2722) あと1年、桐蔭横浜大学で「不動産鑑定評価」を学生に講義する
2024年度の大学の新学期が始まった。
今学期1年で、桐蔭横浜大学での講義を終える事になった。
平成18年(2006年)4月、桐蔭横浜大学創始者の一人である鵜川昇理事長(2代目理事長)より、不動産鑑定評価の講義を頼まれ行って来た。それも今期で終わる事になった。
学生にとって、身近にある不動産であるが、不動産の価格・賃料を求める学問が存在すると知って殆どの学生が驚く。
学生は、不動産鑑定評価という言葉を聞くのは初めてであり、それはどういう内容のものか全く知らない。
民法第86条第1項の「不動産とは、土地およびその定着物をいう。」の説明から講義は始まる。
定着物とはどういうものか。井戸は不動産なのか。
不動産と呼ぶのは、それは不動産の所有権を云う。
その所有権の範囲は、上下におよぶ。
ここで空中権、大深度法の説明が入る。大深度法の話になれば、地下鉄大江戸線、リニア中央新幹線の話も加わる。
所有権は、所有する権利であるが、その所有権という権利には、それに相応した価格というものが必ず付着している。
権利と価格とは、貨幣の表と裏の関係にあり、両者の関係を切る事が出来ない。
不動産所有権も同じごとく価格が附着している。
不動産は、不動性・不増性・永続性等という自然的特性がある故に、場所的競争が生じ価格の金額が大きくなる。その適正な価格が分からないのが多く、その為に適正価格判定の専門家が必要となり、不動産鑑定士という職業が出てきた。
不動産を利用することによって、住居の場合は快適性・利便性をもたらしてくれる。
賃貸ビル・工場の場合には、事業収益をもたらしてくれる。
これが土地利用する人と利用される土地との関係である。
この人と土地の関係は古くから存在する。
その関係を見事に描き、時代を超えて不動産は重要なものである事を再認識させてくれるものが、今から800年前、西暦1200年初めの鎌倉時代の京の都の状況を記した鴨長明の『方丈記』の書き出しである。
「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。玉しきの都の中にむねをならべいらかをあらそへる、たかきいやしき人のすまひは、代々を經て盡きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。」
800年前に世の姿を描くに、不動産を利用して描写する。
その言葉は「すみか」、「むね」、「いらか」、「すまひ」、「家」である。
ここで「いらか」について、学生に説明する。
『方丈記』は、「すまひは、代々を經て盡きせぬもの」という。
「すみか」・「すまひ」即ち不動産は、いつの時代にあっても重要な物であり、その時代を語る時に欠かせないものということが、『方丈記』の記述によって明らかにされている。
不動産には、自然的特性、人文的特性、不動産の地域性というの3つの特性がある。
それに付いては、教科書として使用している拙著『考論 不動産鑑定評価』P8(プログレス 2021年 tel03-3341-6573)から、その部分は下記に転載する。
「@ 自然的特性
地理的位置の固定性、不動性、永続性、不増性、個別性(非同質性、非代替性)がある。
A 人文的特性
用途の多様性(用途の競合、用途の転換、用途の併存)、併合・分割の可能性、社会的及び経済的位置の可変性がある。
社会的及び経済的位置の可変性とは、環境が変われば社会的・経済的位置が変化することを意味する。
住宅地域の真ん中に鉄道の駅が出来れば、住宅地であった土地が、駅前商業地に変化し、かつ利便性が良くなるごとくのことを云う。
B 不動産の地域性
不動産は地域を形成し、地域に属す。
地域とは、一定の範囲の土地区域を云う。
不動産は、不動性という特性から、他の不動産と共に、ある地域を形成し、その地域の構成分子として、互いに依存、補完、協働、代替、競争の関係をもって、社会的・経済的な有用性を発揮する地域性を形成する。
不動産は必ずいずれかの地域に属し、不動産の効用は地域に現れる。」
不動産の特性を述べた後、その不動産の価格の特徴について述べる。
それについても、教科書として使用している上記『考論 不動産鑑定評価』P8に記述していることから、それを下記に転載する。
「3.不動産の価格の特徴
@ 元本と果実の関係
不動産の財の対価としての価格、不動産の用益の対価としての賃料がある。
この不動産の価格と賃料の間には、元本と果実の関係がある。
A 今日の価格は、昨日の展開であり明日を反映するものである
イ、不動産の属する地域は、固定的なもので無く常に拡大収縮、発展衰退等と変動の過程にある。
それ故、不動産の価格は、「今日の価格は、昨日の展開であり明日を反映するものである」と云われている。賃料も同じである。
ロ、この言葉は、不動産鑑定評価基準の起草に携われ日本不動産鑑定協会(現日本不動産鑑定士協会連合会)の初代会長の櫛田光男先生の言葉であり、不動産鑑定評価における至言である。
ハ、この言葉から、後日講義で話する「価格時点」の必要性、不動産の価格の11の原則の中の「変動の原則」が導き出される。
B 適正価格を見出すのが困難
不動産の取引価格は、取引の必要に応じて個別的に形成される。そして、それは個別的事情に左右される。
このことから、不動産の適正価格を一般の人が見出すことは非常に困難である。
この特徴から、不動産の適正な価格については、専門家として不動産鑑定士の鑑定評価活動が必要である。賃料にあっても同じである。」
最後の不動産の適正価格を見出す事は困難であるから、不動産鑑定士の鑑定評価が必要であるという記述は、かなり手前味噌的なこじつけの論理の匂いがするであろう。
不動産の経済価値を決める要因として3つの要因がある。
その要因は、
イ、その不動産に対する我々が認める効用
ロ、その不動産の相対的稀少性
ハ、その不動産に対する有効需要
である。
3つの要因である効用、相対的稀少性、有効需要とはどういうものかを、具体的に学生に話す。
そして最後に不動産鑑定評価に関する法律と基準について話す。
基準とは『不動産鑑定評価基準』である。
それは具体的に今後の講義で話すとし、法律である『不動産の鑑定評価に関する法律』(昭和38年(1963年)7月16日法律第153号) について、重要な条文を読み上げ、説明する。
講義で教科書として使用している拙著『考論 不動産鑑定評価』P11から、その部分は下記に転載する。