることすら、不動産鑑定士は知らないのですか。
 金融庁のホームぺージを一度見てみたら。 」
と再度叱責された。

 そして、付け加えた。
 「田原さん、これからは事業評価の時代ですょ。
 不動産鑑定士の生き残る道はこれしかないですょ。
 経済産業省が事業評価の準備を着々と進めています。
 気づいたら、経済産業省が事業評価の主導権を握っていることになりますょ。

 聞くところによると、嘘か真か知りませんが、国土交通省の地価調査課は不動産鑑定士が事業評価を行うことに対して全く関心が無いようです。そもそも不動産鑑定士にはそんな能力など無いと思っているのでは無いでしょうか。監督官庁がそんなことで良いのですか。」と。

 知人は、耳の痛いことをガンガン私に云う。
 私は国土交通省の役人でないから、そんなことを云われても分からない。

 金融庁のホームページを開いてみた。
 「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)」という文書があった。

 地銀・信金に対する金融庁の取り組む事項として、「担保・保証に過度に依存しない融資の推進策」の項目がある。
 そこには、「不動産担保・保証に依存しない融資の促進を図る」ことを要請すると述べられている。

 では、その為にどういう融資をせよと金融庁は云っているのかというと、
 @ 事業価値に着目した知的財産担保融資
 A 動産・債権譲渡担保融資
 B ノンリコースローン
 C プロジェクトファイナンス
の融資と列挙する。

 そして、金融庁は次のごとく強い検査姿勢を述べる。
 @ 正当な理由が無いにもかかわらず、自己査定と検査結果の格差が著しい金融機関にたいしては、業務改善命令を発令して厳格に対応する。
 A 担保評価について、評価精度について厳正な検証を行うよう要請する。

 これらの金融庁の姿勢は、私も知らなかった。
 まさに、私の東京の知人の指摘のごとく、「不動産鑑定士は情報に疎すぎる」という叱責は、私にも当てはまりそうである。

 叱責は謙虚に受け止める。
 叱責の中で見つけたのは、どうやら今後の不動産鑑定士の生きる方向の一つは、「事業評価」の道と分かった。

 しかし、嘘か真か知らないが、不動産鑑定とは全く関係のない知人の云うごとく、監督官庁の国土交通省の地価調査課が、不動産鑑定士の「事業評価」への道に無関心であるということが本当ならば、大変困るのだが。


 金融庁と不動産鑑定については、下記の記事があります。
 鑑定コラム96)金融庁の担保評価についての主要行通知
 鑑定コラム272)金融庁のある信託銀行への行政処分

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