2646) 晴海選手村土地は最有効使用に土地利用されており、土地の利用制限は無く、土地価格減は発生しない
1.晴海選手村要因に付いての控訴審の判示、都側鑑定、東京都の考え
晴海選手村要因について、控訴審の判決、都側鑑定(都側の不動産鑑定会社の「調査報告書」を指す。この「調査報告書」は実質不動産鑑定書である。)、東京都の考え方は、次の様なものである。
@ 晴海選手村要因に付いての控訴審の判示
イ、土地価格に影響を及ぼす
控訴審判決は、判決P54で、「選手村要因は、本件土地の売主である東京都の意向により、本件土地上に施設建築物が建設され、それをオリンピック・レガシーとして利用することなどが課せられる取引上の利用制限であり、買主である特定建築者は当該利用制限を考慮することなく本件土地上に建築物を建築して利用することができないのであるから、これにより、本件土地の経済的価値すなわち価格にも影響が及ぶものと認められる。」と判示する。
ロ、最有効使用の土地利用が出来ない
控訴審判決は、判決P57で、「本件調査報告書は、本件土地の使用収益を制限する条件である選手村要因を考慮することによって最有効使用を前提とする正常価格を求めることができず」と判示する。
A 晴海選手村要因の都側鑑定の考え
都側鑑定は、私の一審判決への意見書に対して、反論意見書を、令和5年1月26日付で公判廷に提出した。その提出反論意見書の中で、晴海選手村要因についての考えを次のごとく述べている。
イ、土地価格に影響を及ぼす
都側鑑定意見書はP2で、「特段の利用制限が課されていない(最有効使用の実現が可能な)土地の価格と、利用制限の課された土地の価格が異なることは、不動産の専門家のみならず一般常識に照らしても自明のことである。
選手村要因は、本件土地の使用収益を制限することより、本件土地の経済価値即ち本件土地価格に影響する要因であり、その影響が土地価格に何ら影響を及ぼさないという田原意見書の主張内容は全くの的外れであることをまずは意見する。」と述べる。
ロ、最有効使用を制約する要因である
私が一審判決への意見書の中で、「土地価格と建物価格はそれぞれ別々に価格形成されている。建物の用途、階層、建築期間などの注文条件がどれ程つけられようとも、それは建物の工事費の問題であるから、選手村要因は建物の価格形成に影響し得るのであって、土地の価格形成に影響しない。」と記した。
この私の意見に対して、都側鑑定は、同意見書P7で、次のごとく反論して来た。
「選手村要因は、本件土地の使用収益という効用を制限し、土地の最有効使用を制約する要因であって、建物の工事費だけの問題でないことは明らかである。」と述べる。
B 晴海選手村要因の東京都(被控訴人)の考え
控訴審において東京都(被控訴人)が、晴海選手村要因についてどの様に主張したのか。控訴審判決に記載されている論述を転載する。
イ、土地価格に影響を及ぼす
控訴審判決P23で、東京都(被控訴人)は、次のごとく主張している。
「レガシーとして利用することが課せられる取引上の利用制限であり、買主が特定建築者は当該利用制限を考慮することなく本件土地上に建築物を建築して利用することができないのであるから、建築費や建築された建物価格への影響に留まるものではなく、本件土地の使用収益を制限することにより、本件土地の経済価値即ち価格に影響する。」
ロ、最有効使用を制約する要因である
控訴審判決P19で、東京都(被控訴人)は、次のごとく主張している。
「本件土地を本件大会の選手村とし、大会終了後にはオリンピック・レガシーとしての街作り開発に提供することは決定事項であったところ、本件価格等調査が本件土地を本件大会の選手村として使用する等の特殊な条件を前提としたことは、東京都の依頼目的からみて極めて妥当であり、選手村要因を前提条件とする以上、最有効使用を実現することは想定されていないから、鑑定基準に則って正常価格を算出する必要はない。」
2.晴海選手村要因とはどういうことを云うのか
晴海選手村要因とはどういうものかについて、一審判決が「選手村要因」について、説明していることから、それを引用して述べる。
東京都中央区晴海5丁目の133,909.26uの大規模画地を5つ街区に区分し、1つの街区をショピングセンターの街区とし商業棟1棟、残りの4街区に14〜17階の板状棟のマンションを21棟、50階建のタワーマンションを2棟建て、板状棟の建物は東京オリンピックの選手村として使用することを条件にし、オリンピック終了後は、改修し、分譲マンションとして売却するという条件で、都有地をディベロッパーに売却する行為を晴海選手村要因という。
一審判決P14で「選手村要因として次のごとく判示する。
「B道路等のインフラ整備が完了したものとして評価すること、C本件土地を一括して譲渡するものとし、街区毎に評価すること、D特定建築者が後記(4)イの施設建築物(本件施設建物)を建設、取得した上で、本件土地を譲り受けるものとして評価すること、E本件施設建築物の一部を大会期間中に選手用宿泊施設等として使用し、大会後に改修の上、分譲又は賃貸するものとして評価する( これらB〜Eの条件の内容を以下「選手村要因」という)」
そして判決P15の(4)イで本件施設とはどういうものか、次のごとく記す。
「5-3街区については板状棟4棟(3-A棟〜3-D棟。住宅戸数約1490戸)、5-4街区については板状棟5棟(4-A棟〜4-E棟。住宅戸数約690戸)、5-5街区については板状棟6棟(5-A棟〜5-F棟)及びタワー棟1棟(5-T棟。地下1階つき50階建て。板状棟と合わせた住宅戸数約1830戸[甲79の11によればそのタワー棟に係わるものが731戸]、5-6街区については板状棟6棟(6-A棟〜6-F棟)及びタワー棟1棟(6-T棟。地下1階つき50階建て。板状棟と合わせて住宅戸数約1640戸[甲79の11によればそのタワー棟に係わるものが720戸])、5-7街区については、商業棟1棟(7-S棟)の合計24棟(住宅戸数合計約5620戸)である。」
3.最有効使用とは
@ 不動産鑑定評価基準の最有効使用の規程
イ、最有効使用の規程
不動産鑑定評価基準は、最有効使用について下記のごとく規定する。
「不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。
なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P12)
ロ、最有効使用判定の留意事項
最有効使用を判定する場合に注意する点について、不動産鑑定評価基準は7つの項目を列記している。不動産鑑定評価基準の列記する7項目は、下記である。
「(1)良識と通常の使用能力を持つ人が採用するであろうと考えられる使用方法であること。
(2)使用収益が将来相当の期間にわたって持続し得る使用方法であること。
(3)効用を十分に発揮し得る時点が予測し得ない将来でないこと。
(4)個々の不動産の最有効使用は、一般に近隣地域の地域の特性の制約下にあるので、個別分析に当たっては、特に近隣地域に存する不動産の標準的使用との相互関係を明らかにし判定することが必要であるが、対象不動産の位置、規模、環境等によっては、標準的使用の用途と異なる用途の可能性が考えられるので、こうした場合には、それぞれの用途に対応した個別的要因の分析を行った上で最有効使用を判定すること。
(5)価格形成要因は常に変動の過程にあることを踏まえ、特に価格形成に影響を与える地域要因の変動が客観的に予測される場合には、当該変動に伴い対象不動産の使用方法が変化する可能性があることを勘案して最有効使用を判定すること。
特に、建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。
(6)現実の建物の用途等が更地としての最有効使用に一致していない場合には、更地としての最有効使用を実現するために要する費用等を勘案する必要があるため、建物及びその敷地と更地の最有効使用の内容が必ずしも一致するものではないこと。
(7)現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を行う場合のそれらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量すること。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P20)
A 最有効使用とは
最有効使用とは、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用を云う。
ただし、この最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法を云う。つまり特殊能力のある人による使用を前提にしていないことである。
不動産は、不動性という特性から、他の不動産と共に、ある地域を形成し、その地域の構成分子として、互いに依存、補完、協働、代替、競争の関係をもって、社会的・経済的な有用性を発揮する地域性を形成する。
不動産は必ずいずれかの地域に属し、不動産の効用は地域に現れる。
地域に現れた不動産の効用による使用状態の標準的な使用は、当該土地の最有効使用の判断に大きく影響与える。
地域の土地の標準使用と整合性をもつ土地使用が、当該土地の最有効使用である。
但し、上記の土地利用が用途的に最有効使用の用途であっても、対象地上に建てられている建物、或いは建てる建物と土地との関係が、均衡しているものでなければならない。
均衡している状態とは具体的にどういうものかと云えば、10階建の商業ビルが建ち並ぶ銀座中央通り沿は10階建の商業ビルの土地利用が土地建物が均衡している状態であり、そこに2階建の店舗ビルが建っていたとすると、2階建ビルが建っている土地利用の状態は均衡していない土地利用という。
それを数値として端的に証明するのは、都市計画法による許容延べ床面積に対する当該建物延べ床面積の割合である。
許容延べ床面積が1000uである土地は、延べ床面積1000uの建物が建つ土地であり、その状態が最有効使用の土地利用であるが、建っている建物或いは建てる予定の建物の延べ床面積が400uとか500uの建物の場合、その土地利用は最有効使用の土地利用とは云わない。
そして、最有効使用の判断には、建築条件、建物の制限、建設期間等は影響を及ぼさず、出来上がった建物が地域の標準使用と整合性があるか、土地と均衡しているかという事実状態で判断される。
4.晴海選手村土地利用は最有効使用である
@ 選手村の用途地域、容積率、建築延べ床面積
イ、用途地域、容積率、建築延べ床面積
晴海選手村土地の都市計画法・地区計画で決定されている用途地域、容積率、用途地域による建物制限は、都側鑑定P37によれば、下記である。
街区 用途地域 容積率 5-3 商業地域 300% 5-4 商業地域/準工業地域 300% 5-5 商業地域 400% 5-6 商業地域 400% 5-7 商業地域 500%
街区 | 容積率 | 土地面積 u | 法定延べ床面積 u | 実際延べ床面積 u |
5-3街区 | 300% | 26300.14 | 78900.42 | 115764.50 |
5-4街区 | 300% | 23633.20 | 70899.60 | 107599.73 |
5-5街区 | 400% | 37441.27 | 149765.08 | 227870.11 |
5-6街区 | 400% | 35175.79 | 140703.16 | 211199.98 |
5-7街区 | 500% | 11355.86 | 56779.30 | 29500.00 |
合計 | 133906.26 | 497047.56 | 691934.32 |
5-3街区 1.47倍 5-4街区 1.52倍 5-5街区 1.52倍 5-6街区 1.50倍実際の延べ床面積は、都市計画法の許容延べ床面積に対して1.47倍〜1.52倍である。
802,000円−49,500円=752,500円/uである。