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390)壊滅に近い瑞浪の窯業産業

 瑞浪市に行ってきた。
 瑞浪市はどこにあるかと言えば、岐阜県の東濃地区で、名古屋駅から北東方向の長野県の松本に向かうJR中央本線(中央西線という)に乗って、瑞浪駅までおよそ40分の距離にある市である。

 人口約42,000人の市である。

 市の主な産業は、美濃焼と呼ばれる陶器製品及び土木・建築用の磁器タイル等の窯業である。

 今回、瑞浪市を訪れたのは、その窯業の工場の土地建物の評価であった。
 瑞浪のほか周辺市も含めていくつかの窯業工場をもつ会社であった。
 会社経営者の案内を受け、建築年の違ういくつかの工場の現地を見て回った。

 そして案内を受けながら会社経営者の話を聞くと、瑞浪を中心として、土岐、多治見の瀬戸物と呼ばれる陶器、タイル業者の状況は惨胆たるものである。

 工場経営者が言うには、
 「窯業工場は以前の1/3に減ってしまい、このままの状態が続くと、瑞浪の窯業業者は全滅してしまう。」
という。

 その原因は、
 「中国からの安い陶器が輸入され、100円ショップで売られている。
 その値段にはとても太刀打ち出来ない。
 どの様に努力、経費節減しても300円〜500円かかってしまい、とても価格競争では負けてしまう。
 日本政府は、日本の窯業産業を潰す気か。」
と言う。

 そして、
 「全ては小泉内閣の政策が悪い。」
と語気強く言う。

 自身の経営する窯業会社も相当の人員削減、原価の切りつめ等を行って経営努力しても、中国製品の輸入価格には勝てない。一方、タイルは建設業の大不況で受注量も減り、製品価格の下落というダブルパンチを食らっている。

 青息吐息で経営し、倒産の恐怖を身近に感じている経営者としては、時の政治家、その政策行政を行う官僚に痛烈な文句を言いたくなるのも無理からぬことであろう。

 瑞浪の窯業会社の社長の言うことが、本当にそうであろうかと思い、瑞浪市役所の統計資料で調べてみた。

 瑞浪市の工業の中の、窯業・土石製品の事業所数、従業員数、製品出荷額は下記のごとくである。
 平成8年〜平成16年までの経産省による工業統計調査によるものである。

                 事業所数    従業員数        製品出荷額
   平成08年    341    3,372人    3,660,137万円  
   平成09年    322    3,053人    3,435,807万円  
   平成10年    320    2,881人    3,319,345万円  
   平成11年    292    2,723人    3,127,395万円  
   平成12年    277    2,652人    3,080,214万円  
   平成13年    249    2,307人    2,477,887万円  
   平成14年    238    2,210人    2,369,622万円  
   平成15年    218    1,934人    2,044,973万円  
   平成16年     96    1,561人    1,746,766万円

 窯業事業所は、一事業所一工場では無いかと思われるが、平成8年に341あったが、平成16年では96になってしまった。
        96÷341=0.28

 窯業会社の経営者の言うごとく、まさに窯業工場数は1/3以下になってしまっている。

 これは平成16年現在の統計であるから、現在の平成19年11月では、もっと工場数は減っているかも知れない。

 特に平成15年に216工場あったのが、平成16年には96工場になってしまった。
        96÷216=0.44
 1年で半分以上の同一業種の工場が閉鎖してしまったのである。即ち企業として行き詰まってしまったのである。

 先の経営者が言う、
 「小泉内閣が悪い。」
ということを裏付ける数値である。

 1年で地方の都市の基幹産業が半分に減ってしまう様な行政は、一体どこを向いて政(まつりごと)を行っているのか、という批判を受けても仕方無かろう。
 窯業産業全体の売上高も、平成8年〜平成16年の間に、
        1,746,766万円÷3,660,137万円=0.477
で、半分以下に減ってしまっている。

 瑞浪市も、市の主要産業がこの様な壊滅的状況にあっては、雇用の確保、税収にも大きく響くことになる。

 主要産業を立ち直らせる施策を、行政側も真剣に考え無ければならないのでは無かろうか。

 中央の政治家、官僚達、或いは政策御用学者達は、給料が下がるのでもなく、職を失う恐怖も無いことから、倒産するかも知れないという経営者、解雇される人々の苦しさ、恐怖心など分からないであろう。

 元々全く実態そのものが分かっていないし、知らないであろう。

 中には、
 「潰れる様な企業経営を行っている方が悪い。
 時代の流れを見極める能力が無い経営者は淘汰されればよい。
 競争力の無い必要でない産業は無くなっても仕方無い。」
という人がいるかもしれない。

 加えて、
 「それが資本主義である。」
とうそぶいているかも知れない。

 しかし、一年間で市の主要産業である同一業種の半分が消滅すると言うことは異常である。

 その様な異常さを引き起こした政策は、誤っていると判断するべきでは無かろうか。

 小泉内閣の政策を褒め称える人がいることは私も知っている。
 小泉内閣の全ての政策が間違いであつたとは私は思わない。
 規制改革を叫び自由競争の導入を行うのは結構である。

 しかし、それを唱え行う一方で、やるべきことが政府、行政官僚にあったのでは無かろうか。

 中国の外貨準備高が、1.3兆ドルにもふくれあがっている。
 これは何故か。

 それは著しい元安による輸出増加での外貨の蓄積の結果であろう。
 世界一の外貨準備高を所有するに至った中国政府に対して、元はあまりにも安すぎると言って、元の切り上げを日本政府は強行に要求すべきであり、実施すべきではなかったか。

 主要国サミットや財務金融相会議で、首相や日本国の閣僚・官僚は元の切り上げもしくは為替の自由化を強く主張したであろうか。

 1ドル=7.8元±コンマ数%という為替レートを許しておかず、
        1ドル=3元
という元の切り上げ交渉を行ったのであろうか。

 少なくとも、1ドル=3元の為替レート、或いはドルとのリンクを離れた元為替の自由化になっていれば、瑞浪の窯業産業は現在のごとくの壊滅的状態、そして窯業産業が消滅するかも知れない可能性が見込まれる状態にはならなかったであろう。
 一つの産業が消滅するということは、重大事である。
 それに相当する産業を新しく創出することが出来るであろうか。
 容易く出来るものでは無い。

 産業の自由競争政策とは、為替レートの自由競争も考えて、政府は行うべきものでは無かろうか。


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