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272)金融庁のある信託銀行への行政処分

 金融庁が、ある信託銀行に対して、一定の業務を6ヶ月間停止させるという大変重い行政処分を下した。(金融庁ホームページ 平成18年4月5日)

 金融庁のホームページによれば、行政処分の対象となった信託銀行の業務停止の原因行為というものは、銀行法26条違反によるものという。

 その違反行為の重要部分を形成するものは、不動産の評価に関するもののようである。
 その不正行為の内容は、信託銀行が受託した信託財産(不動産)について、「適法状態への是正が困難な違法建築等、収益還元法等を利用した物件評価のかさ上げ、流動化や開発等に不適の不動産や種地を使った金融取引」が多く確認されると金融庁は云う。

 そしてそれらは、「現物不動産の実際の価値とは乖離した信託元本又は信託受益権価額、当該受益権の他者への譲渡の承諾」が認められると、金融庁は立入検査によってわかったと云う。

 信託受益権の売買に伴う物件の適正さと、物件価格の適正さを問うものである。
 「違法建築」というのは、建築基準法違反の建物ということであろう。
 「収益還元法を利用した物件評価のかさ上げ」とは、DCF法の還元利回りを故意に操作して、評価額を高くしていることであろう。

 本鑑定コラムでも以前に述べたが、5%の還元利回りを3%の利回りに故意に低くして価格を求めると、その結果は、
        5%÷3%=1.667≒1.67
1.67倍の価格となる。たかが2%の利回りの低下と云うであろうが、価格は67%のアップになるのである。
 10年かかって還元利回りが5%から3%になったというならば、それは経済現象の合理的な結果として受け入れられる。

 時間の経過を全く経ず、5%の還元利回りが当該不動産の現在の経済現象の還元利回りであるにもかかわらず、故意に3%の還元利回りにして価格をもとめ、それをあたかも適正な価格であるごとく装うことは、悪質な行為であり、許されるべき行為では無い。

 5%の還元利回りを使用すべきところを、3%の還元利回りを使用して価格をもとめれば、金融庁の云う「現物不動産の実際の価値とは乖離した信託元本又は信託受益権価額」になるのは当然である。

 これら行為は、恐らく私募債不動産ファンドとSPCに絡んで生じている不正行為と思われるが、「収益価格で求められているから、不動産価格バブルは発生しない」と発言する人がいる。

 私はその発言は間違っていると指摘している。
 そのことは、今回の金融庁のある信託銀行の立入検査によって、「収益還元法を利用した物件評価のかさ上げ」が行われているという、金融庁の検査結果の行政処分の理由の文章に書かれていることによって、ものの見事に立証されてしまった。

 それでもなおかつ、「収益価格で求められているから、不動産価格バブルは発生しない」と言い張るのであろうか。

 金融庁は当該信託銀行の業務停止6ヶ月という重い行政処分を下したが、その法令違反行為の原因となった不動産鑑定評価を行った人に対してはどういう処分を下したのであろうか。

 お咎めなしか。その様なことを金融庁は許さないであろう。
 「不動産の鑑定評価に関する法律」というものがある。
 銀行法26条適用の行政処分という法令違反行為の原因となった不動産鑑定評価を行った人は、「不動産の鑑定評価に関する法律」違反ということになろう。
 金融庁は当然何らかのアクションをおこすのではなかろうか。
 

 金融庁と不動産鑑定については、下記の記事があります。
  鑑定コラム260)「不動産鑑定士は情報に疎い」との叱責
  鑑定コラム96)金融庁の担保評価についての主要行通知

 信託受益権とはどういうものかについては、多くの関係書物が出ており、詳しくはそれらに任すが、本鑑定コラムの下記記事に甚だ簡単に説明している。
  鑑定コラム199)ナイガイの2つの倉庫の売却

不動産証券化については、下記の記事があります。
  鑑定コラム284)6.9兆円という巨額の平成17年度の不動産証券化

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