2654) 晴海選手村都有地売却は都市再開発法108条2項の適用を受けるという控訴審判決は間違い
1.はじめに
東京オリンピック晴海選手村土地不当廉売事件の控訴審判決は、同都有地の市街地再開発事業による都有地売却行為は、都市再開発法108条2項の適用を受けると判決するが、その判決は間違いである事について述べる、
2.地権者たる東京都が本件土地の所有権を失うとともに、施行者たる東京都が新にその所有権を取得したという判示について
@ P36の控訴審判決
控訴審判決は、P36で次のごとく判示する。
「都市再開発法第110条2項に基づき、本件権利変換計画の定めるところにより、本件権利変換期日において、地権者たる東京都が本件土地の所有権を失うとともに、施行者たる東京都が新にその所有権を取得したのであるから、施行者たる東京都は本件再開発事業により本件土地を取得したものとして同法108条2項の適用を受けるものと解される。」
(注)110条2項は、権利者全員同意の場合の特則条項である。
この判決に対して、以下のごとく間違いを指摘する。
A 都有地の所有権移転は、議会の承認が必要
控訴審判決は、権利変換期日において、地権者たる東京都が本件土地の所有権を失うとともに、施行者たる東京都が新にその所有権を取得したとして、所有権の移動を判示する。
都有地の所有権が移動しているとは思われないが、判決文を書いた裁判官が、そう判断するならば、所有権が判決のごとく移動したとして考えて見よう。
都有地の所有権が移動すると云うことは、それは所有権という権利を譲渡することを意味し、財産の処分行為である。
都有地という財産処分行為は、都議会の承認を得なければならない。
それは地方自治法237条2項に規程してある。
地方自治法237条2項は、下記である。
「第二百三十八条の四第一項の規定の適用がある場合を除き、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない。」
東京都は、市街地再開発事業の権利変換によって、「地権者たる東京都が本件土地の所有権を失うとともに、施行者たる東京都が新にその所有権を取得する」時には、その行為は都有地の財産譲渡行為であるから、都議会の承認を得なければならない。
本件の場合、東京都は都議会の承認行為を行っていない。つまり地方自治法違反を行っていることになる。
控訴審判決は、判決で所有権の移転と自ら判示しておきながら、その行為は所有権の移転で、即ち都有地の譲渡になる事から都議会の承認が必要と云うことを見落している。
東京都の地方自治法違反行為を見落している。
控訴審判決が都有地の所有権が移動していると判断しているすると、上記のごとく、その判断することは、都議会の承認行為が必要であることを見落していることになり、判決は不当ということになる。
B 本件の施行者は東京都という「個人施行」である
控訴審判決は、「施行者たる東京都は本件再開発事業により本件土地を取得したものとして同条108条2項の適用を受けるものと解される。」と判示するが、それは裁判官の勝手な判断である。
本件土地の所有権は、移転していない。土地所有者は地方公共団体の東京都である。
施行者は東京都という「個人施行」である。それ故108条2項を適用することは出来なく、それが適用出来ると判示する判決は間違っている。
3.108条2項の適用を地方公共団体が地方公共団体施行者である場合に限定する旨を定めた法令の規程は存しない等という判示について
@ P35の控訴審判決
控訴審判決は、P35で次のごとく判示する。
「原判決第3の2(3)ウ(同36頁15行目から同38頁41行目まで)において説示するとおり、再開発法108条2項の適用を地方公共団体が公共団体施行者である場合に限定する旨を定めた法令の規定は存しない上、権利変換計画においてあらかじめその管理処分の方法が定められている保留床(同法73条1項15号参照)について、財産の管理処分に関する法令の規程による制限を受けることとなれば、権利変換計画に定められたとおりの管理処分が困難となるおそれがあることは、施行者である地方公共団体が公共団体施行者であるか個人施行者であるかを問わないことからすれば、同項所定の「施行者が地方公共団体であるとき」とは、地方公共団体が公共団体施行者である場合のみならず、個人施行者である場合も含むものと解される。」
この判決に対して、以下のごとく間違いを指摘する。
A 108条2項に「施行者が地方公共団体であるとき」と明記してある
控訴審判決は、再開発法108条2項の適用を地方公共団体が公共団体施行者である場合に限定する旨を定めた法令の規定は存しないというが、108条2項に、
「施行者が地方公共団体であるときは、…(省略 筆者記入)・・・宅地の管理処分については、当該地方公共団体の財産の管理処分に関する法令の規定は、適用しない。」と記してある。
108条の条文は、下記である。
「第百八条 第一種市街地再開発事業により施行者が取得した施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地は、次に掲げる場合を除き、公募により賃貸し、又は譲渡しなければならない。この場合において、施行者は、賃貸又は譲渡後の施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地が当該第一種市街地再開発事業の目的に適合して利用されるよう十分に配慮しなければならない。
(一〜五号までは省略 筆者記入)。
2 施行者が地方公共団体であるときは、施行者が第一種市街地再開発事業により取得した施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の所有を目的とする地上権、施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地の管理処分については、当該地方公共団体の財産の管理処分に関する法令の規定は、適用しない。」
限定するとは書いて無いが、「施行者が地方公共団体であるときは、…(省略 筆者記入)・・・宅地の管理処分については、当該地方公共団体の財産の管理処分に関する法令の規定は、適用しない。」という規程は、都市再開発法108条2項に書いてあることは否定出来ない。
この規程で充分ではないか。他の法令に上記規程を限定してなければ、上記規程は使用出来ないのか。その様なものではないであろう。
上記判決の判示は間違っている。
B 権利変換計画においてあらかじめその管理処分の方法が定められている保留床について、財産の管理処分に関する法令の規程による制限を受けることとなれば、権利変換計画に定められたとおりの管理処分が困難となるおそれがあるという判示について
全員同意型の個人施行の市街地再開発事業は、土地所有権が等価の土地所有権で無く、建物の所有権でも良いという類のものであり、それは土地という財産の処分行為を行うことになる。
全員同意型の個人施行の市街地再開発事業は、事業参加権利者の「同意」が無ければ、権利変換等の行為が行えないことから、「同意」すると云うことは、それ等行為を行うということになる。
それ故、都有地のごとく公有地の場合には、全員同意型の個人施行の市街地再開発事業を行うことは、財産を処分することになることから、議会の同意を得るという行為が必要になる。
議会の同意を得ていることになれば、承認を受ける場合、全員同意型の個人施行の市街地再開発事業における権利変換等の内容について説明しなければ、議会の承認が得られないことから、権利変換等の内容を説明することになる。
そして議会の承認が得られれば、議会の承認を得ていることとなるから、権利変換計画においてあらかじめその管理処分の方法が定められている保留床について、権利変換計画に定められたとおりの管理処分が行われることとなり、判決が判示するごとくの困難となるおそれは生じない。
C 権利変換計画に定められたとおりの管理処分が困難となるおそれがあることは、施行者である地方公共団体が公共団体施行者であるか個人施行者であるかを問わないことからすればという判示について
控訴審判決は、権利変換計画に定められたとおりの管理処分が困難となるおそれがあることは、施行者である地方公共団体が公共団体施行者であるか個人施行者であるかを問わなく等しく生じると判示するが、施行者が地方公共団体の場合は、地方自治法237条2項に従って財産処分は議会の承認を得なければならないことから議会の承認を得る。
一方、公共団体が個人施行者となった場合も、前記したごとく、全員同意型の個人施行の市街地再開発事業に参加することは、公有地の財産の処分をすることに同意することになるから、その事業に参加する前に、議会の承認を得ていなければならなく、得ている事になるから権利変換計画に定められたとおりの管理処分が困難となるおそれは生じない。
それ故、「権利変換計画に定められたとおりの管理処分が困難となるおそれがあることは、施行者である地方公共団体が公共団体施行者であるか個人施行者であるかを問わない」という判示は失当である。
D 同項所定の「施行者が地方公共団体であるとき」とは、地方公共団体が公共団体施行者である場合のみならず、個人施行者である場合も含むものと解されるという判示について
108条2項には、「施行者が地方公共団体であるとき」と明示してある。個人施行者の文言は何処にも書いて無い。それを、「個人施行者である場合も含むものと解される」と拡大解釈することは認められるものではない。
その様な拡大解釈を許すのでは、法律というものの必要性が無くなる。
全員合意型の個人施行の市街地再開発事業は、同意することは財産処分することを意味し、公有地の場合は、議会の承認が必要と法律解釈するべきである。
公有地の財産処分は、議会の承認を得るということは、拡大解釈をする必要など無く、地方自治法237条2項に明記してある。
法律明記してあることを無視して、明記していない「個人施行者も含むものと解される」と拡大解釈するものでは無い。
控訴審裁判官の108条2項の法律解釈は、全員同意型の個人施行の市街地再開発事業の「同意」とは、財産を処分することになることから、都有地のごとく公有地の場合には、議会の同意を得るという行為が必要になるということを見逃しており、根本的に間違ってあり、違法である。
なお、全員合意型の個人施行の市街地再開発事業の「同意」については、次章で述べる。
4.全員同意型再開発事業の同意は財産処分の行為である
@ 個人施行者、地権者1人の再開発事業は全員同意型の再開発となる
全員同意型再開発事業とは、施行区域内に土地や建物に権利を有する者の全員が同意した場合に、種々の規制を緩和し、権利変換計画の内容を柔軟に定めることができるとする権利変換の方法の再開発事業である。都市再開発法(以下「法」と呼ぶ)の第110条の規定による再開発事業である。
個人施行の再開発事業は、施行地域内に土地建物の権利を持つ個人の何人かが集まって再開発事業を行う事業であるが、その権利を持つ個人全員が事業内容に同意して事業を行う場合、その再開発事業を個人施行者の全員同意型再開発事業という。
そもそも再開発事業内容に反対の人は再開発事業に参加しない。それ故参加する人は同事業に同意する人に限られることから、当然全員同意型になる。
施行者は個人施行で、地権者が一人の場合も個人施行者の全員同意型再開発事業になる。
晴海選手村再開発事業は、施行者は個人の東京都であり、地権者は東京都のみであるから、個人施行者の全員同意型再開発事業になる。
その全員同意型再開発の規定である法110条とはどういう規定か、下記に記す。
A 都市再開発法110条
(施行地区内の権利者等の全ての同意を得た場合の特則)
第110条 施行者は、権利変換期日に生ずべき権利の変動その他権利変換の内容につき、施行地区内の土地又は物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者の全ての同意を得たときは、第73条第2項から第4項まで、第75条から第77条まで、第77条の2第3項から第5項まで、第78条、第80条、第81条、第109条の2第2項後段、前条第2項後段及び第118条の32第1項の規定によらないで、権利変換計画を定めることができる。この場合においては、第83条、第99条の3第1項、第102条、第103条及び第108条第1項の規定は、適用しない。
全員同意である事によって、適用を免れる法条項が多い。
B 110条で適用を免れる条項
イ、73条2項
(権利変換計画の内容)
第73条 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。
(省略)
2 宅地(指定宅地を除く。)について所有権又は借地権を有する者が当該宅地の上に建築物を有する場合において、当該宅地、借地権又は建築物について担保権等の登記に係る権利があるときは、これらの宅地、借地権又は建築物は、それぞれ別個の権利者に属するものとみなして権利変換計画を定めなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
(一〜二号省略)
(3〜4項省略)
ロ、75条
第75条 権利変換計画は、一個の施設建築物の敷地は一筆の土地となるものとして定めなければならない。
2 権利変換計画は、施設建築敷地には施設建築物の所有を目的とする地上権が設定されるものとして定めなければならない。
(3項省略)
ハ、76条
第76条 権利変換計画においては、施行地区内に宅地(指定宅地を除く。)を有する者に対しては、施設建築敷地の所有権が与えられるように定めなければならない。
2〜4(省略)
*上記法76条は何を云っているかと云えば、再開発施行地区内で宅地を有するもの(これは土地所有権を持っていること)は、再開発後も建物の敷地の所有権が与えられる(敷地の所有権とは土地の所有権である)ことを云う。
つまり土地所有権者は再開発後も土地所有権を持つということである。
ニ、77条2項〜5項
(施設建築物の一部等)
第七十七条 権利変換計画においては、第七十一条第一項の申出をした者を除き、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について借地権を有する者及び施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。
2 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。
(2項〜5項省略)
3 宅地(指定宅地を除く。)の所有者である者に対しては、その者に与えられる施設建築敷地に第八十八条第一項の規定により地上権が設定されることによる損失の補償として施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。
(4項〜7項省略)
*この条項で注意すべきは、「相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。」という規定である。
ホ、77条の2第3項〜第5項
(個別利用区内の宅地等)
第七十七条の二 権利変換計画においては、指定宅地の所有者又はその使用収益権を有する者に対しては、それぞれ個別利用区内の宅地又はその使用収益権が与えられるように定めなければならない。
2 個別利用区内の各宅地の地積は、第七十条の二第二項第三号に規定する面積以上でなければならない。
3 指定宅地の所有者に対して与えられる個別利用区内の宅地は、それらの者が所有する指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。
4 権利変換計画においては、第一項の規定により与えられるように定められる宅地以外の個別利用区内の宅地は、施行者に帰属するように定めなければならない。
5 指定宅地の使用収益権を有する者に対して与えられる個別利用区内の宅地の使用収益権は、従前の使用収益権の目的である指定宅地の所有者に対して与えられることとなる個別利用区内の宅地の上に存するものとして定めなければならない。
ヘ、78条
(担保権等の登記に係る権利)
第78条 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき所有される建築物について担保権等の登記に係る権利が存するときは、権利変換計画においては、当該担保権等の登記に係る権利は、その権利の目的たる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられるものとして定められた施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に存するものとして定めなければならない。この場合において、借地権の設定に係る仮登記上の権利は、当該借地権に対応して与えられる権利につき、当該仮登記に基づく本登記がされるための条件が成就することを停止条件とする当該対応して与えられる権利の移転請求権として定めなければならない。
(2項〜3項省略)
ト、80条
(宅地等の価額の算定基準)
第80条 第73条第1項第3号、第8号、第18号又は第19号の価額は、第71条第1項又は第4項(同条第5項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による30日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。
2 第76条第3項の割合の基準となる宅地の価額は、当該宅地に関する所有権以外の権利が存しないものとして、前項の規定を適用して算定した相当の価額とする。
*この条項で注意すべきは、宅地の価額の算定基準は近傍類似の土地の取引価格を考慮して定める相当の金額という規定である。
チ、81条
(施設建築敷地及び個別利用区内の宅地等の価額等の概算額の算定基準)
第81条 権利変換計画においては、第73条第1項第4号、第9号、第16号又は第17号の概算額は、政令で定めるところにより、第一種市街地再開発事業に要する費用及び前条第1項に規定する30日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として定めなければならない。
リ、109条の2後段
(施設建築敷地内の道路に関する特例)
第109条の2 都市計画法第12条の4第1項第1号に掲げる地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち同法第12条の11の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。)内における第一種市街地再開発事業その他政令で定める第一種市街地再開発事業については、事業計画において、施設建築敷地の上の空間又は地下に道路を設置し、又は道路が存するように定めることができる。
ヌ、118条の32第1項
第118条の32 前条の規定により第一種市街地再開発事業が施行される場合においては、権利変換計画において、一個の施設建築物に係る特定仮換地以外の施設建築敷地及び施設建築敷地となるべき特定仮換地に対応する従前の宅地に関する所有権及び地上権の共有持分の割合が、当該宅地ごとにそれぞれ等しくなるよう定めなければならない。この場合においては、第75条第1項の規定は、適用しない。
上記規定によらないで、権利変換計画を定めることができる。
C 全員同意型の再開発法の土地所有権
イ、前記法76条は、再開発法の基本的土地所有権の扱いである。
しかし、全員同意型の場合、法110条によって法76条の適用が無くなる。
つまり全員同意型の権利変換は、法76条の適用がなされないことから、土地所有権の権利変換は土地所有権で無くとも建物の所有権でも良いということになる。
ロ、前記77条は、権利変換は「相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない」と規定するが、全員同意型の権利変換では法77条の適用が無いことから、相互の不均衡がでても良く、かつ従前の価格と従後の価格との間に著しい差額が出ても良いということになる。
ハ、前記法80条は権利変換の宅地の価格について近傍類似の取引価格を考慮した価格で決めると規定するが、全員同意型の権利変換ではこの規定が適用され無く、同意があればどの様な価格でもよいと云うことになる。
D 全員同意型の同意とは財産の処分行為を意味する
全員同意型の個人施行の再開発事業は、土地所有権が等価の土地所有権で無く、建物の所有権でも良いという類のものであり、それは土地という財産の処分行為を行うことになる。
「同意」が無ければ、それ等行為が行えないことから、「同意」すると云うことは、それ等行為を行うということになる。
E 同意は財産処分であるから都議会の承認が必要である
晴海選手村再開発事業は、施行者は個人の東京都であり、地権者は東京都のみであるから、個人施行者の全員同意型再開発事業である。
全員同意型再開発事業に同意することは、前記したごとく参加者の東京都の晴海選手村土地財産の処分になる。
都有地の土地という財産を処分する場合には、地方自治法237条2項が適用される。即ち都議会の承認又は適正な価格で無ければならない。
上記より、晴海選手村事業をするには、全員同意型再開発事業の同意の前に都議会の承認が必要である。
都議会の承認がなければ晴海選手村事業は行ってはいけないのである。
そうであるにもかかわらず、都知事は、議会の承認を得ずに、勝手に独断で晴海選手村の再開発事業に同意し、事業を進めてしまった。
議会の承認がなくとも適正な価格の処分であり、違法性は無いという反論がなされるであろうが、その処分価格は適正な価格とは認められない価格である。それ故「適正な価格の処分であり、違法性は無い」と云う反論主張は通らない。
つまり晴海選手村事業は、事業開始の手続に瑕疵がある。最初の事業開始の手続に瑕疵がある事から、その後の手続及び行為が適正であったとしても、晴海選手村事業は法的に適正であるということには成らない。
F 晴海選手村事業は違法
全員同意型の再開発事業は、参加者の同意と云う行為は土地という財産の処分ということになる。
それ故、都知事は、晴海選手村事業を始める前に、都議会に都有地処分の承認を得て、事業に同意しなければならなかった。都知事は、何故、都議会に承認を求めることをしなかったのか。
都知事は都議会の承認を得る手続を怠った。即ち事業開始の手続に瑕疵があった。
それを怠ったことから、晴海選手村事業は違法な再開発事業である。
このことから晴海選手村の再開発事業そのものは初めから違法ということになる。
G 地方自治法237条2項が骨抜きになる
地方公共団体の東京都が「個人施行」と云うのもおかしなものであるが、敢えて「個人施行」として施行するのには、何かの目的があることは充分予測される。
そもそも、建物が殆ど建っていない原野に近い土地地域で市街地再開発事業を行うことは、都市再開発法の法目的に反する。
都市再開発法の目的は、同法1条に次のごとく記されている。
「(目的)
第1条 この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。」
「この法律は、市街地の計画的な再開発に関し」と記してある。再開発と記してある。
再開発とは、既に都市機能として建物等の土地利用がされていることを意味する。既に建物の土地利用されている地域の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図ることを目的とする。
建物が殆ど建っていなく、原野の状態に近い土地地域の都市機能の更新を図ることなどする必要性は無かろう。
即ち、晴海選手村土地で、市街地再開発事業を行う必要性は無い。
その土地地域を都市再開発法の趣旨に反して、都市再開発法の事業を行っている。
一歩譲って、行うとしても、地方公共団体であるから、施行者は東京都として行えばよいであろう。
施行者を「個人施行」とすることによって、都市再開発法の種々の特例を利用して、法手続を省く恩恵を受けることが出来ることを目論んでいる。
全員同意型の個人施行の市街地再開発事業であれば、うるさい都議会の承認を得る事無く、土地の処分は自由に出来ると考えたのであろう。
そうすれば、デベロッパーの負担を最小限にして、一方、東京都はオリッピック選手村建物建設費を負担をすることなく建設出来ると目論んで、全員同意型の個人施行の市街地再開発事業を行ったのであろう。
一審、控訴審裁判官は、東京都の目論に見事にはまり、法108条2項は、個人施行でも適用出来ると判決した。
即ち、「再開発法108条2項の適用を地方公共団体が公共団体施行者である場合に限定する旨を定めた法令の規定は存しない上、権利変換計画においてあらかじめその管理処分の方法が定められている保留床について、財産の管理処分に関する法令の規程による制限を受けることとなれば、権利変換計画に定められたとおりの管理処分が困難となるおそれがあることは、施行者である地方公共団体が公共団体施行者であるか個人施行者であるかを問わないことからすれば、同項所定の「施行者が地方公共団体であるとき」とは、地方公共団体が公共団体施行者である場合のみならず、個人施行者である場合も含むものと解される。」と判決した。
東京都の晴海選手村再開発事業のやり方を、各地方自治体が真似して全員同意型の個人施行再開発事業を行いだしたら、地方自治法237条2項は骨抜きになり、地方自治体のやりたい放題で、地方自治体所有地が、適正価格から著しく低額な価格で処分する事がおおっぴらに行われる事になる。
何の為に議会があるのか問われる事になろう。何の為に地方自治法237条2項があるのかと云うことになろう。
****追記・訂正のお詫び 2023年11月17日
地方自治法237条2項とすべきところを、時々273条2項と誤って記していました。273条2項では無く、237条2項のミスプリであります。見つかった個所は訂正しました。誤記を謝ります。
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鑑定コラム2649)「「逆も真なり」 晴海フラッグの実際の分譲価格より逆算すると、晴海選手村街区5-6の土地価格は379.5億円 都側鑑定は27.2億円」
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