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214)共益費は賃料を形成しないのか

 共益費とは、賃貸ビル、賃貸マンション等賃貸建物の廊下・階段・トイレ等の共用部分の電気代、清掃費、エレベータの保守点検費、管理人がいる場合の給与等の費用である。

 建物の専用或いは専有部分以外の部分の維持管理する為の費用である。
 この共益費を通り抜け費用であるからといって賃料に含まれないと思いこんでいる人がいる。不動産鑑定士にもいる。

 共益費として賃借人から電気代、清掃費等を徴収しても、その金額はそのまま電力会社、清掃会社等に行き、賃貸人の懐には一銭も残らず、ただ単なる通り抜けていくだけだから賃料では無いというのである。

 この主張・考え方は間違っている。

 賃料とは、賃借人が当該建物利用することを条件に、賃貸人に支払う全ての対価をいうのである。
 支払賃料はもちろんのこと共益費、保証金・敷金の運用益、礼金・更新料・保証金の償却額の期間に対応する額が賃料を形成するのである。共益費も賃借人が賃貸人に支払う対価であるから賃料を形成するものである。通り抜け費用だから賃料では無いという理由など、理由にならない。賃借人が建物利用に伴って、賃貸人に支払う金銭であるから、それは賃料を形成するものである。

 家賃のある不動産鑑定書がある。著名な不動産鑑定会社発行の鑑定書である。
 その鑑定書に書かれている賃貸事例比較法の賃貸事例の実質賃料は、
      支払賃料+一時金の運用益・償却額=実質賃料
と求められている。共益費が抜けている。

 支払賃料に共益費が含まれている場合があるかもしれないが、支払賃料のほかに共益費或いは管理費の名目で共益費が授受されているのが、東京の賃料の一般的慣行である。
 上記賃貸事例の実質賃料を求める場合には、共益費が加わっていなければならない。

 即ち、賃貸事例比較法の賃貸事例の実質賃料は、

      支払賃料
      共益費
      敷金等一時金の運用益
      礼金等一時金の償却額
の合計額である。

 共益費が実質賃料を形成するということを、別の賃料より証明することが出来る。
 積算賃料というものがある。
 土地建物の価格に期待利回りを乗じて純賃料を求め、その純賃料と必要諸経費を加算して求めた賃料が積算賃料である。積算賃料は実質賃料の性格の賃料である。

 その積算賃料の必要諸経費の構成項目は、鑑定評価基準は次の要因項目をあげる。
        イ.減価償却費
    ロ.維持管理費 
        ハ.公租公課
    ニ.損害保険料
    ホ.貸倒引当金
    ヘ.空室等による損失相当額

 積算賃料の必要諸経費の「維持管理費」は共益費に相当するものである。
 即ち、共益費は実質賃料を形成するものであるということが、積算賃料の必要諸経費の項目から証明される。

 共益費は通り抜け費用であるから賃料を形成しないという考えで賃料評価を行うと、とんでもない賃料を求めることになる。

 実質賃料は積算賃料と比準賃料より求めるのであるが、比準賃料を共益費を含めない賃貸事例で比較して求めた場合、その比準賃料は実質賃料の性格のものでは無いことから、積算賃料と比準賃料とで実質賃料を求めたといくら主張しても、求められた実質賃料に正当性は無い。

 もう一つ大きな問題が生じる。
 継続賃料を求める手法の一つに差額配分法という手法がある。
 この差額配分法の差額を求める時に、実際実質賃料に共益費を含めないで計算すると、実際実質賃料が低額な賃料で求められる。
このことが差額配分法の賃料に大きな誤りをもたらす。

 差額配分法の差額とは、
      新規実質賃料 − 実際実質賃料 = 差額
の式で求めるのである。

 実際実質賃料に共益費を含んでいない時には、実際実質賃料は共益費分だけ小さい金額になっている。そうすると「差額」の金額は、上記式から共益費の分だけ大きな金額となる。即ち「差額」が水増しされた金額として計算される。
 1/2法を採用すると、差額の1/2が従前賃料に加算される為、差額配分法の賃料は著しく高く求められた賃料となる。
 
 前記の著名な不動産鑑定会社の家賃の鑑定書の差額配分法の賃料は、上に説明したごとくの求め方で賃料が求められていた。
 共益費を無視した実質賃料の家賃鑑定は、専門家としては致命的な重過失に相当する間違った賃料鑑定である。

 それを間違っていると指摘しても、「私の鑑定は適正である」と主張し、間違いを認めようとしない不動産鑑定士がいるから、始末が悪い。

 バブル経済の頃、支払賃料を大幅に上げることは借地借家法の手前困難であるため、共益費は支払賃料では無いという理由をつけて、共益費をやたらに上げた貸ビル会社があった。共益費の金額が、支払賃料に対して30〜40%の割合水準の金額にまで達してしまった。賃借人はさすがに怒り出してしまった。

 こうした場合、共益費は通り抜け費用であるから賃料を形成しないと言って、無視して考えて良いものであろうか。


本鑑定コラムには賃料に関する多くの記事があります。下記に一部紹介します。

  鑑定コラム226)家賃より地代を求める家賃割合法

  鑑定コラム231)保証金が100ヶ月とゼロの店舗支払家賃は同じなのか

  鑑定コラム236)従前合意賃料は妥当な賃料だったか

  鑑定コラム219)家賃評価の期待利回りは減価償却後の利回りである

  鑑定コラム68)賃料と改正鑑定基準

  鑑定コラム71)差額配分法と私的自治の原則

  鑑定コラム101)基礎価格の再認識の必要性
 
  鑑定コラム574)共益費は実質賃料に入らないという誤った判決

  鑑定コラム1247)「錦織 テニス全米オープン決勝進出」


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