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265)「賃料はどの様に求めるのか」という講演

 2006年2月25日の土曜日、東京の八重洲口側の丸の内の「パシィフィックセンチュリープレイス丸の内」の22階、東急リバブルの大会議室で「賃料はどの様にして求めるのか」という課題で講演を行った。

 主催は中間法人「全国不動産鑑定士会」という組織の主催であった。

 参加者は日本全国から多く来ていた。
 不動産鑑定士のほか不動産業に従事する人も参加されていた。

 以前、賃料を新規賃料、収益賃料、継続賃料、地代とパーツに分けてセミナーを少人数で開いて行ったが、そのセミナーに参加されていた方も結構いた。

 「2回も同じ内容のものを聞くことも無いでしょう。」
と話しかけたが、
 「いや、再度聞きたかったから来ました。」
という。

 講習料も安くなく、交通費も半端な金額では無いのに参加されるとは。頭を下げざるを得なくなる。

 今回の講演は、2005年12月に著書『賃料(地代・家賃)評価の実際』(プログレス)を出版したので、執筆の記憶の新しいうちに、多くの人に賃料評価の実際を知ってもらおうという企画が持ち込まれ、それに応じたものである。

 2時間半の講演は長いと思われるが、その時間内に新規賃料、収益賃料、継続賃料、地代と賃料全部を詳しく述べることはほぼ不可能である。

 2時間半の時間を与えられたが、話したかった内容のうちの3割程度しか話すことが出来なかった。

 不動産鑑定士が賃料評価で陥りやすい個所を重点的に話し、その他の項目は重要部分の指摘にとどまってしまった。

 不動産鑑定士が賃料評価で陥りやすい個所の例ということでは特にないが、最近2つの妙な不動産鑑定書にお目にかかった。

 1つは継続家賃で、こんな文言の手法を用いる鑑定書にお目にかかった。
 「踏襲利回り法の差額配分法」という名前の差額配分法である。

 差額配分法は継続賃料を求めるための一つの手法である。
 その手法の内訳には1/2法、1/3法があるが、「踏襲利回り法の差額配分法」なる名前のものは無い。不動産鑑定評価基準にもその様な名前の求め方のものは無い。

 「 踏襲利回り法」という利回り法も無い。利回り法は「利回り法」という名の手法一つである。

 利回り法と差額配分法とを併合したような訳の分からない「踏襲利回り法の差額配分法」なる継続賃料の求める手法など無い。

 その名称のものは、裁判所の鑑定人不動産鑑定士の鑑定書に使われていた。
 その鑑定書記載の求め方に目を通したが、私にはさっぱり求め方が分からず、求め方の論理性が理解出来なかった。

 代理人弁護士に、
 「 「踏襲利回り法の差額配分法」なる継続賃料の求め方など、鑑定評価基準にはないですょ。
 そんな専門用語もありません。
 この求め方で得られた継続賃料は、どの様な言い訳をしても×です。」
と話した。

 弁護士は、
 「エッ、バツの鑑定。そんな。
 裁判所の鑑定人の鑑定だからということで鑑定書を信用したのに。
 鑑定評価基準に無い求め方なのですか。
 どうしてそんな求め方が罷り通るのですか。
 鑑定協会はそんな求め方を許しているのですか。
 これは弱った。」
と頭を抱えてしまった。

 鑑定協会は、その様な、鑑定評価基準が認めていない求め方を許しているわけではないであろう。
 差額配分法は専門用語である。専門用語の使い方も知らない不動産鑑定士を野放しにして、勝手にしておくわけにも行かないであろう。
 専門用語にはそれなりの概念がある。それを勝手に自分の都合の良いように造り変えて使うことは、専門家としては許される行為ではない。専門家は専門用語を大切にすべきである。

 「利回り法」、「差額配分法」は不動産鑑定評価の専門用語である。
 利回り法に「踏襲利回り法」という専門用語など無い。
 差額配分法に「踏襲利回り法の差額配分法」という専門用語など無い。
 不動産鑑定士が不動産鑑定評価の専門用語・専門用語の使い方を知らなくてどうするのだ。専門家が自分の専門分野の専門語を知らなくて、どうして専門家と言えよう。

 専門家は、用語の概念が統一されている専門用語を使用して理論を組み立ててゆく。
 その専門用語が勝手に作られ、自分の都合の良いように解釈され、使用されていては、論理の組み立ても、理論構成の内容も正確に理解されなくなる。

 法律家は専門用語を大切にする。
 それは専門用語は専門用語としての概念があり、用語が異なれば概念が異なり、使用を間違えれば、それは利害、或いは人命への影響も多々あるためである。
 弁護士が、代理人弁護士と弁護人の違いが分からなくて自分は法律の専門の弁護士であるといっていたら、弁護士界からどう判断されるであろうか。
 同じく法律用語の「責を負う」を、法律家が、「せきをおう」と読んでいたら笑われるであろう。
 (「せめをおう」と読むのである。)

 不動産鑑定士も専門家であろう。
 不動産鑑定に関する専門用語は大切にし、専門用語の使い方にもっと注意しなければならない。

 もう一つ。
 地代の鑑定書をある不動産鑑定士から見せられた。その不動産鑑定士の方は、私より年配で、鑑定経験豊かな方である。

   「田原さん。どう思われます?」
と鑑定書を差し出された鑑定経験豊かな不動産鑑定士の方が言う。

 その鑑定書の中の地代を求める利回り法は、更地価格に日税不動産鑑定士会発表の活用利子率を乗じて、それに公租公課を加えて地代を求めている。

 地代の利回り法とは、
    更地価格×期待利回り+必要諸経費=利回り法の地代
である。

 期待利回りに、日税不動産鑑定士会発表の活用利子率を採用している。
 日税不動産鑑定士会も「活用利子率」を、こんな形で利用されては嘆きが出てこよう。

 日税不動産鑑定士会発表の活用利子率とは、当該地代を周辺の地価公示価格で割った割合である。即ち「地代利回り」の性格のものである。

 その利回りには必要諸経費が含まれた利回りである。
 活用利子率は、純地代の割合ではない。
 期待利回りは純地代の利回りであるから、活用利子率は期待利回りでは無いのである。

     更地価格×活用利子率+必要諸経費
の算式で求められた地代は、利回り法の地代と言える代物ではない。訳の分からない非論理的な求め方で、必要諸経費を二重加算した数値のものである。
 しかし、見せられた鑑定書はこれを「適正な地代」と書く。

 昨今の、鑑定評価の目を覆いたくなるほどの乱れ。どうすべきか。


 本鑑定コラムには賃料に関する多くの記事があります。下記をクリックすればそれらの一部に繋がります。
  鑑定コラム226)家賃より地代を求める家賃割合法
  鑑定コラム214)共益費は賃料を形成しないのか
 
 全国不動産鑑定士会という団体のホームページは、下記をクリックすれば繋がります。
全国不動産鑑定士会

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