1273) 鑑定基準に「賃貸事業分析法」という新しい地代手法が導入された
不動産鑑定基準が、平成26年5月1日に改正され、平成26年11月1日より施行されることになった。
かなりの個所が見直され、新しい分析手法が導入された。
鑑定コラム1242)「これが改正鑑定評価基準なのか」の記事で、更地の求め方の部分改正があったことを述べたが、鑑定基準が改正等された個所について、折を見つけて書いてゆきたい。
地代の新規実質地代の求め方に、「賃貸事業分析法」という新しい手法が加わった。
その新しい手法については、26年改正国交省版鑑定基準P51に、次のごとく述べられている。
「建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法」であると云う。
収益分析法の求め方を賃貸建物事業に置き換えたものである。
鑑定基準は、従前、収益分析法の変形として行っていた手法を、「賃貸事業分析法」の名称にして、今回独立させたのである。
土地残余法による土地利益を求め、その利益を借地人と土地所有権者で配分し、土地所有権者の配分部分が、地代の純地代となり、これに必要諸経費の公租公課を加算したものが、新規実質地代となる求め方である。
具体的な求め方の例は、2006年8月6日発表の鑑定コラム296)「家賃の利回りを大幅に上回る驚くべき地代利回り」で、大要記述してある。このコラムを読んで、どの様にして求めるのか勉強して欲しい。
この手法によれば、非堅固建物所有目的による契約減価の要因が的確に反映される新規実質地代が求められる。
私は、「家賃あっての地代」という考え方より、新しく鑑定基準が認めた「賃貸事業分析法」の分析法を、30年前頃より行っていた。
しかし、なかなかこの手法の理解が得られなかった。
弁護士からは必ずと云ってよいほど、鑑定評価基準の認めていない求め方で鑑定基準違反であると批判された。
不動産鑑定士からも、鑑定基準が認めていない田原鑑定士の独特の求め方で、一般性がない求め方であって不当鑑定であると批判された。
鑑定基準違反だ、一般性のない求め方だ、不当鑑定だと批判され、何度も悔しい思いを味わった。
「賃貸事業分析法」を行っていたのは私一人ではなく、行っていた他の不動産鑑定士の人もいたと思う。
その方々も、恐らく私が味わった批判、非難を経験したことと思う。
平成14年10月22日に東京高裁の浅生重機裁判官が、地上建物の賃料をもとに土地残余法によって地代を求めるべしという画期的な判決を出した。(平成14年10月22日 東京高裁 平成13年(ネ)第6510号 判時1800-3)
この判決は、今回の鑑定基準に新しく取り入れられた「賃貸事業分析法」による判決である。
この判決によって、地代は家賃から求めるものという認識が受け入れられるようになった。
浅生重機裁判官は、上記判決以外でも、同じ考え方の地代の判決を出している。
但し、浅生重機裁判官の「賃貸事業分析法」の求め方を全て適正であるとは、私は思っていない。
浅生重機裁判官の求め方に多くの間違いがある。
例えば、借地権価格の存在を認めない求め方は大きな間違いである。
借地権価格の存在を否定することには、私は猛反発する。
浅生重機裁判官は、貸家事業の経営配分利益等を考えているが、その経営配分利益等は考えない。
それら利益は、土地建物の価格に転嫁していると考えるものである。
それは、賃貸不動産の収益還元法の考え方と同じである。
賃貸不動産の収益還元法は、経営配分利益、資本配分利益、労働配分利益を考えない。
期待利回りは、当該土地上に想定された土地建物一体の複合不動産が産み出す収益から複合不動産の総合期待利回りが求められる。
その総合期待利回りから、土地と建物の個別期待利回りを求めることが出来る。
求められた土地の期待利回りは、更地の期待利回りであるから、それに借地権が附着している要因を修正すれば、地代の期待利回りが求められる。
私は、新鑑定基準が、「賃貸事業分析法」という求め方を取り入れたのであるから、多くの不動産鑑定士は地代の新規実質地代は「賃貸事業分析法」で求めているであろうと思っていたが、まだまだである。
今迄に訴訟で、「賃貸事業分析法」によって、地代を求めていた地代鑑定書を目にしたことは無い。
現在、裁判で争っている地代減額訴訟の相手側鑑定書も、更地価格に根拠薄弱な投資家利回りと称する5%の利回りを乗じて地代評価しているものである。
もう1件は、地裁の鑑定人不動産鑑定士が、基礎価格を更地価格で無く底地価格とし、期待利回りは、これまた最近の金融情勢と安全性云々という文言より3.5%前後の割合で継続地代を求めている。
更地価格に5%の期待利回りを乗じて地代鑑定を行うと、その継続地代は無茶高な地代が求められる。
底地価格を地代の基礎価格にするなど、話にならない。
「賃貸事業分析法」という新しい地代分析手法の求めている収益は、更地の土地残余法による収益である。
即ち、求められた収益は、更地の配分土地収益であって、底地の収益では無い。
この事は何を意味するのかと云えば、地代の基礎価格は更地価格ということを意味している。
「賃貸事業分析法」の求めている収益は、更地の収益であって、底地の収益でないことから、底地価格は地代の基礎価格にはなり得ないということになる。
底地価格は、地代の基礎価格にはなり得ないことについては、いずれコラムで述べたい。
鑑定コラム1242)「これが改正鑑定評価基準なのか」
鑑定コラム1137) 「地代評価で収益分析法は有用な手法である」
鑑定コラム166) 「近親者の関係が無くなった場合の地代の東京高裁判決」
鑑定コラム1071)「収益分析法についての1つのコメント」
鑑定コラム848)「家賃利回りを超える地代利回りの地代鑑定に驚愕」
鑑定コラム296)「家賃の利回りを大幅に上回る驚くべき地代利回り」
鑑定コラム1319)「地代の基礎価格は、更地価格である」
鑑定コラム1321)「借地非訟の決定例に見る収益地代」
鑑定コラム1458)「賃貸事業分析法には減価償却費が必要である」
鑑定コラム1552)「賃貸事業分析法の具体的な求め方」
鑑定コラム1917) 「連休明けから鑑定コラム459),433),1273)のアクセスが急増している」
鑑定コラム2774)「賃貸事業分析法の必要諸経費には減価償却費が含まれる東京高裁の判例」
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