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609)資産バブルの4指標

 国際通貨基金(IMF)が、資産バブルを判定する場合には4つの先行指標が有効と分析した調査報告書を、2009年9月22日に発表したと云うニュースを、日本経済新聞の大隅隆特派員がニューヨーク発として、2009年9月23日の日本経済新聞の電子版で伝える。

 IMFが発表した資産バブルの4つの先行指標とは、下記のものである。

 1.金融機関による融資(信用)の膨張
 2.国内総生産にしめる投資の比率
 3.経常収支
 4.土地や株式の資産価格の変化

 そして、「一般物価や生産活動など、中央銀行が重視する指標は、資産バブルの先行指標にはならない」としていると報じる。

 しかし、先行指標がどの様に資産バブルの判定の指標になるのかという具体的な内容については、報じていない。

 このことから、推定で判断せざるを得ないが、1番目の「金融機関による融資の膨張」は、日本の不動産バブルを分析すると、そのことは言える。

 私も平成2〜4年の平成バブル、平成18〜19年の不動産ファンドバブルについて、銀行の不動産業への新規貸出額の増大から、資産バブルを把握するには有効な指標と指摘している。

 不動産業への新規貸出額が10兆円を超えると、土地価格は暴落すると鑑定コラム462)「経済自律則か、<10兆円>という金額」で述べた。

 2の「国内総生産にしめる投資比率」については、投資の範囲がどこまでか分からない。
 民間企業の設備投資の額をいうのか、株式、債権等を含めたものなのか。原油、鉱物資源を含めたものなのか。
 それらがGDPにしめる投資の額の割合が、どれ程になると資産バブルというのか。

 民間企業の設備投資については、GDPの20%を超えると過剰設備投資と云われる。

 2008年の民間企業の設備投資額は27.5兆円であり、2008年の名目GDPはおよそ495兆円である。

 2008年の民間企業の設備投資のGDPに占める割合は、

        27.5兆円÷495兆円≒0.055

5.5%であり、バブルと呼ばれる水準とは現在ほど遠い。

 設備投資、株式、債権等、原油、鉱物資源の投資額のどれほどが、GDPの割合に占めると過剰となるのか私にはさっぱり分からない。

 3つ目の「経常収支」については、経常収支のどれ程の額になると、それが資産バブルになるのか。

 経常収支は、資本収支と共に国際収支を構成する項目である。

 資本収支は試算バブルの先行指標にならず、経常収支のみが試算バブルの先行指標に何故なるのか。

 経常収支については、不動産価格に影響を与える価格形成要因であるから、桐蔭横浜大学の不動産鑑定の講義で、学生に概略話している。

    国際収支 = 経常収支+資本収支

であり、その経常収支は、次の4つで構成されている。

   
  @ 貿易収支
  A 所得収支
  B 経常移転収支
  C サービス収支

 大学の講義では、それぞれの収支内容について説明しているが、ここでは省略する。知りたい人は、国際経済学等の教科書・参考書で調べられたい。

 平成20年の日本の経常収支は、財務省の発表によれば、下記の通りである。単位億円。

  @ 貿易収支                40,278
  A 所得収支               158,415
  B 経常移転収支          ▲13,515
  C サービス収支          ▲21,379
     経常収支        163,798

 平成20年の経常収支は、16.3兆円の黒字である。
 こうした経常収支が、15年続いたらどういうことになるであろうか。

 日本は儲けすぎと世界各国から批判をうけるのは、経常収支に巨額な黒字が続くからである。

 昭和60年からの経常収支を下記に記す。単位億円。

   昭和60年    119,698
   昭和61年    142,437
   昭和62年    121,862
   昭和63年    101,461
      平成元年         87,113
      平成02年         64,736
      平成03年         91,757
      平成04年        142,349
      平成05年        146,690
      平成06年        133,425
      平成07年        103,862
      平成08年         71,532
      平成09年        117,339
      平成10年        155,278
      平成11年        130,522
      平成12年        128,755
      平成13年        106,523
      平成14年        141,397
      平成15年        157,668
      平成16年        186,184
      平成17年        182,591
      平成18年        198,488
      平成19年        247,938
      平成20年        163,798

 日本の平成バブルと不動産ファンドバブルの時期と、日本の経常収支金額の推移を見てみると、経常収支の増額している時期と資産バブルの時期が、ほぼ一致している。

 平成バブルのピークは平成2年〜4年であるが、それはピークの時期であり、金余り現象は、昭和60年頃より生じていた。

 市場に有り余った金が、不動産・株式に流れた。

 経常収支は、昭和60年11.9兆円、61年14.2兆円、62年12.1兆円、63年10.1兆円の黒字である。この4年間の合計黒字金額は、48.3兆円である。

 昭和60年〜63年の経常収支黒字の有り余った金によって、平成2年〜4年の平成バブルが引き起こされたと言えよう。

 昭和60年のGDPは325兆円である。昭和60年〜63年の4年間の経常収支の合計額は48.3兆円である。

 昭和60年のGDPに対する昭和60年〜63年の4年間の経常収支の合計額の割合は、

       48.3兆円÷325兆円 = 0.149

である。

 一方、不動産ファンドバブルは、平成19年7月ではじけるが、東京の商業地の地価は、平成16年〜19年前半にかけて急上昇する。

 その時期の経常収支は、やはり増加している。

 平成16年18.6兆円、17年18.2兆円、18年19.8兆円、19年24.7兆円の黒字である。この4年間の合計黒字金額は、81.3兆円である。

 平成16年のGDPは498兆円である。平成16年〜19年の4年間の経常収支の合計額は81.3兆円である。

 平成16年のGDPに対する平成16年〜19年の4年間の経常収支の合計額の割合は、

       81.3兆円÷498兆円 = 0.163

である。

 まとめると、バブルが始まる年のGDPの額に対するその後のバブル4年間の経常収支の合計額の割合は、

    平成バブル         14.9%
        不動産ファンドバブル        16.3%

である。

 経常収支と資産バブルは関係がありそうである。

 大まかに云うと、経常収支がGDPの3.5%付近になったら要注意、それが4年続いたら、バブルということか。

 詳細に云えば、経常収支が増加し始めた年のGDPを基本にして、そのGDPに対して、増え始めた経常収支のその後の4年間の合計が、15%近くになった場合は、バブルと云えそうである。但しこれは仮説、田原説です。
 
 4つ目の「土地や株式などの資産価値の変化」については、当然の指標となるものであり、説明の必要は無かろう。

 中央銀行が、資産バブルの先行指標として重視している「一般物価や生産活動」は、資産バブルの先行指標にはならないと、IMFは否定する。
 即ち、中央銀行の政策の判断の間違いを指摘する。

 日本の中央銀行と云えば、それは日本銀行である。
 日本銀行が、資産バブルの先行指標として、「一般物価や生産活動」を採用していたとすれば、日本銀行にとってプライドを傷つけられるIMFの発言である。


 鑑定コラム462)「経済自律則か、<10兆円>という金額」

 鑑定コラム1235)「不動産新規融資10兆円を前に足踏み状態」

 鑑定コラム1141)「リートバブルだ」

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