2869) 2025年不動産鑑定士実務修習テキストの地代評価の期待利回りの求め方について
公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会が発行している最新の第19回実務修習指導要領テキストの「地代の鑑定評価(評価書編)」(2024年11月1日発行 以下「地代指導テキスト」と呼ぶ)の基礎価格を、底地価格にしており、それについては間違っているということを、鑑定コラム2868)に記した。
積算賃料(地代)を求めるには、期待利回りが必要である。
地代指導テキストは、底地基礎価格に乗じる期待利回りを3.5%とするが、その3.5%の期待利回りをどの様にして求めているのかと、その求め方を記すと下記である。
「本件においては、地域の特性、対象不動産の個別性等を考慮し、更に広域的に賃貸市場を調査して、期待利回りを3.5%と査定した。」(前掲同書P328)
広域的な賃貸市場を調査したというから、その調査した期待利回りはどれ程なのか。
対象地域の特性を考慮したと云うが、その考慮し分析した利率はどれ程なのか。データ根拠を示す必要があろう。
対象不動産の個別性を考慮したというが、その個別性の要因の分析した利率はどれ程なのか。データ根拠を示す必要が有ろう。
それ等の数値の説明が全くなされておらず、期待利回りの数値のみ突然3.5%であると記すが、これでは3.5%が適正かどうかは読む人にとってはさっぱり分からない。
どうして3.5%になるのか。
この記述では、3.2%でも、3.0%でも2.8%にもなる。
3.8%にも4.0%にも4.5%にもなり得る。
4.5%にはならない。3.5%であると主張するので在れば、何故3.5%であるかという数的データを示した理論的説明が必要であろう。
そのデータ根拠による論理的説明がなされないのであれば、3.5%が対象地の適正な期待利回りであると認める事は出来ないであろう。
不動産鑑定評価は実証科学である。文学では無い。修辞学では無い。
文言の羅列で期待利回りが求められるものでは無い。
この様な期待利回りの求め方をしていては、不動産鑑定評価を20年、30年していても、期待利回りの求め方が全く身に付かず、利回りの求め方が分からない専門家の不動産鑑定士と呼ばれることになろう。
そう呼ばれる事は、不動産鑑定評価の専門家として恥ずべきべきことでは無いのか。
3.5%はこの様にして求められますと、データ数値の裏づけ根拠を提示し、計算過程を示して、論理的に説明するべきであろう。
何故3.5%なのだ。
自分でその説明が出来なければ、3.5%である事を分析し、論証した研究論文を捜し、提示するべきであろう。但し、その論文も論理矛盾で間違っていてはダメである。
不動産鑑定評価基準は、鑑定評価報告書について次のごとく述べる。
「鑑定評価報告書は、鑑定評価書を通じて依頼者のみならず第三者に対しても影響を及ぼすものであり、さらには不動産の適正な価格の形成の基礎となるものであるから、その作成に当たっては、誤解の生じる余地を与えないよう留意するとともに、特に鑑定評価額の決定については、依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとするように努めなければならない。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版 P39)
上記期待利回り3.5%は、「第三者に対して十分に説明し得るもの」であろうか。私には十分に説明し得るものであるとは、全く思う事が出来ないが。
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