ついに経済恐慌が身近に迫ってきた。
大和(やまと)生命保険が経営破綻(2008年10月10日)した。
東京地裁に更生特例法の申請をし、申請は受理された。
更生特例法は、一般企業の民事再生法にあたる法律である。
経営破綻した大和生命保険の負債は約2700億円という。
大和生命保険の中園社長はテレビ放映されている記者会見で、
「世界的な金融市場の低迷による有価証券の下落が予想以上に速く、大幅な資産の劣化を食い止める事が出来なかった。それが債務超過につながってしまった。」
という類の内容の説明をしていた。
サブプライムローン問題の根は深く、アメリカの投資銀行のリーマン・ブラザーズの倒産による金融収縮という2008年経済恐慌の波をもろに被ったことによる経営破綻であることを社長は述べているのである。
サブプライムローンの問題はアメリカの問題で、日本にはその影響は軽微であると、専門家と称する人で発言していた人は一体誰であったろうか。
その様な発言をしていた人は、さっさと退場して頂きたい。
大和生命保険に生命保険の掛け金をしている人は、突然の大和生命保険の経営破綻に衝撃を受け、保険金は支払われるであろうかと保険会社に駆けつけている。
大和生命保険会社は事情を説明しているが、保険会社が倒産してしまえば、掛け金の全額は戻らないであろう。
生命保険会社が倒産した場合、保険金、保険掛け金の払い戻しの問題が最大のものであることは当然であるが、私は職業柄、そのことはもちろん考えるが、そのことの外に別の事を考えてしまう。
生命保険会社は保険掛け金として集めたお金を運用する方法の1つとして、貸ビルを建て、その賃料収入を得ることによって掛け金の運用を計り、かつ自社の財産の増加を計っている。
大和生命保険の財務諸表によれば、総資産のうち平成19年3月期は有価証券が76%、平成20年3月期は63%を占める。不動産の資産は僅かに4.7%である。
いささか他の生命保険会社とは異なる預り金の運用をしていた様である。
有価証券が資産のうち76%も占めれば、今回のサブプライムローン問題を発生とするダウ777ドル下落の経済恐慌では、相当の痛手を被ることになる。
それで経営破綻と云うことになったが。
不動産資産は少ないとはいえ、132.91億円(平成20年3月期)の資産がある。
その不動産賃貸料収入は13.21億円ある。
粗利回りは、
13.21億円÷132.91億円≒0.10
10%である。かなり良い利回りでは無かろうか。
預り保証金として、7.71億円が計上されている。
恐らくこの預り保証金は、賃貸ビルの入居者から預かっている保証金では無かろうかと思われる。
最高裁の判決で、賃貸ビルの貸主が倒産した場合、賃借人であるテナントが貸主である大家に預けている保証金は、金銭消費貸借契約であるから返済する必要がなくなる。
この判決は、建物賃借人の立場を全く無視した悪判決も甚だしいと私は思っているが、最高裁の出した判決ではいかんともしがたい。
大和生命保険会社が預かっている保証金7.71億円が、返済されなくなるのである。
大和生命保険会社所有のビルに入居している各企業の経営者が、これを知ったら、さてどういう行動をとるであろうか。
大和生命保険の本社は帝国ホテルの南隣にある。大和生命ビルである。
明治時代、明治政府が西洋文化の導入を図ろうとして造られた社交場「鹿鳴館」の跡に建っている。
鉄骨鉄筋コンクリート造26階建てで、カーテンウオールの立派な事務所ビルである。
この大和生命ビルの地階にニッカウヰスキーが経営する会員制のパブ・居酒屋がある。そのパブは船室・キャビンで酒を飲む雰囲気を持たせた造りであり、そのパブを私は時々利用しているので、このビルについては親しみがある。
幸いにもこの大和生命ビルの建物は、当初は大和生命保険の関係会社及び大和生命保険が所有していたが、平成17年に653億円という巨額な金額で売買され、三井不動産系の日本ビルファンド投資法人の所有(厳密に云えば信託受益権である。)になった。
この為、大和生命保険の今回の倒産によっても、このビルの入居者は保証金が返済されないという問題には遭遇しない。
幸運である。
今回の大和生命保険の倒産ということによって、ひょっとするとビルの名前は変わるかもしれない。例えば「鹿鳴館ビル」という名前のごとく。
鑑定コラム614)「やはりビルの名前が変わった」
鑑定コラム1658)「帝国ホテル室料と都心5区賃料、公示千代田5-23(帝国ホテルの南隣)」
鑑定コラム1902)「著書の中の保証金についての著述」