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2798) 新規地代の必要諸経費には減価償却費が入る(田原塾第78回レジュメ)


 令和6年(2024)年11月11日の月曜日の午後6時半より、東京赤坂のホテルニューオータニの小さな部屋で、第78回の田原塾(幹事は不動産鑑定士の尾藤哲、田村直之、五十嵐恵美氏)が開かれた。

 新型コロナウイルス感染拡大で4年間ほど休止していた田原塾であったが、今年の春頃から再開し、それまで月1回であったのが、3ヶ月に1回となり、今回は2024年で3回目の塾開催であった。

 1時間程度の私の講演のあと、バイキング形式の懇親会である。酒は飲み放題である。

 料理は、ニューオータニの料理人の作った料理である。

 東京の著名なホテルで、そのホテルのシェフの作る料理を食べて、酒を飲み、語りあうという随分と贅沢な時間の過ごし方である。

 参加した人は、不動産鑑定士の方々が殆どであるが、3人の弁護士の方が参加されていた。

 今回の私の講演の話は、今年3月15日に神奈川県不動産鑑定士協会で講演した賃貸事業分析法の話と同じ内容であり、その部分は神奈川県鑑定士協会のレジュメを使用した。

 神奈川県鑑定士協会の講演では、家賃から求める賃貸事業分析法の新規地代は家賃の経費として減価償却費を含め無ければならないと求め方を話した。

 今回もそこまでは同じであるが、間違った求め方である減価償却費を家賃経費に含めなかった場合、地代はどういう地代になるのかと、間違った地代の計算を付記した。

 結果は例題では新規地代は35%程度高くなると証明された。

 こうした地代評価が多く出回る様になったのである。

 下記に講演レジュメを記す。

 第1章の部分は神奈川県不動産鑑定士会のレジュメと同じであり、それは鑑定コラム2746)「「賃貸事業分析法と継続地代」神奈川県不動産鑑定士協会講演レジュメ」で記されている事から、同鑑定コラムを読まれている方は、素っ飛ばして、第2章に進んで下さい。

1.賃貸事業分析法の求め方の例

 @ 設定条件

 設例の条件は、下記とする。

  イ、地積、道路条件等
 土地面積100u、幅員20メートル道路に面する。商業地、容積率700%

  ロ、建物所有目的 堅固建物所有

  ハ、土地価格   420,000,000円(u当り420万円)

  ニ、土地公租公課  年間760,000円

  ホ、価格時点 平成28年7月1日

 A 想定建物

  イ、想定建物
 対象地にRC造8階建延べ床面積700u(100u×7=700)の建物を想定する。
 用途は1階店舗、2階以上は事務所とする。
 各階の建築及び賃貸面積は下記である。

     階        建築面積   賃貸面積
     1階     85              50
          2階         85              65
          3階〜8階     85              65
     塔屋         20               0
      計        700            505

  ロ、建物価格  対象地に想定した建物価格は、次の通り求める。

 国土交通省発表の『建築着工統計調査』によると、東京都の平成27年1月〜12月1年間のRC造の事務所ビル建設統計統計デ−タは次の通りである。

               棟数            61棟
            のべ床面積     66,833u
           工事予定額   2,311,104万円

 このデ−タより、1棟当りのべ床面積は、
                  66.833u
                ────   = 1,095u                               
                    61棟
1,095uである。

 u当り建築工事費は、
               2,311,104万円
             ───────  = 34.58万円                          
                 66,833u
34.58万円である。

 建築工事費が異常高になっている。これは平成23年3月の東日本大震災の復興工事が本格的に展開されて来たことによって、工賃、材料費の大巾値上りによるものである。ここ1年間で50%近くの建築費の値上りが生じている。

 異常高の建築費であるからといって、その金額しか建物を建てる事は出来ないことから、上記建築費を採用せざるを得ない。

 価格時点は、平成28年7月であるが、その時点の建設工事費データの発表が無い事から平成27年のデータを使用する。

 想定RC造の事務所建物の建築工事費を、
           u当り   34.58万円
とする。

 上記RC造の工事費に次の修正を行う。
       中品等の事務所ビルである。 1.0
       設計監理費     1.05

         34.58万円×1.0×1.05≒36.3万円
 想定建物の価格を
         u当り  363,000円
         総額 363,000円×700u=254,100,000円
とする。

 B  店舗・事務所賃料

 対象地周辺の店舗及び事務所賃料の賃貸事例から比較して、対象地上の想定建物の賃料を次の通りとする。
     1階店舗       u当り13,800円
     2階以上事務所 u当り 3,600円

 C 総収入

  イ、支払賃料
        1階       13,800円×50u =   690,000円
        2階〜8階          3,600円×65u×7= 1,638,000円
          小計                               2,328,000円
          年間支払賃料  2,328,000円×12= 27,936,000円

  ロ、敷金
        1階        690,000円×10ヶ月  = 6,900,000円
        2階〜8階   234,000円×6ヶ月×7 =  9,828,000円
          小計                             16,728,000円

  ハ、 敷金運用益
     運用利回りは0.5%とする。
                   16,728,000円×0.005 = 83,640円
  
  ニ、 共益費 0円
     支払賃料に含まれる

  ホ、 収入合計 27,936,000円+83,640円 = 28,019,640円

 D 必要諸経費

  イ、 減価償却費 5,082,000円
建物の経済的耐用年数を50年とする。
     減価償却費は、
                   254,100,000円÷50=5,082,000円
である。

  ロ、 公租公課 2,460,000円
                   土地      760,000円
                   建物      1,700,000円
                    小計     2,460,000円

  ハ、維持管理費             1,400,000円

  ニ、修繕費 1,300,000円

  ホ、火災保険料 127,050円
          254,100,000円×0.0005=127,050円
  ヘ、合計                10,369,050円

 E 純収益

  純収益は、
         総収入−必要諸経費=純収益
の算式で求められる。
         28,019,640円−10,369,050円=17,650,590円
 純収益は、17,650,590円である。

 F 総合期待利回り

 総合期待利回りとは、複合不動産を構成する土地建物が一体となって得られる純収益を、その土地建物の価格で除した利回りである。

 算式は、
             土地建物一体となって得られた純収益
          ────────────────── = 総合期待利回り    
         当該土地価格+建物価格
である。

 上記で得られた純収益は、土地建物が一体となって得られた純収益である。

 想定建物の総合期待利回りは、
                   17,650,590円
              ────────────────  = 0.0262           
                  420,000,000円+254,100,000円
2.62%である。

 G 土地期待利回り・建物期待利回り

 上記で求められた総合期待利回りは、土地建物の複合不動産の期待利回りである。この利回りを地代の利回りには採用出来ない。

 総合期待利回りから、土地期待利回り、建物期待利回りを求め無ければならない。

 建物の期待利回りは、土地期待利回りよりも一般的には高い水準にある。

 それは建物には耐用年数があるためと考えられる。

 本県の建物の耐用年数は50年であるから
       1/50=0.02
である。

 利率2.0%、期間50年の償還基金率は0.012である。

 建物の期待利回りが土地より高い利率は、償還基金率相当の割合とする。

土地の期待利回りをXとする。

建物の期待利回りは(X+0.012)とする。

      420,000,000×X+254,100,000(X+0.012)
   ───────────────────────  =0.0262        
              420,000,000+254,100,000

 上記式よりXを求める。
       X=0.022
である。

即ち、
       土地の期待利回り  0.022
       建物の期待利回り   0.034(0.022+0.012=0.034)
と求められる。

 H 建物に帰属する収益

 建物価格は、254,100,000円である。

 土地期待利回りを求める際にも建物の期待利回りは0.034と求められた。

 建物に帰属する利益は、
             254,100,000円×0.034=8,639,400円
8,639,400円である。

 I 土地に帰属する収益

 土地に帰属する収益は、下記の算式で求められる。
     土地建物の純収益−建物に帰属する収益=土地に帰属する収益
 土地に帰属収益は、
          17,650,590円−8,639,400円=9,011,190円
である。

 J 賃貸事業分析法の新規地代

 賃貸事業分析法の地代は、下記算式で求められる。
     土地に帰属する収益+土地の公租公課=賃貸事業分析法の地代
 賃貸事業分析法の地代は、
     9,011,190円+760,000円=9,771,190円
である。

 月額地代は、
     9,771,190円÷12=814,266円≒814,000円
814,000円である。

2 償却前利益で求めた場合の地代

 償却前利益による地代を計算する。

 @ 減価償却費は、5,082,000円である。

 A 減価償却費を含む必要諸経費は、10,369,050円である。
減価償却費を含まない必要諸経費は
          10,369,050円−5,082,000円=5,287,050円
である。

 B 純収益    28,019,640円−5,287,050円=22,732,590円

 C 総合期待利回り
                   22,732,590円
              ────────────────  = 0.0337           
                  420,000,000円+254,100,000円

 D 土地期待利回り・建物期待利回り
 土地の期待利回りをXとする。建物の期待利回りは(X+0.012)である。

      420,000,000×X+254,100,000(X+0.012)
   ───────────────────────  =0.0337        
              420,000,000+254,100,000
 上記式よりXを求める。 X=0.029
       土地の期待利回り  0.029
       建物の期待利回り  0.041(0.029+0.012=0.041

 E 建物に帰属する収益  254,100,000円×0.041=10,418,100円

 F 土地に帰属する収益  22,732,590円−10,418,100円=12,344,490円

G 月額地代
    12,344,490円+760,000円(土地公租公課)=13,074,400円(年額)

 月額地代は、
     13,074,400円÷12=1,089,540円≒1,090,000円
である。

 減価償却後純収益で求めた地代は、月額814,000円であった。

 月額276,000円の開差が生じた。

 借地権者は、自分の取り分である減価償却費のうち、27.6万円を地代として土地所有者に不合理に支払っていることになる。

3 浅生重機東京高裁判例

 平成12年7月18日に、東京高裁で浅生重機裁判長の判決(事件番号平成11年(ネ)第5198号)が言い渡された。

 その判決は、相続により、土地の賃貸人と賃借人の関係が、実質的に同一性が消滅した場合の地代は、新規地代になるという画期的な判決である。

 この判決で浅生裁判長は、地代は家賃から求めるべしとして、建物の家賃より地代を求める手法を記述している。

 この考えも画期的なものである。

 そして、判決の中で、新規地代を求めるのに家賃の必要諸経費として、減価償却費を計上している。

 つまり、新規地代を家賃から求める場合には、建物の減価償却費を必要諸経費に含めて求めなければならないと判決は示しているのである。

 その後、平成26年の鑑定評価基準改正され、新規地代を求める手法として賃貸事業分析法という手法が新しく導入された。

 恐らく浅生重機東京高裁の判決の影響を多分に受けて、鑑定基準は改正されたのでは無かろうかと私は思う。

 なお、この案件は、私が、一審で裁判所鑑定人として不動産鑑定評価したものである。

 その時の一審東京地裁の鑑定依頼は、継続地代と新規地代の両方を鑑定する依頼であった。

 一審は継続地代の判決とした。

 賃貸人は不服として控訴し、東京高裁の浅生裁判長は、上記のごとく新規地代であるとして判決した。

 新規地代を記している私の鑑定書を参考にして、自分の考えを加えて判決文を書きあげているようである。

 浅生判決は、前記したごとく「相続により、土地の賃貸人と賃借人の関係が、実質的に同一性が消滅した場合の地代は、新規地代になるという」画期的な判決であるが、もう一つ、新規地代を賃貸事業分析法で求める時、即ち土地残余法で求める場合、建物の減価償却費(判決文には、減価償却費598万3333円が明記されて費用計上されている)を費用計上せずに土地に帰属する収益を求めると、その求め方は、東京高裁の浅生重機判決に違反すると言うこと、即ち判例違反になることを忘れてはならない。

 『金融・商事判例』1097号(2000年8月15日発行)のトップ判例(同号3頁)として取り上げられている。

 判例のコピーを講演では添付したが、コラムでは省略する。

 講演では時間が無く話さなかったが、浅生重機判決は、最後に定期借地権には借地権価格が発生しない事を予見するごとく次の様に判示する。

 「本判決により、控訴人は更地を新に賃貸した場合と同額の収入をうるのであって、土地の賃貸により何の不利益も負っていない。・・・(省略 筆者)・・・

 控訴人はこのことに目を奪われて、本件においてもその様な借地権の発生を懸念するようである。

 しかし、今後地代が適正な額に維持されていけば、そのような借地権は本件では発生しないのであって、控訴人の主張は杞憂に過ぎない。」

 定期借地権には、借地権は存在するが、借地権価格は発生しない。それ故に、定期借地権の地代は、旧借地借家法の適用の借地の地代に比して2倍程度高いのである。

 定期借地権の地代は、土地残余収益に公租公課を加えた新規地代であり、その地代には借地権価格は発生する余地は無い.つまり借地権価格は発生しない。

 浅生判決は、定期借地権には借地権価格は発生しない事を予見している。


  鑑定コラム2746)
「「賃貸事業分析法と継続地代」神奈川県不動産鑑定士協会講演レジュメ」

  鑑定コラム2796)「神奈川不動産鑑定士協会での講演の鑑定コラム2746)がアクセス10位に 令和6年10月1日アクセス統計」


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