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公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会が発行している最新の第19回実務修習指導要領テキストの「地代の鑑定評価(評価書編)」(2024年11月1日発行 以下「地代指導テキスト」と呼ぶ)の基礎価格を、底地価格にしており、それについては間違っているということを、鑑定コラム2868)に記した。
そして、期待利回り3.5%について、どの様に3.5%を求めたかの具体的説明が全く無く、3.5%の信頼性は無いと鑑定コラム2869)で記した。
今回は、評価対象の借地の借地権価格について検討する。借地権は、債権としての土地賃借の借地権とする。
1.借地権割合85%で借地権売買されるのか
地代指導テキストは、評価する借地について、下記のごとく記述する。
「本件当事者間において85%の借地割合を前提とした対価の授受がある。」(前掲同書P328)と記述する。
東京国税局の相続税路線価図の借地権割合は90%であることも考慮して、評価対象地の借地権割合は85%で売買取得された借地権であるから、対象地の借地権割合は85%と決定し、これから底地割合を15%とすると地代指導テキストは決定過程を述べる。
債権としての土地賃借権の借地権には、地代の支払のみで無く、下記の負担が随伴する。
・ 名儀書替料 8.5%(借地権割合の10%)
・ 建替承諾料 10.0%(更地価格の10%)
・ 更新料 5.0%(更地価格の5%)
計 23.5%
債権としての借地権取得に伴い、上記の負担が随伴する。
トータルすると
85%+23.5%=108.5%
108.5%となる。
即ち、更地価格よりも高い金額になる。
更地価格よりも高い金額を出して、借地権を取得する人が果たしているであろうか。更地取得の方に動き、更地よりも高い価格の借地権をわざわざ購入しょうとする人はいないでは無かろうか。
所有権土地建物のビルを購入する場合には、取得後大規模修繕しなければならない場合には、大規模修繕しなければならない工事費相当を控除して購入価格を決定する。
借地権取得の場合にも、それは同じでは無かろうか。
借地権購入後に、23.5%の支出がはっきりと分かれば、その割合分を購入価格から控除して借地権を購入するのでは無かろうか。
85%−23.5%=61.5%
そして、借地権の売買市場の狭さ・悪さの要因の減価を10%から15%として、15%を採用すれば、
61.5%−15%=46.5%
取引の借地権価格の割合は、46.5%である。
都内で貸地を多く所有している東京の大手不動産会社の幹部の方から、「田原さん、借地権を路線価図の借地権割合で買う馬鹿はいませんょ。路線価図の借地権割合の半値ですょ。路線価図の借地権割合で買う人はド素人ですょ。」と私は聞かされた。
上記の負担減を差し引いた価格である。
2.路線価図の借地権割合
親族間や同族会社間などで借地権を設定する場合、権利金を支払っていないと、実質的な贈与が行われたと国税庁はみなし、「認定課税」を課す。
この認定課税を避ける為に、相当地代を支払っていれば、認定課税は課されない。
相当地代は、「更地価格×6%」の地代である。6%は国税庁が採用している利率である。
相当地代を払っていれば借地権価格は発生しない。相当地代以下の場合には借地権価格が発生するという論理である。
国税の借地権割合は、上記の考え方から、次の算式で、作られている。
実際の支払地代
1−─────────
更地価格×0.06
地代の指導テキストの更地価格は、u当り14,600,000円である。
相当地代は、
14,600,000円×0.06=876,000円
である。
評価土地の現行地代は、年額24,000,000円である。土地面積は280uであるから、u当りの現行地代は、
24,000,000円÷280u=85,714円
である。
対象地の路線価の借地権割合は、上記算式から、
85,714円
1−───────── = 0.9024≒0.90
876,000円
90%と求められる。
地代の指導テキストは、「東京国税局の財産評価基準書における路線価図による近隣地域の堅固建物所有目的の借地権割合は更地価格の90%である。」(前掲同書P328)と記すが、その借地権割合90%は、上記の考え方で求められているものである。
たまたま借地権割合は、90%と同じ割合に求められたが。
地代の指導テキストは、対象地の借地権取引割合85%は、路線価図の90%に近い割合であるから適正な借地権割合そして借地権価格と記述するが、利回り6%という非現実的な地代算出の割合を使用して求められている路線価図の借地権割合90%に近い割合であるから、適正な借地権割合そして借地権価格であるという主張には、論理の正当性は無いと私は思う。
3.公租公課倍率
現行支払賃料は月額2,000,000円(P319)である。年額支払賃料は、
2,000,000円×12=24,000,000円
である。
価格時点の土地公租公課は、8,500,000円(P328)である。
公租公課倍率は、
24,000,000円÷8,500,000円=2.82
2.82倍である。
鑑定評価支払賃料は、月額2,150,000円である。年額支払賃料は
2,150,000円×12=25,800,000円
である。
公租公課倍率は、
25,800,000円÷8,500,000円=3.03
3.03倍である。
公租公課倍率をまとめると、
鑑定評価をしない時の公租公課倍率 2.82倍
鑑定評価額の場合の公租公課倍率 3.03倍
である。
4.借地権の内容への疑問
地代の指導テキストは、P319で下記のごとく記している。
「賃借人は、借地権設定(更地の85%相当)の対価として、昭和○○年○○月○○日付土地賃貸借契約に従い、賃貸人に○,○○○,○○○円を支払い、その引き換えに借地権設定登記を行っている。」
借地権の設定登記が、土地登記簿にされていると云うことは、債権としての借地権では無く、物権としての土地賃借権である地上権ではないのか。
一方、賃貸条件としてP319に、賃借権の譲渡、転貸、建物の増改築する場合には土地賃貸人の許可を必要とするとある。
地上権の場合には、それ等の許可は必要で無いが。
5.地代減額請求するべき案件では無かろうか
私は地代の評価を多く手がけてきたが、地上権そのものが甚だ少ない事もあって、地上権の地代の評価は極めて少ない。
件数は少ないが、その地上権の地代水準は、公租公課の倍率で云えば、土地公租公課の1.2倍〜1.8倍であった。
地上権者からは、1.8倍の地代でも高いという意見もあった。
地上権の価格は、更地価格の90%前後であった。
本件は、地上権か否かは分からないが、賃借権が土地登記簿に登記されている事、賃借権取得に伴い、更地価格の85%の権利金が支払われていることを考えれば、土地公租公課の3倍の地代は適正地代とは云えないであろう。
賃借人側から土地公租公課の3倍の地代が適正という鑑定書が出されれば、土地賃貸人は大喜びして、即、地代改訂に応じるであろう。
権利金として、更地の85%が懐に入り、地代として土地公租公課の3倍の収入が得られる事になれば、土地賃貸人にとって、これほど喜ばしいことは無かろう。
公租公課倍率の3倍という地代は、権利金を全く支払わない借地権或いは、権利金の支払が低額な借地権を含めた場合の地代倍率である。
権利金を更地価格の85%支払った借地権の地代の倍率では無い。
借地人側からすれば、地代の大巾な減額請求すべき案件であり、地代指導テキストの現行200万円の地代を215万円に増額する鑑定評価など、もってのほかである。
例えば、権利金を更地価格の40%授受を平均として、地代の公租公課倍率の平均が3.5倍とした場合、権利金を更地価格の85%支払った場合の公租公課倍率を計算すると、下記である。
権利金85%の支払は、平均40%に対して
85%÷40%=2.125
2.125倍土地所有者に利益を与えている事になる。
地代の元本たる土地価格は、権利金によって2.125倍の利益対価を得ていることから、果実たる地代は、それ相当安くなると考えるのが経済経験則では無かろうか。
3.5倍÷2.125=1.647倍≒1.6倍
公租公課倍率は1.6倍となる。
権利金85%の授受のある場合の適正地代は、土地公租公課の1.6倍が適正地代と云えよう。
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