定期借地権という新しい借地制度を取り入れて、借地借家法が改正されたのは、平成3年10月4日(法律90号)である。
それ以前の借地法、借家法は、旧借地法・旧借家法と呼ばれて、法律として存続し、新借地借家法と区別されている。
それは借地・借家の賃貸借契約は、長い期間継続するものであり、新法施行以前に締結されていた借地・借家の賃貸借契約は、旧借地法・旧借家法が適用されるからである。
平成3年に新しい借地借家法になり、いずれは定期借地権に絡む財産価値の争いが生じ、その時、不動産鑑定評価の立場から定期借地権から生ずる財産価値の判断を求められるであろうと予測していた。
法施行15年目(3年前に地代の評価を行っているが)にして、定期借地権の財産価値の不動産鑑定を行うことになった。
定期借地権設定の木造戸建住宅の所有権者が、事業に失敗した。債務返済として設定してあった抵当権の実行を債権者が行った。 即ち競売にかけられたのである。
建物の競落人は、地主に定期借地権の名儀変更と、前定期借地権者が地主に差し入れている保証金の返還を申し立てた。
地主側は、代理人弁護士を通じて、借地権の譲渡、即ち名義変更を拒否した。そして差入れ保証金についても、最高裁の昭和53年12月12日の判決を引用して、返還を拒否した。
そして逆に地主側は、当該建物の購入を行うことを主張してきた。
昭和53年12月12日の最高裁の判決とは、借地権の競売においては、保証金の返還請求権は競落人には移転しないというものである。
競売評価人の評価書では、定期借地権の価額を更地価格の60%とし、それに競売減価という訳の分からない減価修正を行って、定期借地権価格を求めていた。
ここで問題とされるのが、定期借地権に借地権価格が発生するのか否か。
それも旧借地法の借地権のごとく60%もの借地権価格が発生するものであろうか。
発生するとすれば、その根拠は。そしてその金額はいかほどか。
2つ目は、定期借地権の譲渡を認める場合、その名儀書替料は必要か否か。もし必要であれば、それはどれ程の金額になるのか。
3つ目は、前定期借地権者が地主に差し入れていた保証金(金額を例示として1000万円とする。)を、地主は建物競落人に返還しなければならないのか否か。
否とするのならば、その合理的理由は。
返還するとすれば、金額は全額か。全額でなければどれ程の金額か。
4つ目は、地主が定期借地権上の建物を購入するとすれば、その金額はいかほどか。
これらの問題に対して、不動産鑑定士はどの様に考え、設問で評価額を出さねばならないと判断したときには、その評価額をどの様にして出すのか。
旧借地法での最高裁の判断を、借地権の内容が全く異なる新借地借家法が創設した定期借地権に適用して良いものかどうか。
定期借地権に借地権という権利が発生することには私は異論はないが、借地権価格の発生が認められるものか否か。
これらは、現在の不動産鑑定が直面する最先端の問題のところである。
現在の不動産鑑定の最先端はどこかと指摘されれば、上記点が直面する最先端の一つと言える。
不動産鑑定評価は進歩している。その最先端を知り、最先端に触れられることは、日常携わっている不動産鑑定評価にも役に立つのではなかろうか。
定期借地権の既経過期間は、例示として10年とし、定期借地期間は50年とする。更地価格は適当な金額を考えて、各自、自分で上記問題の回答を考えられたい。
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