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1.はじめに
東京晴海の東京オリンピック選手村建物は、オリンピックの選手村として3ヶ月程度使用したあとは、内装替えを行い、一般の人々に分譲マンションとして売り出すとして作られた。
その分譲マンションは「晴海フラッグ」という名称で、何回かに売出期日が分けられて売り出され、高い競争率で人気のマンションとして販売購入されている。規模大の分譲マンションが何回に分けて販売することは、売主のリスク回避のために行われる行為である。
選手村土地を所有する東京都及び都側不動産鑑定会社は、オリンピック選手村要因という建物であるため、建物の設計の制限、建設期間の制限等によって土地利用が制限され、土地の最有効使用が妨げられることから、オリンピック要因は土地価格に大きく影響すると云って、晴海選手村土地価格を甚だ安い価格で査定し、その安い価格で、ディベロッパーに売り渡してしまった。
3+2は5である。それ故、5−2は3になるのが、世の人々の認識であり、物事の道理である。
分譲マンションの価格は、
土地価格+諸経費を含む建築費=分譲マンション価格
の算式で成り立っている。
土地価格が「3」、諸経費を含む建築費が「2」であり、分譲マンション価格が「5」に相当と考えればよい。
「晴海フラッグ」の名称マンションも居宅分譲マンションとして売り出される経済行為であることから、上記算式の成り立つ道理で価格形成されている。「晴海フラッグ」分譲マンションは、上記道理の算式に当てはまらない価格形成であるという論理主張は通用しない。
東京オリンピック出場の選手達の宿舎として使用された晴海選手村の建物が、「晴海フラッグ」の名称マンションで売り出された。
その実際の分譲価格から、土地価格は如何ほどであるのか分析する。
2.都側鑑定の建築費は規模大要因を考えておらず、高すぎる
この2(章)、次の3(章)は、鑑定コラム2645)と同じである。鑑定コラムを初めて読む人もいることから省略せずに記す。それ故、鑑定コラム2645)を読んだ人は、飛ばして4(章)に行って下さい。
@ 建物規模の大きさに伴う建築工事費の単価逓減
商品の取引においては、取引数量が多くなると金額総額も大きくなるため値引き減額されることが多い。大量の商品の仕入によって仕入れ価格を抑え、小口売りは高い価格で販売することによって利益を増やす。このやり方は商いの常識である。
この大量仕入れと価格逓減の関係は、建物建築の場合にも適用されている。
建物を建てる場合、建物の規模が大きくなるにつれて建築費の総額はふくらむが、u当り単価でみると安くなっている。
この現象は建物全てに適用されるとは言い難いが、ほぼ適用出来る(拙著『賃料<家賃>評価の実際』219頁「建物面積と価格」)。
A 建築工事原価分析情報データ
『建築工事原価分析情報』大成出版社、建設工業経営研究会編著1999年4月)において、建築物の原価が調査・分析されて発表されている。建築費データの協力会社は鹿島、竹中工務店、大林組、清水建設等総合建設会社30社、設備専門会社10社である。そのP64に面積と単価の分析が行われている。以下抜粋する。
(データ)
|
|
|
|
(千円/u)
|
|
集合住宅
|
集合住宅
|
事務所
|
事務所
|
面積 u
|
SRC
|
RC
|
SRC
|
RC
|
1000未満
|
280.6
|
248.8
|
460.8
|
303.9
|
1000〜2999
|
241.6
|
213.9
|
299.2
|
251.7
|
3000〜4999
|
209.5
|
199.7
|
332.5
|
231.6
|
5000〜9999
|
189.9
|
181.5
|
314.0
|
227.6
|
10000〜29999
|
187.7
|
187.5
|
291.7
|
289
|
平均
|
221.9
|
206.3
|
339.6
|
260.8
|
標準偏差
|
35.2
|
24.0
|
62.2
|
30.6
|
変動係数
|
0.159
|
0.116
|
0.183
|
0.117
|
(注) SRC:鉄骨鉄筋コンクリート造 RC:鉄筋コンクリート造
B 面積による価格比
1000u未満の工事費の評点を100として、各面積区分の工事費を評点化すると次の通りである。
(評点)
|
|
|
|
|
|
集合住宅
|
集合住宅
|
事務所
|
事務所
|
面積 u
|
SRC
|
RC
|
SRC
|
RC
|
1000未満
|
100
|
100
|
100.0
|
100
|
1000〜2999
|
86
|
86
|
65.0
|
83
|
3000〜4999
|
75
|
80
|
72.0
|
76
|
5000〜9999
|
68
|
73
|
68.0
|
75
|
10000〜29999
|
67
|
75
|
63.0
|
95
|
平均
|
79.2
|
82.8
|
73.6
|
85.8
|
標準偏差
|
12.4
|
9.7
|
13.5
|
10.1
|
変動係数
|
0.157
|
0.117
|
0.183
|
0.118
|
C 平成28年の東京RC造住居専用住宅の建設統計
国土交通省が発表している『建築着工統計調査』によると、平成28年(2016年)の東京のRC造住居専用住宅の建築統計は、下記である。
建築物の数 2090棟
床面積の合計 3,208,451u
工事費予定額 94,513,914万円
これよりu当り建築工事費は、
94,513,914万円÷3,208,451u=29.46万円/u
である。これに設計監理費を5%加算すると、
29.46万円×1.05≒30.93万円/u
である。
1棟当りの面積は、
3,208,451u/2090棟=1,535u
である。
つまり、1棟の建築面積1,535uのRC造居住専用建物のu当り建築費は、30.93万円ということである。
D 5−4街区B棟(RC造14,454.66u)のマンションの建築費(平成28年時)
5−4街区のB棟を晴海選手村土地上に建てられた分譲マンションの代表例として分析する。
5−4街区のB棟マンションであるRC造14,454.66uを例にとり、東京におけるマンションの建築費を算定すると、以下の通りとなる。
国交省の『建築着工統計調査』によると、東京のRC造の居住専用建物の建築費はu当り29.46万円である。これに設計監理費5%を加算するとu当り30.93万円である。
1棟の平均面積は、上記の通り1,535uである。
前記の建築面積と価格の関係の評点を利用すれば、
1,535uの評点 86
14,454.66uの評点 75
である。
14,454.66uの建築費の単価は、
30.93万円×(75/86)= 26.97万円/u
である。
総額は、
26.97万円/u×14,454.66u=388,396万円(38億8396万円)
である。
E 都側鑑定の建築工事費に根拠の証拠提示がないこと
都側鑑定の調査報告書(以下「都側鑑定」と呼ぶ)においては、東京中央区にある地域街区に建設予定の板状棟居住建物の建築工事費について、調査報告書P79で、いきなり工事費は、
5-4街区 u当り355,000円
5-5街区 u当り350,000円
5-6街区 u当り360,000円
と単価が記載されている。しかし、これらの単価がどの様にして求められたのか、合理的根拠の説明は全く無い。
かかる単価が適正であると判断するためには、建設会社或いは設計事務所の見積書の証拠とか、類似建物の実際の工事費の証拠提示とか、国交省の建設統計データを示して決めたとか、根拠の証拠提示が必要である。
タワー棟(50階)の建築単価も、同頁で402,000円/uと価格数値のみ記載されても、その根拠の証拠提示も無く、適正であると判断することは不可能である。
未着工ではあるが、開発法で24棟の建物の建物建築工事費を控除して土地価格を求めるのであるから、建築工事費は非常に重要な金額となる。
その建築工事費の見積書等の証拠となるものも無く、どれ程建築工事費が適正であると主張しても、根拠の証拠提示がないものを適正と認めることは出来ない。
この鑑定評価は失当である。
まして、裁判は証拠が重視され、証拠の真贋の判断によって論が進められるものである。
建物建築工事費見積書という書類を証拠提出せよ。
F 建築工事費を意図的に高額としていると考えられること
上記によって同じRC造の面積の同じ用途の建物建築費で、2つの価格が求められた。
イ、国交省の建設統計の平均工事費から 38億8396万円
ロ、報告書工事費 355,000円/u×14,454.66u 51億3140万円
両工事費に12億4744万円の差が出た。u当りでは14,454.66uで除すと、
12億4744万円÷14,454.66u=8.63万円=86,300円/u
である。
その開差は、ロ/イ≒1.32、即ち32%の開差にもなる。
何故この様な大きな価格差が生じたか。
それは建物の建築工事費は、延床面積が大きくなると単価は安くなるという事を考えずに、都側鑑定は工事費を決定しているからである。
かかる手法は、建物価格の総額を意識的に高くするやり方であると判断せざるを得ない。
5-7街区(S造の店舗であるため除く)を除く、5-3〜5-6街区にある全ての建物についても、概ね同様に高額な工事費とされていることから、同様な不自然な操作をしているであろうと予測される。
上記で求められた86,300円/uに、5-3〜5-6の総延床面積を乗じて概算の建築工事費のかさ上げ額を求めると、以下の通りとなる。
街区全棟床面積
5-3街区 115,764.50u
5-4街区 107,599.73u
5-5街区 227,870.11u
5-6街区 211,199.98u
合計 662,434.32u
工事費:86,300円/u×662,434.32u≒57,168,000円(571億円)
建物価格(建築工事費)が、およそ571億円程度かさ上げされていると云うことになる。
この様な建物の鑑定評価を行うべきものでは無い。建物価格は失当である。
このことについて、控訴審判決はP56〜57に掛けて、次のごとく判示する。
「また、田原意見書は、国土交通省の「建築着工統計調査」等を用いて、本件調査報告書の建築工事費がかさあげされている旨主張するが、上記「建築着工統計調査」から建築工事費単価及び一棟当りの床面積を求めるに当たり、建築面積による相違等を勘案せず各種数値を単純平均して求めている上、選手村要因を考慮しておらず、これにより本件調査報告書における建築工事費が高額となっているということもできない(乙69)。」
全く証拠の裏づけの無い都側鑑定の建築工事費が適正と裁判官は判示している。
証拠不要の裁判姿勢である。
証拠不要の判示姿勢であるから、これでは、建築工事費はu当り40万円でも50万円でも、全て適正ということになる。
その様な控訴審裁判官の証拠無視の判決は失当も甚だしい。
3.国土利用計画法の施行に伴う新築分譲マンション価格査定指針の課長通達
『国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評価等について』(昭和50年1月20日 50国土地第4号 旧国土庁土地局地価調査課長)の第2.5.イは、「土地と新築建物を一括譲渡する場合の当該建物の譲渡額相当額の算定については、別記2により算定した額を基準とすることができるものとする。」としており、別記2は「土地の建物(新築に限る)を一括譲渡する場合の建物の譲渡相当額は、次式により算出するものとする。
「建物建築原価×142%=建物の譲渡価額相当額」
としている。建物建築原価とは、建築工事費をいう。
要約すれば、新築分譲マンションの建物価格は、建物原価の42%増までしか認めないという通達であり、いわゆる「42%通達価格」と言われている。
当時は土地価格が急騰し、マンション適地土地の地価高騰を抑制する為に、旧国土庁が課長通達として出したものである。
42%の中には、マンション分譲の諸費用及び分譲業者の利潤も含まれている。
算式は、マンション価格と土地建物価格の関係を端的に表したものであり、現在においても利用価値は高い。
通達は、「土地と新築建物を一括譲渡する場合の当該建物の譲渡額相当額の算定」と云っている。これは新築の分譲マンションの価格のことである。つまり適正分譲マンションの価格の査定指針を述べた課長通達である。
上記の建物の譲渡価額相当額に土地価格を加算すれば、分譲マンションの適正な分譲総額が求められる。すなわち、下記の算式で求められる分譲価格が「42%通達価格」である。
土地価格+建築工事費×1.42=分譲総額
42%通達価格は、実際の販売額が適正な範囲か検証するための査定指針である。
4.「晴海フラッグ」5-6街区の部分的分譲マンション価格
@ 板状棟の部分的分譲マンション価格
「晴海フラッグ」の分譲マンションは、14階〜18階の板状棟と50階建のタワー棟の2種類がある。タワー棟のある街区は、5-5街区と5-6街区である。
板状マンションとは、横長の板を立てたような形状をした集合住宅を云う。住戸は横1列に並び、片面に外廊下が通っている。玄関は外廊下にある。
分譲マンションは、一棟全部同時に売り出される訳では無く、数回に分かれて販売されるのが、業界の一般的な販売方法である。この販売行為は、前述したマンション販売業者のリスク回避のために行われる行為である。
5-6街区も板状棟が6棟のマンションがあることから、数回に分かれて販売されている。
街区の板状棟の販売全戸の分譲を待っていることは出来ず、販売1期目等の数棟の分譲戸の価格の平均価格を街区の分譲マンションの平均価格とみなして、街区の板状棟分譲マンションの価格とする。
2019年以降に晴海フラッグ5-6街区のマンション(「パークビレッジ」と呼ばれている)の板状棟の部分戸が売り出された。
売り出された「パークビレッジ」A棟、B棟、C棟、F棟の部分戸の販売価格総計、専有面積の総計、平均価格の計算は、不動産鑑定士桝本行男氏によれば、下記の通りである。
総販売額 総専有面積
A棟 674,930万円 5,643.98u
B棟 1,001,040万円 11,739.78u
C棟 1,244,140万円 15,266.80u
F棟 927,620万円 10,053.29u
計 3,847,730万円 42,703.85u
平均u当り価格は、
3,847,730万円÷ 42,703.85u=90.10265万円/u
≒900,000円/u
u当り900,000円である。
都側鑑定の価格は、u当り740,000円(都側鑑定P63)である。
現実の分譲価格は900,000円である。
740,000円÷900,000円=0.822
都側鑑定の分譲価格は、▲17.8%安く設定されている。
都側鑑定の分譲価格は安すぎると指摘すると、都側鑑定会社は適正価格であると猛反撃して、指摘する田原意見書を悪しく批判する。そのことについては鑑定コラム2587)「晴海選手村土地控訴審採用意見書の『中古マンション値づけ法』の駅距離修正率への激しい批判について」に記してある。
上記の実際の分譲価格より、都側鑑定の分譲価格はおよそ▲17%安いことが実証された。
以下に、不動産鑑定士桝本行男氏が価格分析した5-6街区「パークビレッジ」A棟、B棟、C棟、F棟の売出価格一覧と計算を転載する。
5-6街区 A棟(左クリックすれば大きくなります)
5-6街区 B棟(左クリックすれば大きくなります)
5-6街区 C棟(左クリックすれば大きくなります)
5-6街区 F棟(左クリックすれば大きくなります)
A タワー棟の分譲価格
5-6街区の50階建のタワー棟1棟である。
分譲マンションは、一棟全部同時に売り出される訳では無く、数回に分かれて販売されるのが、業界の一般的な販売方法である。この販売行為は、前述したマンション販売業者のリスク回避のために行われる行為である。
5-6街区のタワー棟のマンションも、数回に分かれて販売されている。
タワー棟販売全戸の分譲を待っていることは出来ず、販売1期目等の分譲戸の価格の平均価格を街区のタワー棟分譲マンションの平均価格とみなして、街区のタワー棟分譲マンションの価格とする。
2023年9月以降に晴海フラッグ5-6街区のマンション(「パークビレッジ」と呼ばれている)のタワー棟の部分戸が売り出された。
売り出された「パークビレッジ」タワー棟の部分戸の販売価格総計、専有面積の総計、平均価格の計算は、不動産鑑定士桝本行男氏によれば、下記の通りである。
総販売額 総専有面積 戸数
タワー棟31〜50階 1,749,230万円 12,259.58u 154戸
タワー棟19〜30階 927,639万円 7,175.91u 92戸
タワー棟 3〜18階 340,730万円 3,389.80u 57戸
計 3,017,599万円 22,823.29u 303戸
平均u当り価格は、
3,017,599万円÷ 22,823.29u=132.2158万円/u
≒1,320,000円/u
u当り1,320,000円である。
都側鑑定の価格は、u当り909,000円(都側鑑定P62)である。
現実の分譲価格は1,320,000円である。
909,000円÷1,320,000円=0.689
都側鑑定の分譲価格は、▲31.1%安く設定されている。
都側鑑定の分譲価格は安すぎると指摘すると、都側鑑定会社は適正価格であると猛反撃して、指摘する田原意見書を悪しく批判する。そのことについては鑑定コラム2587)「晴海選手村土地控訴審採用意見書の『中古マンション値づけ法』の駅距離修正率への激しい批判について」に記してある。
上記の実際の分譲価格より、都側鑑定の分譲価格はおよそ▲31%安いことが実証された。
以下に、不動産鑑定士桝本行男氏が価格分析した5-6街区「パークビレッジ」タワー棟31〜50階 、19〜30階、3〜18階の売出価格一覧と計算を転載する。
5-6街区 タワー棟31〜50階(左クリックすれば大きくなります)
5-6街区 タワー棟19〜30階 3階〜18階(左クリックすれば大きくなります)
5.適正土地価格を立証する算式
都側鑑定は、街区5-6の分譲マンションの平均価格を
板状棟 u当り 740,000円
タワー棟 u当り 909,000円
とする。
都側鑑定は、建物建築費は、東京都のRC造延床面積1,535uの居住専用建物の価格がu当り30.93万円であるにも係わらず、25,5647.29uの大規模な5-6街区のC棟の板状棟建物の建築費をu当り36.0万円とする。
タワー棟86,008.78uの建築費をu当り40.2万円とする。
建物規模が大きくなると建築工事費は安くなると云うのが経済経験則による原則であるが、そのことを都側鑑定は全く考慮していない。
都側鑑定は、それ等の数値によって、5-6街区の土地価格をu当り77,300円(P108)と求める。総額27億2千万と求める。
但し、この金額にはオリンピック組織委員会が借り上げる家賃は含まれない。
[(注) 都側鑑定は、5-6街区の土地価格を35.43億円と鑑定評価する。この金額の中にはオリンピック組織委員会が借り上げる家賃が含まれている。
開発法土地価格+家賃=土地鑑定評価額
という算式で土地鑑定評価額を求めている。
家賃が土地評価額になる不動産鑑定評価額など無い。不動産鑑定評価として失当である。不動産鑑定評価基準違反も甚だしい。]
都側鑑定の5-6街区のu当り77,300円と云う金額が、実際の分譲価格(板状棟u当り900,000円、タワー棟u当り1,320,000円から求められるか否か分析する。
u当り77,300円の土地価格が求められれば、都側鑑定のu当り77,300円は、「逆も真なり」で適正と云うことになる。
大きく離れた土地価格が求められた場合は、都側鑑定の土地価格は間違っており、「逆も真なり」の算式で求められた価格が適正価格ということになる。
適正価格か否か検証する算式は、下記の算式とする。
街区土地価格をXとする。
街区土地価格(X)+建物建築費×(100/132)×1.42=街区分譲マンション価格
上記式を変型すると、
街区土地価格(X)=街区分譲マンション価格−建物建築費×(100/132)×1.42
である。建物建築費×(100/132)×1.42を「建物価格等」と呼ぶことにする。
建物建築費は、都側鑑定の建物建築費を採用する。
建物建築費に乗じる(100/132)は、都側鑑定の建物建築費は前記したごとく規模大による建築費逓減の要因をしていないための修正率である。
建物建築費に乗じる1.42は、分譲マンション販売のための宣伝費、販売及び事務管理費、利益、借入金利等を含めた修正率である。前記した国土利用計画法施行に伴い、適正な新規分譲マンション価格の査定指針として、旧国土庁が全国の地方公共団体に課長通達として通知した数値である。
6.板状棟とタワー棟の敷地面積
@ 敷地面積配分方法
5-6街区は、14階〜18階の板状棟6棟と50階のタワー棟1棟の土地利用である。
土地面積35,175.19uは、板状棟とタワー棟の建築延べ床面積の割合で配分する。
A 建物延床面積と割合
都側鑑定P8より、5-6街区のタワー棟の延べ床面積は、87,797.36uである。
5-6街区に建つ建物7棟の総延べ床面積は、211,199.98uである。
板状棟の建物の延べ床面積は、
211,199.98u−87,797.36u=123,402.62u
である。
タワー棟の延べ床面積の総延べ床面積に占める割合は、
87,797.36u÷211,199.98u=0.4157
である。
板状棟建物の延べ床面積の総延べ床面積に占める割合は、
123,402.62u÷211,199.98u=0.5843
である。
B タワー棟、板状棟棟の土地面積
5-6街区の土地面積は、35,175.19uである。
タワー棟の土地面積は、
35,175.19u×0.4157=14,622.33u
である。
板状棟の土地面積は、
35,175.19u×0.5843=20,552.86u
である。
7.5-6街区の板状棟の土地価格
@ 分譲価格
5-6街区の板状棟は、A、B、C、D、E、F棟の6棟である。そのうち売り出されたのは、A、B、C、F棟の4棟の部分戸である。
分譲された4棟の平均価格は、上記に記したごとく不動産鑑定士の桝本行男氏の計算によれば、u当り900,000円である。
[(注)5-6街区板状棟全戸の分譲価格では無い。全戸の分譲価格が分かった場合、その平均価格より高かったり、低かったりの開差が生じるかも知れないが、その開きが生じることは止むを得ないものとする。]
5-6街区の分譲可能面積は、都側鑑定のP105によれば、76,170.47uである。
総分譲価格は、
900,000円×76,170.47u=68,553,423,000円
≒68,550,000,000円 (685.5億円)
である。
A 建物建築費
板状棟建物建築費は、都側鑑定P106より、44,424,943,200円≒44,420,000,000円(444.2億円)である。
B 建物価格等
板状棟建物価格等は、
444.2億円×(100/132)×1.42=477.851億円≒447.9億円
である。
C 土地価格
イ、2019年の土地価格
5-6街区の板状棟分譲マンションが売り出されたのは、2019年である。
2019年時の土地価格は、分譲価格が上記より685.5億円、建物価格等が447.9億円であるから、
685.5億円−447.9億円=207.6億円
である。
5-6街区の板状棟の土地面積は、前記より20,552.86uである。
5-6街区の板状棟の土地のu当り価格は、
20,760,000,000円÷20,552.86u=1,010,078円
≒1,010,000円
である。
ロ、時点修正
時点修正とは、取引時点が異なる事例や評価時点が異なる評価例を、同じ価格時点での価格にするために、地価変動率を乗じて、同じ時点での価格にする行為をいう。
価格時点は、平成28年(2016年)4月1日である。
2016年〜2019年までの時点修正率を求める。
対象地の近隣地域の中に、東京都の基準地中央−3がある。
(中央−3)
中央区晴海5−1−9
2016年7月 u当り950,000円
2019年7月 u当り1,040,000円
この基準地価格の変動率採用する。
950,000円÷1,040,000円=0.913
時点修正率を0.913と求める。
ハ、板状棟の土地価格
平成28年4月1日時点の土地価格は、
1,010,000円×0.913=922,130円
≒922,000円
u当り922,000円と求める。
板状棟の土地総額は、
922,000円×20,552.86u=18,949,736,920円
≒18,950,000,000円
である。189.5億円である。
8.5-6街区のタワー棟の土地価格
@ タワー棟の分譲価格
5-6街区のタワー棟1棟である。タワー棟の平均価格は、上記に記したごとく不動産鑑定士の桝本行男氏の計算によれば、u当り1,320,000円である。
[(注)5-6街区タワー棟全戸の分譲価格では無い。全戸の分譲価格が分かった場合、その平均価格より高かったり、低かったりの開差が生じるかも知れないが、その開きが生じることは止むを得ないものとする。]
5-6街区のタワー棟分譲可能面積は、都側鑑定のP105によれば、53,492.61uである。
総分譲価格は、
1,320,000円×53,492.61u=70,610,245,200円
≒70,610,000,000円 (706.1億円)
である。
A 建物建築費
タワー棟建物建築費は、都側鑑定P106より、35,294,538,720円≒35,300,000,000円(353.0億円)である。
B 建物価格等
タワー棟建物価格等は、
353.0億円×(100/132)×1.42=379.742億円≒379.7億円
である。
C 土地価格
イ、2023年の土地価格
5-6街区のタワー棟分譲マンションが売り出されたのは、2023年である。
2023年時の土地価格は、分譲価格が上記より706.1億円、建物価格等が379.70億円であるから、
706.1億円−379.7億円=326.4億円
である。
5-6街区のタワー棟の土地面積は、前記より14,622.33uである。
5-6街区のタワー棟の土地のu当り価格は、
32,640,000,000円÷14,623.33u=2.232,202円
≒2,230,000円
である。
ロ、時点修正
価格時点は、平成28年(2016年)4月1日である。
2016年〜2023年までの時点修正率を求める。
対象地の近隣地域の中に、東京都の基準地中央−3がある。
(中央−3)
中央区晴海5−1−9
2016年7月 u当り950,000円
2023年7月 u当り1,630,000円
この基準地価格の変動率採用する。
950,000円÷1,630,000円=0.583
時点修正率を0.583と求める。
ハ、タワー棟の土地価格
平成28年4月1日時点の土地価格は、
2,230,000円×0.583=1,300,090円
≒1,300,000円
u当り1,300,000円と求める。
タワー棟の土地総額は、
1,300,000円×14,622.33u=19,009,029,000円
≒19,000,000,000円
である。190.0億円である。
9.5-6街区の土地価格
上記より、5-6街区の板状棟、タワー棟の分譲マンション土地価格は、
板状棟土地 189.5億円
タワー棟土地 190.0億円
計 379.5億円
と求められた。
u当り土地価格は、
37,950,000,000円÷35,175.19u = 1,078,885円
≒ 1,080,000円
である。
都側鑑定の鑑定金額は、u当り77,300円、総額27.2億円である。
10.結論
実際の分譲価格によって求められた5-6街区の土地価格は379.5億円(u当り1,080,000円)である。
都側鑑定の5-6街区の価格は、27.2億円(u当り77,300円)である。
「逆も真なり」であるから、現実の分譲価格から求めても27.2億円の金額になるべきであるが、その金額にはならなかった。
ということは、「都側鑑定の求めている金額は適正な金額だ。都側鑑定の求めた価格が、オリンピック要因を反映した適正な金額である。」という東京都(被控訴人)主張は、明確に間違っていると言うことになる。被控訴人の主張を丸呑みした控訴審判決も間違っているということになる。
上記土地価格分析によって、オリンピック要因は、土地価格に全く影響を及ぼさないことが立証された。
上記立証に基づいて、結論を下記に論述する。
5-6街区の土地価格がu当り1,080,000円であるという事は、近隣地域にある基準地中央−3のu当り950,000円に近い金額である。
(注)基準地価格とは、国土利用計画法に基づいて、各都道府県が主体となって毎年7月1日時点の土地の標準価格のことを云う。その基準地価格は、不動産鑑定士によって評価され、各都道府県が毎年9月末頃に発表している。1月1日時点の適正な土地価格として国土交通省が発表する地価公示価格を補完する適正な土地価格である。
基準地中央−3の950,000円と比較して、5-6街区の地積大、四方路及び南西側は海の眺望可の要因修正すれば1,080,000円と均衡した価格が求められる。
基準地価格は、正常価格である。
基準地価格と均衡すると云うことは、オリンピック要因の土地価格の影響は全く無いことの再びの立証となる。
そして、5-6街区の土地価格は、正常価格の種類価格で求められる土地にあると云うことになる。対象地の価格は、正常価格である事が立証された。
一審裁判官の正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格以外の第5の価格が必要であるという判示など必要性は無く、その判示は、裁判官の証拠分析能力の著しい欠如を晒けだしてしまっただけである。
上記より、5-6街区の土地価格の種類は正常価格であることが立証された。このことから、周辺の土地取引事例と比較して求めることが出来、取引事例比較法を行わなければならない。
この取引事例比較法について、都側鑑定会社、東京都(被控訴人)そして控訴審判決は、次の様な主張及び判決である。
都側鑑定会社は、私が一審判決への意見書(「甲第180号証」として控訴審で証拠採用されている)P8〜12で、選手村要因は建物の工事費等に関するものであり、土地価格には影響しなく、土地の取引事例比較法は出来、それを行わない都側鑑定は不動産鑑定評価基準違反であり、一審判決は失当であると指摘したことに対して、下記のごとく、長々と反論主張して来た。転載する。
長いが我慢して読んで頂きたい。文中に当該反論した不動産鑑定会社の名前が出て来るが、それは「都側鑑定会社」の名称に置き換えて、転載する。
(都側鑑定会社反論書)
「まず、前述しているように、選手村要因は建物の工事費のみの問題でなく、本件土地の使用収益という効用を制限する条件である以上、本件土地の価格に影響する問題であり、田原意見書はそのことを全く理解できていない。
そうであれば、取引事例比較法における類似の取引事例の収集においても選手村要因という条件設定は考慮されなければ比較可能な事例とは言えない。
都側鑑定会社(反論書では、不動産鑑定会社の名前が記されているが「都側鑑定会社」と記す。田原記入。以下同じ。)の調査報告書は選手村要因という条件を設定することにより、不動産鑑定評価基準に則ることができない場合に該当するものであるから、当該条件設定が不動産鑑定評価基準に違反することはない。
そのうえで、詳しくは後述するが、選手村要因という条件設定することは、当該条件は、東京オリンピック・パラリンオリンピックの選手村として利用することを前提とした土地譲渡における最低入札売却価格を定めるために必要となる条件であり、依頼目的及び利用者の範囲等に照らし、不動産鑑定評価基準に則らないことに合理的理由が認められるので、何ら問題はない。
また、取引事例比較法を適用できない場合があることを不動産鑑定評価基準等は想定しているのであって(不動産鑑定評価基準に関する実務指針−平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について(乙第29号証 106頁27〜36行目))、取引事例比較法を適用できない事情・合理的理由があれば、取引事例比較法を適用しなくとも不動産鑑定評価基準等に違反することはない。
さらに、選手村要因という特殊な条件を課された事例を収集することができないことは田原意見書も認めるところであるうえで、都側鑑定会社の調査報告書(乙34号証10頁)では本件土地の価格を、選手村要因を勘案して適用可能な開発法により算出している。
したがって、都側鑑定会社の調査報告書(乙34号証10頁)が取引事例比較法を適用できないと判断したことは適切であり、かかる都側鑑定会社の調査報告書を是とした地裁判決も適切であり、選手村要因を考慮することなく取引事例比較法を適用するべきとした田原意見書は取引事例比較法の理解を誤った、不適切なものと言わざるを得ない。」(乙第69号証 都側鑑定会社意見書 P10〜11)
(東京都(被控訴人))
控訴審判決はP19〜20で、東京都(被控訴人)の主張の要旨を、次のごとく記述している。
「本件土地を譲渡する目的は、本件土地を本件大会の選手村として利用することにあり、選手村要因を考慮しない価格は本件事業における価格等調査の目的にそぐわないものであり、単に東京都港湾局の取引事例であることのみをもって類似の不動産の取引としたり、土地の利用方法や特定建築者に対し著しく大きな利用制限が付くという点を無視することは不適切である。」
と主張する。
加えて、同控訴審判決はP23で、東京都(被控訴人)が都側鑑定会社の主張を下敷きにしたのか、次の如く主張していることを記している。
「取引事例比較法における類似の取引事例収集においても、選手村要因という条件設定は考慮されなければならないところ、かかる特殊条件の課された事例を収集することはできず、本件土地の価格を取引事例比較法により評価することはできない。」
と述べる。
(控訴審判決)
控訴審判決は、被控訴人(東京都)及び都側鑑定会社の主張を、全面的に取り入れて、次のごとくP48で判示する。
「取引事例比較法については、鑑定基準において、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域において対象不動産と類似の不動産の取引が行われる場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われる場合に有効であるとされるところ、本件土地の近隣地域又は同一需給圏内の類似地域において、本件譲渡契約と同等に土地の譲受人が一般的な土地利用・開発スケジュール・建物仕様等と異なることに起因する負担や制約を負うことなどの条件が付された取引がされているとは認められず、東京都内における広大地の取引事例との比較から上記条件を考慮した本件土地の価格を査定するための的確な事情補正を行うことも困難といえる。」
と判示する。
控訴審判決は、上記のごとく東京都(被控訴人)、都側鑑定会社の主張を認めて、取引事例比較法を行わなくて土地価格を求めることを適正と判示する。
しかし、選手村土地の上に建てられた分譲マンションは、被控訴人の東京都が主張する選手村要因を取り入れて建てられたものである。
その建てられた実際の分譲マンション販売価格から「逆も真なり」で求められた5-6街区の土地価格は、u当り1,080,000円である。被控訴人の東京都及び都側鑑定の主張するu当り77,300円では無い。
この1,080,000円/uの土地価格は、近くにある基準地中央-3の950,000円/uの価格と均衡する土地価格である。
基準地価格は、収益価格も関与するが、基準地周辺に所在する土地取引事例より求められた比準価格が主として価格形成している。基準地価格は正常価格である。
選手村要因を含んで建てられた分譲マンションの実際の販売価格から「逆も真なり」で求められた5-6街区の土地価格が、近くの基準地価格と均衡している事実は、対象土地は、充分周辺の土地取引事例と比較して求めることが出来ると云うことを示している。
つまり、東京都(被控訴人)、都側鑑定会社の上記選手村要因云々の主張は、真っ赤な虚偽主張であると言うことが立証されたのである。
一審及び控訴審裁判官は、見事に騙されて判決文を書いたということになる。
加えて、一審及び控訴審裁判官は、不動産価格の適正判断知識に著しく欠けていることを、自ら暴露してしまったことになる。その様な裁判官の書いた控訴審判決は失当であろう。
求められた対象地の価格が、基準地価格と均衡すると云うことは、基準地は正常価格の性質を持つものであるから、5-6街区の土地価格は、正常価格の種類価格で求められる土地にあると云うことになる。
5-6街区の土地価格の種類は正常価格であることになる。正常価格であるとなれば、地価公示価格との規準を行わなければならない。
対象地は選手村要因があるから正常価格を求められないと声高に主張する都側鑑定の主張は、虚偽主張であることから、地価公示価格との規準をしていない都側鑑定は、地価公示法違反の鑑定となる。
このことに関して、控訴審判決P57で、次のごとく判示する。
「控訴人らは、田原意見書に基づき、本件調査報告書は、地価公示法により定められた地価公示価格を規準としておらず、同法に違反する旨主張する。
しかしながら、前述のとおり、本件調査報告書は、本件土地の使用収益を制限する条件である選手村要因を考慮することによって最有効使用を前提とする正常価格を求めることは出来ず、鑑定評価基準に定めの無い価格の種類を求めるものであるから、公示価格を規準としていないとしても、地価公示法に違反しないものと解釈される。
したがって、控訴人らの上記主張は採用することはできない。」
と判示する。
判決は、地価公示価格の規準が出来ない理由として、下記の条件を挙げる。
イ、本件土地の使用収益を制限する条件である選手村要因がある。
ロ、最有効使用の土地利用がなされていない。
ハ、鑑定基準に定めの無い価格の種類を求めるもの。
イの選手村要因は土地収益を制限する条件と判示するが、前記「逆も真なり」で求められた土地価格より、判断すれば、選手村要因は何ら土地収益を制限していないことが立証された。
求められた価格が近隣にある基準地価格と均衡している価格水準で求められたことが、さらに、そのことを立証補強する。何故かならば、基準地価格は正常価格であるから。
ロの本件土地は、選手村要因で最有効使用の土地利用がなされていないと判示するが、その判示は、裁判官の甚だしい勘違いである。
本件土地は、最有効使用の土地利用がなされている。5-6街区は、都市計画法上の用途地域は、商業地域で、容積率は400%である。
そこに建てられている7つの建物の都市計画法による許容延床面積は140,703.16 uであるが、実際に建てられている延床面積は211,199.98 uである。
許容される建築面積の1.50倍(211,199.98 u÷140,703.16 u=1.50)の面積の建物の土地利用がなされている。
この土地利用の状態であるにもかかわらず、最有効使用の土地利用がなされていないと判示するのか。
最有効使用で無いと判示する裁判官は、最有効使用の状態とはどういうものを云うのか、全くわかっていないのでは無いのか。全く分かっていない知識の状態で、5-6街区は最有効使用の土地利用がなされていないと判示しているようであり、失当の判決と非難されても仕方無かろう。
5-6街区の土地は最有効使用されている。それ故、土地利用の制限はされていると云う主張は失当である。
ハの「鑑定基準に定めの無い価格の種類を求めるもの」と判示するが、5-6街区の「逆も真なり」で求められた土地価格は、正常価格の種類の価格と判断出来るものであり、上記判示は間違っている。
上記各項目の検討から、「公示価格を規準としていないとしても、地価公示法に違反しないものと解釈される」の判示は間違っている。都側鑑定は、地価公示法違反の鑑定評価である。
都側鑑定の価格の正当性を担保するものは何も無く、著しく失当な鑑定である事が立証された。
5-6街区の土地価格は、379.5億円程度ということが、立証された。
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