○鑑定コラム
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ここ最近、続けて、地価公示価格の還元利回りの基本利率を根拠にする家賃の期待利回りの鑑定書2件に出会うことになった。
家賃の期待利回りに5%、6%の利回りが採用されていたが、2つの賃料鑑定書は揃って、その採用根拠の理由が全く書かれていなく、いきなり利回りの数値のみが記載されていた。
私は、
「期待利回りが、どの様にして求められたのか、その根拠を示して欲しい」と、賃料鑑定書を作成し裁判所の任命した鑑定人不動産鑑定士に、代理人弁護士を通じて質問した。
一人の鑑定人不動産鑑定士は、地価公示価格で使用している基本利率の還元利回りを採用したと、一応採用根拠をあきらかにした。
私は、
「地価公示価格の還元利回りの基本利率は、減価償却前の利回りであり、家賃の評価で使用する利回りは、減価償却後の利回りであることから、鑑定人採用の期待利回りは、減価償却費の二重計上となることから、間違っている。」
と、誤りの再指摘を行った。
すると、しばらくして、鑑定人不動産鑑定士は、文書で驚くべきことを言って来た。
「地価公示価格の基本利率5.0%は、減価償却後の利回りであり、私の採用利回りは間違っていない。
地価公示価格の基本利率5.0%が減価償却後の利回りであるということは、国土交通省の地価公示室で確認した結果である。」
という類の内容を。
地価公示価格の収益還元法の総費用は、「平成21年地価公示における収益還元法適用上の運用指針等」のP4で、
@ 修繕費
A 維持管理費
B 公租公課
C 損害保険料
D 貸倒準備費
E 空室等による損失相当額
で構成されていると明記する。
総費用には、減価償却費は含まれていない。
純収益は、
総収入−総費用 = 純収益
の公式で求められる。
総費用に減価償却費が含まれていないことから、減価償却費は純収益の中に含まれていることになる。
この純収益は、通常「償却前純収益」と呼ばれる。
不動産の価格は、
純収益÷還元利回り = 不動産の価格
で求められる。
上記純収益が、償却前純収益の場合には、還元利回りは減価償却前の還元利回りで無ければ、論理の一貫性が無くなる。
鑑定人不動産鑑定士は、この還元利回りは、減価償却後利回りであると主張する。
であるとすると、減価償却前の純収益を、減価償却後の利回りで還元して不動産の価格を求めることになり、この求め方は論理矛盾を生ずることになる。
しかし、鑑定人不動産鑑定士は、国交省の地価公示室で確認したと言い張り、地価公示価格の基本利率は減価償却後の利回りであると、監督官庁の名前を出して、自分の鑑定の正当性を主張する。
だが、社団法人日本不動産鑑定協会の「平成21年地価公示における収益還元法適用上の運用指針等」(以下「運用指針」と呼ぶ)のP12の上より14行目で基本利率について、次のごとく述べる。
「基本利率を求めるには、事例から求められた償却前純収益利回り(総合還元利回り)を基に、将来予測を踏まえた賃料変動率を加えて求めている。」
社団法人日本不動産鑑定協会の運用指針では、基本利率は「償却前純収益利回り」と述べている。
「償却前純収益利回り」と「償却前利回り」とは同じことである。
社団法人日本不動産鑑定協会と国土交通省地価公示室とは、地価公示価格評価において密接な連絡を取り合っており、両者の考え方が食い違うことはあり得ない。
基本利率は、減価償却前の利回りということである。
「地価公示室」の名前が、裁判所側が任命した鑑定人不動産鑑定士の提出書類に記載され、そして地価公示室が、地価公示価格の基本利率は、減価償却後の利回りであることを認めたとその提出書類には記載されている。
何だか監督官庁を笠にして、役所が認めたから文句あるかと言うがごとくである。
代理人弁護士も、
「不動産鑑定士の監督官庁の名前が証拠として出てきた以上は、これは見捨てておけないな。」
と追求する構えを示す。
私も、国土交通省地価調査課地価公示室に、社団法人日本不動産鑑定協会発行の「運用指針」の記述もあることから、裁判の成り行きを見て、文書でいつか確認してみようと思う。
まさか回答が来ないと言うことは無いであろう。
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