○鑑定コラム
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@ はじめに
地代の求め方に、「賃貸事業分析法」という新しい手法が加わった。
その新しい手法については、26年改正国交省版鑑定基準P51に、次のごとく述べられている。
「建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法」であると云う。
収益分析法の求め方を賃貸建物事業に置き換えたものである。
鑑定基準は、従前、収益分析法の変形として行っていた手法を、「賃貸事業分析法」の名称にして、今回独立させたのである。
土地残余法による土地利益を求め、その利益を借地人と土地所有権者で配分し、土地所有権者の配分部分が、地代の純地代となり、これに必要諸経費の公租公課を加算したものが、新規実質地代となる求め方である。
但し、鑑定基準は賃貸事業分析法の求め方を具体的に述べていない。上記「」書で述べるだけである。
賃貸事業分析法によれば、非堅固建物所有目的による契約減価の要因が的確に反映される新規実質地代が求められる。
鑑定基準は、賃貸事業分析法は、新規地代を求める時に適用出来るとするが、賃貸事業分析法は、継続地代にも適用出来る手法である。そもそも賃貸事業分析法は、新規賃貸借契約、継続賃貸借契約による地代の分け方には無関係の手法である。
私は、「家賃あっての地代」という考え方より、新しく鑑定基準が認めた「賃貸事業分析法」の分析法を、30年前頃より行っていた。
しかし、なかなかこの手法の理解が得られなかった。
弁護士からは必ずと云ってよいほど、鑑定評価基準の認めていない求め方で鑑定基準違反であると批判された。
不動産鑑定士からも、鑑定基準が認めていない田原鑑定士の独特の求め方で、一般性がない求め方であって不当鑑定であると批判された。
裁判官は、「田原鑑定の地代の求め方は鑑定基準違反の求め方である」と批判する代理人弁護士の主張に躊躇してしまい、家賃より求めている地代評価を採用しょうとしない。
鑑定基準違反だ、一般性のない求め方だ、不当鑑定だと批判され、何度も悔しい思いを味わった。
「家賃あっての地代」という考え方を反映する家賃より求める地代の求め方が、今回鑑定基準に「賃貸事業分析法」として公に認められた。これは大変うれしいことであり、地代評価の進歩である。
改正鑑定基準委員会のどなたが、賃貸事業分析法の採用を強く主張されたか私は知らないが、識見の高い方と思われ感謝する。
以下に賃貸事業分析法による地代の具体的求め方を述べる。
A 設定条件
堅固建物所有目的の場合の求め方の例を記す。
イ、地積、道路条件等
土地面積100u、幅員20メートル道路に面する。
商業地、容積率700%
ロ、建物所有目的 堅固建物所有
ハ、土地価格 420,000,000円(u当り420万円)
ニ、土地公租公課 年間760,000円
ホ,価格時点 平成28年7月1日
へ、昭和25年頃より土地賃貸契約が続いている。
ト、現行地代 月額360,000円
B 想定建物
対象地にRC造8階建延べ床面積700u(100u×7=700)の建物を想定する。
用途は1階店舗、2階以上は事務所とする。
各階の建築及び賃貸面積は下記である。
階 建築面積 賃貸面積
1階 85 50
2階 85 65
3階〜8階 85 65
塔屋 20 0
計 700 505
C 建物価格
対象地に想定した建物価格は、次の通り求める。
国土交通省発表の『建築着工統計調査』によると、東京都の平成27年1月〜12月1年間のRC造の事務所ビル建設統計統計デ−タは次の通りである。
棟数 61棟
のべ床面積 66,833u
工事予定額 2,311,104万円
このデ−タより、1棟当りのべ床面積は、
66.833u
──── = 1,095u
61棟
1,095uである。
u当り建築工事費は、
2,311,104万円
─────── = 34.58万円
66,833u
34.58万円である。
建築工事費が異常高になっている。これは平成23年3月の東日本大震災の復興工事が本格的に展開されて来たことによって、工賃、材料費の大巾値上りによるものである。ここ1年間で50%近くの建築費の値上りが生じている。
異常高の建築費であるからといって、その金額しか建物を建てる事は出来ないことから、上記建築費を採用せざるを得ない。
価格時点は、平成28年7月であるが、その時点の建設工事費データの発表が無い事から平成27年のデータを使用する。
想定RC造の事務所建物の建築工事費を、
u当り 34.58万円
とする。
上記RC造の工事費に次の修正を行う。
・中品等の事務所ビルである。 1.0
・設計監理費 1.05
34.58万円×1.0×1.05≒36.3万円
想定建物の価格を
u当り 363,000円
総額 363,000円×700u=254,100,000円
とする。
D 店舗・事務所賃料
対象地周辺の店舗及び事務所賃料の賃貸事例から比較して、対象地上の想定建物の賃料を次の通りとする。
1階店舗 u当り13,800円
2階以上事務所 u当り 3,600円
E 純収益
イ、総収入
・支払賃料
1階 13,800円×50u = 690,000円
2階〜8階 3,600円×65u×7= 1,638,000円
小計 2,328,000円
年間支払賃料 2,328,000円×12= 27,936,000円
・敷金
1階 690,000円×10ヶ月 = 6,900,000円
2階〜8階 234,000円×6ヶ月×7 = 9,828,000円
小計 16,728,000円
・敷金運用益
運用利回りは0.5%とする。
16,728,000円×0.005 = 83,640円
・共益費 0円
支払賃料に含まれる。
・収入合計 27,936,000円+83,640円 = 28,019,640円
ロ、必要諸経費
・ 減価償却費 5,082,000円
建物の経済的耐用年数を50年とする。
減価償却費は、
254,100,000円÷50=5,082,000円
である。
(注)減価償却費は、建物投下資本の回収である。
借地権の場合、建物を建設する費用を出す人は、借地 人である。
建物建設の資本投下者は借地人である。それ故、減価償却費を受け取る人は借地人である。
必要諸経費に減価償却費を入れて、純収益より減価償却費を排除しないと、純収益は地代となるものであるから、減価償却費が純収益の中に入ってしまい、そして地代となって土地所有権者が減価償却費を取得することになってしまう。
・ 公租公課 2,460,000円
土地 760,000円
建物 1,700,000円
小計 2,460,000円
・維持管理費 1,400,000円
・修繕費 1,300,000円
・火災保険料 127,050円
254,100,000円×0.0005=127,050円
合計 10,369,050円
ハ、純収益
純収益は、
総収入−必要諸経費=純収益
の算式で求められる。
28,019,640円−10,369,050円=17,650,590円
純収益は、17,650,590円である。
F 総合期待利回り、土地期待利回り、建物期待利回り
イ、総合期待利回り
総合期待利回りとは、複合不動産を構成する土地建物が一体となって得られる純収益を、その土地建物の価格で除した利回りである。
算式は、
土地建物一体となって得られた純収益
────────────────── = 総合期待利回り
当該土地価格+建物価格
である。
上記で得られた純収益は、土地建物が一体となって得られた純収益である。
想定建物の総合期待利回りは、
17,650,590円
──────────────── = 0.0262
420,000,000円+254,100,000円
2.62%である。
ロ、土地期待利回り、建物期待利回り
上記で求められた総合期待利回りは、土地建物の複合不動産の期待利回りである。この利回りを地代の利回りには採用出来ない。
総合期待利回りから、土地期待利回り、建物期待利回りを求め無ければならない。
建物の期待利回りは、土地期待利回りよりも一般的には高い水準にある。
それは建物には耐用年数があるためと考えられる。
建物の耐用年数は50年であるから、
1/50=0.02
である。単純平均の利率は2.0%である。
利率2.0%、期間50年の償還基金率は0.012である。
建物の期待利回りが土地より高い利率は、償還基金率相当の割合とする。
土地の期待利回りをXとする。
建物の期待利回りは(X+0.012)とする。
420,000,000×X+254,100,000(X+0.012)
─────────────────────── =0.0262
420,000,000+254,100,000
式よりXを求める。
X=0.022
である。
即ち、
土地の期待利回り 0.022
建物の期待利回り 0.034(0.022+0.012=0.034)
と求められる。
(ここで求められた土地期待利回りが、積算法に使われる土地期待利回りである。土地更地価格に2.2%を乗じて、公租公課を加算すれば、その地代は積算法の地代となる。)
G 建物に配分される純収益
上記純収益は、土地に全て配分されるものではない。この純収益を得るには建物の存在があってこそ得られたものである。
建物にも配分されなければならない。
建物価格は、前記で254,100,000円ともとめられている。
建物の期待利回りは、0.034である。
建物に配分される純収益は、
254,100,000円×0.034=8,639,400円
8,639,400円である。
H 土地残余収益
土地残余収益は、
対象土地・建物純収益−建物に配分される純収益=土地残余収益
の算式で求められる。
17,650,590円−8,639,400円=9,011,190円
土地残余収益は、9,011,190円である。(この土地残余収益に公租公課を加えたものが、賃貸事業分析法の新規地代である。)
I 継続地代の賃貸事業分析法の地代
上記9,011,190円が土地所有権者の取得する利益、即ち、地代になるのではない。
上記利益は、土地所有権者の土地提供、建物所有権者(借地人)の建物建設費及び建物管理によって得られたものである。
即ち、土地利益は、土地所有権者、借地人の協働によって得られたものであり、利益配分は1/2づつが公平である。借地権割合に応じて配分するべきという主張もあるが、そのことについては後記(J注)で述べる。
9,011,190円×1/2=4,505,595円
この金額に公租公課760,000円を加算する。
4,505,595円+760,000円=5,265,595円
月額地代は、
5,265,595円÷12=438,800円≒439,000円
である。
賃貸事業分析法による地代を、
月額 439,000円
と求める。
J 注
利益配分割合は1/2、即ち50%でなく、借地権割合で行うべきという考えもある。
本件の借地権割合を考える。
借地権価格の発生事由として、地代の差額によるものとする地代差額説がある。それによって分析する。
本件土地賃貸借契約条件による更地の期待利回りは2.2%である。
純地代は、
420,000,000円×0.022=9,240,000円
である。
必要諸経費の公租公課は、760,000円である。
借地権価格が発生していない場合の地代(年間)は、
9,240,000円+760,000円=10,000,000円
である。(この地代が積算法の地代である)
現行地代(年間)は、
360,000円×12=4,320,000円
である。
地代差額は、
10,000,000円−4,320,000円=5,680,000円
である。
この差額が30年間続くとする。
5,680,000円×30=170,400,000円
これが借地権価格である。
更地価格に対する割合は、
170,400,000円
─────── ≒ 0.406
420,000,000円
40.6%である。
なお、30年間の年金利現価率で求めるべきと云う主張があるかもしれないが、割引の利率をどれ程にするかの問題が生ずることから、それを避ける為に、年間の差額を30倍して求めることにした。
本件の借地権割合は差額地代より分析すれば、40.6%である。
本件借地権割合は40.6%と求められたが、相続税路線価の割合は、対象地の前の相続税路線価はu当り3,600,000円で、借地権割合は「B」のクラスである。借地権割合80%である。
この借地権割合より、借地権割合は、80%であると主張されるかもしれない。しかしその主張は失当である。対象借地権には次の負担が付随している。
イ,更新料
土地賃貸借契約を続ける場合には、更新料を支払って更新しなければならない。更新料を更地価格の5.0.%とする。 ( −5.0%)
ロ,増改築承諾料
対象建物は築61年経過している。建物の設備等を考えると建替ることが必要と思われる。この増改築承諾料は更地価格の10%である。 (−10%)
ハ,名儀書替料
借地権を売却するには、事前に土地所有権者の承諾が必要である。この承諾料は借地権価格の10%である。
借地権割合は80%であるから、
80%×0.1=8%
8%である。 ( −8%)
ニ,地代の増額
新しい建物になれば、家賃の増額となり、そのうちの幾ばくかは地代の増額となる。家賃の増額はおよそ35%程度の増加が見込まれる。
必要諸経費率を36%とすれば、純収益の増加は、
35%×(1−0.36)=22.4%
22.4%の純収益の増加である。
ここから建物利益相当分を18%、そして残りの半分の50%を土地所有権者の取り分、即ち、地代分とする。
22.4%×(1−0.18)×0.5≒9%
9%の地代増額となる。この分相当が借地権売買においてはマイナス要因となる。 (-9.0%)
上記の建物利益相当分の18%は、賃貸総収入に対する減価償却費の割合相当として求める。
5,0820,000円
──────── = 0.18
28,018,640円
ホ、まとめ
更新料 −5%
増改築承諾料 −10%
名儀書替料 −8%
地代増額 −9%
計 −32%
現行借地権を購入する人は、借地権を最適使用の状態で利用する場合には、上記要因による金銭対価を土地所有権者に支払わなければならない。
そうすると当然借地権売買価格より、購入後予想される負担額を控除した金額でないと、借地権の売買は成立しない。
80%−32%=48%
相続税路線価の借地権割合から検討した借地権割合は48%である。
80%の借地権割合の主張は失当となる。
50%程度の借地権価格割合程度が妥当な水準と思われる。
K 最後に
賃貸事業分析法の土地残余収益を更地価格で除せば、土地期待利回りが求められる。
この土地期待利回りが、積算法の土地期待利回りである。
対象土地期待利回りとして最も信頼が出来適正である期待利回りは、こうして求められる。
地代期待利回りは、土地期待利回りに借地権価格割合相当を減じれば、求められる。
家賃あっての地代であるから、その意味から云えば賃貸事業分析法は、地代の求め方の基本となる求め方である。この手法で求められた地代が、適正地代の中心にあるべきと私は思う。
(本稿は、平成28年8月18日に開かれた千葉県の不動産鑑定士の訴訟鑑定研究団体の「千葉県不動産研究会」で、不動産鑑定士40名程度に話した講演内容であり、又、28年9月9日ホテルニューオータニでの田原塾で話した講話レジュメである。)
鑑定コラム1273)「鑑定基準に「賃貸事業分析法」という新しい地代手法が導入された」
鑑定コラム166)「近親者の関係が無くなった場合の地代の東京高裁判決」
鑑定コラム1458)「賃貸事業分析法には減価償却費が必要である」
鑑定コラム1321)「借地非訟の決定例に見る収益地代」
鑑定コラム1242)「これが改正鑑定評価基準なのか」
鑑定コラム1319)「地代の基礎価格は、更地価格である」
鑑定コラム296)「家賃の利回りを大幅に上回る驚くべき地代利回り」
鑑定コラム1549)「地代の期待利回りの求め方」
鑑定コラム1553)「脱稿・改訂増補『賃料<地代・家賃>評価の実際』」
鑑定コラム2140)「日経「都心オフイス賃料下落 80ヶ月ぶり」」
鑑定コラム2774)「賃貸事業分析法の必要諸経費には減価償却費が含まれる東京高裁の判例」
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