地方のある不動産鑑定士が憤慨して、私の所にある地代の鑑定書を持ち込んできた。
その地代鑑定書は、地方の住宅地の地代の期待利回りを5%として求めていた。
更地価格に期待利回り5%を乗じ、その地代を経済価値に即応した地代として、従前地代(年額約210,000円、69円×250u×12≒210,000円)との差額を1/2にして、適正地代と求める。
求められた地代は無茶高な地代となっている。それを当該不動産鑑定書を書いた不動産鑑定士は適正地代と主張する。
しかし、一審の裁判所もさすがに高すぎる地代と思ったのか、論理性の乏しい理由を附けて鑑定地代を更に半分にして、地代判決を出した。
鑑定地代を半分にしても、それでも判決地代は、従前地代の約2.5倍の地代となってしまった。
借地人が怒るのも無理もない判決であり、地代の鑑定書である。
地代の期待利回りは5%もするのか。
その利回りは家賃利回りよりも高い利回りでは無いのか。
家賃の利回りよりも高い地代の期待利回りは存在するのであろうか。
例を挙げて説明する。
一般住宅地にあって、土地面積250平方メートルの土地上に、150平方メートルの木造2階建て共同住宅を想定する。
土地価格を2,000万円、建物価格を1,800万円とする。土地建物総額は3,800万円である。
その土地上の建物の賃料収入を月額21万円、年額252万円とする。
必要諸経費を減価償却費を含めて、収入の45%とする。
純収入は、
252万円×(1−0.45)=138.6万円
である。
家賃の利回りは、
138.6万円÷3,800万円=0.03647≒0.0365
である。
この家賃利回りから、土地建物の利回りを求めると、建物の耐用年数を27年とし、償還基金率相当を加算したものを建物利回りと考えて計算すると、
土地利回り 2.6%
建物利回り 4.8%
である。
この求められた土地利回り2.6%は、家賃の収入による土地価格を求める場合の土地利回りであって、地代の土地利回り(地代の期待利回り)では無い。
家賃収入による土地の利益配分は、
2000万円×0.026=52万円
である。
しかるに、件の地代の鑑定書は、地代の期待利回りを5%として、
2000万円×0.05=100万円
と地代を求める。
家賃収入による土地利益配分のおよそ倍を地代と求める。
この様な地代が現実に存在しうるであろうか。
家賃収入からの土地利益配分額を越える地代の存在など、あり得ないでは無かろうか。
前記2.6%の利回りも家賃収入による土地の利回りであり、地代を求める期待利回りでは無い。
地代を求めるには、更に借地人の存在を考えられねばならない。
借地人が、借地人の費用負担で建物の建設を行うのであるから、その負担分とリスクに対する利益を考える必要がある。
借地人、土地所有者の利益配分を50対50とすれば、地代の利回りは、
2.6%×0.5=1.3%
ということになる。
この1.3%が地代の期待利回りである。5%のごとくの著しい高い地代の期待利回りでは無い。
2000万円の土地価格に乗ずる地代の期待利回りは1.3%であるべきものが、5%を乗じて求め、その地代を前提にして1/2の差額配分法を行えば、得られる差額配分法の地代は、現実を無視した非現実の無茶高の地代が求められよう。
件の地代鑑定書には、何故地代の期待利回りを5%にしたのかについての説明は一切無い。
収益(家賃)あっての地代である。
不動産が生み出す収益を越えた地代などあり得ないであろう。
反5俵の収穫しか得られない田に、反10俵の小作料の存在などあり得るのであろうか。
「不動産鑑定士よ、しっかりせい」と言いたくなる。
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