平成17年12月に発行した著書『賃料(地代・家賃)評価の実際』は、2009年6月に3刷の増刷になった。
発行当初に書いた「はしがき」が、3刷りにもそのまま残されている。
A5版、ハードカバーで376頁の『賃料(地代・家賃)評価の実際』全体に流れる著者の考え方が、そこに記されていることから、「はしがき」を下記に転載する。
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はじめに
2001年11月、清文社という出版社から『賃料<家賃>評価の実際』という賃料に関する本を出した。その著書は絶版になり、多くの人々から賃料に関する著書の要望が届いた。
今回プログレス社から、前著『賃料<家賃>評価の実際』のうち土地建物の評価部分を切り離し、家賃評価部分を独立させ、一部その部分に手を加える一方、新しく地代の評価を付け加えて、賃料全体をカバーする家賃・地代の本として出版することにした。
また、随所に私のホームページ(http://tahara-kantei.com/)の『鑑定コラム』で公表されているコラムの記事を入れて、やや辛口の賃料評価の問題点・現実等を指摘する一方、より一層の賃料評価の理解を深めるようにした。
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今迄30年近く、裁判関係の鑑定評価を行って来た。その間300件余の地代・家賃・権利価格の鑑定書を書いてきた。
鑑定評価額を判決が採用した場合、判決の持つ法的強制力によって、鑑定評価額が争訟当事者の財産権に大きく影響を与えることを充分認識し、判決文を書く裁判官のための一級資料となるべく心懸けて鑑定書を書いてきた。
鑑定書の評価額の多くが、そのまま判決に採用され、或いは和解に使用されている。判決に採用されたと後でわかった時が、評価の苦労を忘れ、鑑定評価の仕事の喜びを最も感じる時である。
しかし、時として判決文に「田原鑑定は信用出来ない」と断定され、一言の元に切り捨てられて悔しい思いをしたこともある。
他方、代理人弁護士から鑑定書の内容についての尋問として、法廷宣誓後の証人喚問も多く受けてきた。鑑定書の細部にわたる不備な個所、考え方の疑問点を代理人弁護士に鋭く指摘され、説明を求められるが、自分の説明で質問側がなかなか納得せず問答が続くうちに、、血圧が次第にあがってくる。
加えて耳障りな「不当鑑定だ。鑑定基準違反だ」という言葉が耳に入ると、「何を勝手なことをいうのか」と頭の中で反発し、そのうちに頭がカッカしてくる。
挙げ句は、質問する代理人弁護士と論争的口喧嘩になってしまい、「ここは鑑定理論のいい争いの場ではない」と裁判官よりたしなめられることもあった。
一番長い鑑定証人尋問は2日間に及び、6時間の証人尋問であった。証人尋問は心身共に疲れるものであるが、6時間の尋問はさすがに疲れてしまった。
鑑定証人喚問はあまり受けたくないが、代理人弁護士の尋問によって、鑑定評価について教えられる点も多かった。
鑑定評価は不動産鑑定の専門家の意見であり、判断であると云われるけれども、その意見・判断は客観的なデータに基づいて分析され、合理的に説明されなければ一顧だにされないということを、証人尋問によってつくづく実感した。
「鑑定書の中に使われている数値・割合が何を根拠にして求められているのか分からない。鉛筆をなめなめ鑑定書を書いているのではないのか。」という批判もよく耳にした。
鑑定評価は実証科学である。
評価額に到る過程に使用される数値・割合は、出来るだけ実証されるものでなければならない。実証されない数値・割合を使って理論構築すべきではない。
こうした考え方より、本書は評価の実証性を重視して論を進めている。
記述は継続賃料を求めるための評価作業順となっている。
理論を実証するために多くのデータを使用している。
データを省略することは論文記述上出来ない。
このため読む時に煩わしく感じられるかもしれない。その時には読み飛ばして行かれたい。
平成17年11月 田原 拓治