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633)実務修習の継続賃料の求め方は間違っている

 またまた継続賃料の鑑定書が私の所に持ち込まれた。

 「鑑定書の内容はよく分からない。何だか高すぎる。とても借りている側としては受けいれられる金額ではない。何処がおかしいか素人ではさっぱり分からない。見て欲しい。」

と云って、貸主側が不動産鑑定士に頼んだ賃料の鑑定書を持って来た。

 こちらも、暇ではない。
 断りたい。
 しかし、自分の専門分野のことが原因して、困っている人を見れば、銭金に関係無く、損得抜きで助けて挙げたくなる。自分のいい性格か、悪い性格か。人が良いのか。
 これではお金が貯まるはずが無く、金儲け出来ないと分かっているが。

 一見すると立派な大変良くできた不動産鑑定書と思われる。
 公官庁の発表している多くの調査数字やデータを使い、色刷りのグラフにし見栄えは甚だ良く、どこに間違いがあるのか、間違いなぞ無いのでは無かろうかと思え、まず一般の人には間違いなど分からない。

 しかし、鑑定書を書いた人の論理でなく、違った真っ当な論理の尺度を持って読んで行くと、間違いが浮かび上がって、見えてくる。中には、これはひどい鑑定書だと云うことも分かってくる。

 しかし他人の不動産鑑定書を読むのは疲れる。とにかくわかりにくい。
 書いた本人は、自分は理解して書いているのであろうが、第三者の読む人にとっては、さっぱり論理の展開が分からないものが多い。

 最近はエクセルで計算しているものが甚だ多く、採用数値の説明が全くされていなく、数表によるものが甚だ多くなっている。

 この数値は一体どこから導き出されているのか、その根拠説明がされていなく、数値のみ記されているから、なおさら理解を困難にさせている。

 その為一つの数値が、どこから算出されてきたのかとあちらの頁、こちらの頁を何回もめくって、理解しなければならない。
 エクセルの計算のしっぱなしの記載だけでなく、どこからその数値が求められているのか根拠と算式を示してくれないものなのか。

 最近続いて見た3件の賃料の鑑定書は、殆ど同じ間違いの賃料(家賃)の鑑定書であった。

 「おかしい。
 3件もほぼ同じ間違いを犯しているとは。
 誰かの書物に求め方が書いてあり、それを手本にして、賃料の鑑定書を書いているのであろうか。」
と思ってしまった。

 知り合いの不動産鑑定士に、
 「似たような間違いの賃料鑑定書を3件最近見たが、どうしてだろうか。」
と話してみた。

 知り合いの不動産鑑定士は、
 「 田原さん。ひょつとすると不動産鑑定士の実務研修或いは実務修習のテキストに、その様な求め方が載っているのではないでしょうか。一度調べてみたら?」
とアドバイスをしてくれた。

 まさか不動産鑑定士試験の二次試験、三次試験を合格した後の実務修習のテキストに、その様な間違った求め方が書いては無いであろうと思ったが。

 しかし知り合いがアドバイスしてくれたこともあり、現在(2010年)に行われている実務修習テキストを見てみることにした。

 社団法人日本不動産鑑定協会が発行し、実務修習のテキストに使っているA4版362頁という部厚い書物を、日本不動産鑑定協会から購入した。1万円の頒価である。

 宅配便で届いた『第4回実務修習・指導要領テキスト』(2009年11月1日発行)を見て驚いた。

 賃料鑑定の評価例が載っている。
 私が最近見た3件の間違った鑑定書の求め方が、そっくり記載されている。

   「こりゃダメだ。
 間違いの家賃鑑定書乱造の原因は、実務修習・指導要領テキストか。」
とつぶやかざるを得なかった。

 他の不動産鑑定士に聞けば、去年も同じ内容であり、ここ数年は変わってないのでは無いかという。

 何が間違っているのかと云うと、下記の点である。

@ 必要諸経費の中の減価償却費を求める求め方である。
 築後10年経っている建物の場合、その減価償却費は築後10年経っている状態の建物価格を基礎にして、その建物価格を残存耐用年数で除して求めるものである。

 それを実務修習・指導要領テキストは、築後10年の建物価格を使用せず、再調達原価の価格を採用し、それを全耐用年数40年で除して求めているのである。この考えに従うと築後39年経った建物でも、減価償却費は再調達原価の1/40ということに成り、著しく高い減価償却費が求められる。
 その結果必要諸経費が甚だ高い金額になることから、賃料は現実を無視した高い賃料が求められることになる。

A 年額実質賃料をX円として、修繕費を0.05X円、管理費を0.03X円として求める方法を実務修習・指導要領テキストは行っている。

 年額実質賃料が分からなければ、修繕費、管理費が求められないという考え方である。
 この様な修繕費、管理費の求め方が、賃貸ビルの賃貸借契約の実務上あり得るのか。

 当該ビルの修繕費、管理費は、現実に存在し管理されているのであるから、修繕費、管理費はどれ程であるのか賃貸人に聞けば分かるであろう。

 また共益費が授受されていれば、その金額より、おおよその金額は推定出来るのでは無かろうか。
 ビル管理に関する書物もあり、そこに実例として必要金額が出ていることから、建物面積或いは賃貸面積で除せば、修繕費、管理費は推定出来るであろう。

 実質賃料が分からなければ、修繕費、管理費が求められないというような賃料鑑定書を、不動産鑑定士は書くべきものではない。

 一級建築士の上野俊秀氏が、『建築プロジェクトの企画設計・事業収支計画と投資採算評価の実務』(プログレス 2007年)という本を出している。

 そのP220〜245で、維持管理費、水道光熱費、修繕・更新費について詳しく具体的な数値を述べている。

 例えば、9階建(地下2階付)延べ床面積3,444u、賃貸面積1,984uの事務所ビルの維持管理費を、データをまとめて次の金額と計算している。(P223)

          @ 設備管理費    7,852,000円
      A 保守管理費     5,699,000円
       B 警備業務費    1,200,000円
      C 清掃業務費        6,263,000円
         計      21,014,000円

 これを賃貸面積で除すと、
       21,014,000円÷1,984u=10,592円
である。

 月額では、
       10,592円÷12ヶ月≒883円
u当り883円(坪当り2,920円)である。

 水道光熱費を維持管理費に含めるとすれば、水道光熱費も同じ様に計算して、維持管理費に加算すれば良い。
 維持管理費を、実質賃料の0.03Xと求める必要性はないであろう。

 実務修習・指導要領テキストのXを使っての管理費の求め方は間違っているが、用語の使用も「実質賃料」を使うべきでは無かろう。

 ここで求めようとしているのは積算法の積算賃料である。「積算賃料」の用語を使うべきであろう。

 積算賃料は実質賃料ではあるが、積算法の積算賃料を求めているのであるから、比準賃料の実質賃料と対比明確にするために、「積算賃料」と表記すべきであろう。

B 空室損失相当額を、実質賃料をX円として、その1/24が空室損失相当額であると、実務修習・指導要領テキストは指導する。

 空室損失相当額は経費ではないであろう。
 何回云ったらわかるのか。
 全く空室損失について理解しようとしない頑迷な人々の存在にはイヤになる。

 不動産鑑定協会幹部の一部、不動産鑑定士の中でも一部と思われるが、自らが主流派と称して、自分達と異なる意見をいう人々の考えは間違いと云って排斥する態度にはあきれてしまう。
 その主流派と称する人の考えが正しいならば良いが、間違っているのにも係わらず、それが分からないから始末が悪い。
    
 鑑定評価基準では、空室損失相当額を必要経費に入れていることをもって、空室損失相当額は賃料の必要諸経費に含まれると主張するであろうが、空室損失相当額は経費ではなく、経費項目に入れるものではない。
 私だけではなく、心ある不動産鑑定士の多くも空室損失相当額の経費計上を否定する。

 空室損失相当額は経費でないという主張を国交省は長く認め無かったが、平成19年7月に鑑定評価基準に各論3章が追加され、そこでは空室損失相当額は経費項目から収入項目に移された。

 つまり、不動産鑑定評価の監督官庁である国交省は、空室損失相当額は経費項目でないと認めたのである。

 しかし、鑑定評価基準の総論7章では、空室損失相当額は必要諸経費の項目として残ったままになっており、鑑定評価基準自身が内部で自己矛盾を起こしている。

 現実的考えに方針転換した国交省は、国交省が発表する平成22年1月1日時点の地価公示価格の評価では、空室損失相当額を経費項目よりはずした。
 これより見れば、鑑定評価の手法は遅まきながらも正しい方向に修正されている。

 まもなく発表される平成22年の地価公示価格の評価では、空室損失相当は経費項目に入っていないのである。それにも係わらず、現在行われている実務修習・指導要領テキストでは、空室損失相当は依然として必要諸経費であるとして実務を指導している。

 一体このおかしな指導はどういうことか。
 国交省が空室損失相当を経費項目ではないとした事実を持ってしても、なおかつ主流派と称する人々は、間違いを間違いと認めず自分達の考えが正しいと主張するのか。救いがたい頑迷さである。
 間違っていることを正しい求め方であると教えられ、指導される修習生は気の毒だ。

 上記@ABで求められた必要諸経費で賃料を求めては、とても求められた賃料が適正賃料であると認めることは出来ない。

 実務修習でこの様に教えられた。そのテキストにもそう書いてあるから正しい求め方だと裁判で主張したとしても、反対側代理人弁護士から激しい批判を浴び、不動産鑑定評価の能力に疑問を呈されるであろう。

 間違った継続賃料の求め方を実務修習で教えることを、社団法人日本不動産鑑定協会は即刻やめてくれ。

 間違ったことをあたかも正しいと社団法人の力で押し通す行為は止めて欲しい。
 甚だ迷惑する。
 その様な不動産鑑定書が、反省も全く無く、不当鑑定の処罰の対象にもされず、大手を振って我が物顔で罷り通る不動産鑑定業界になってもらっては困るのである。


  鑑定コラム617)「減価償却費は再調達原価でおこなうのか」

  鑑定コラム621)「管理費は支払賃料が分からなければ決められないのか」

  鑑定コラム589)「平成22年地価公示から空室損失・共益費は収入項目に」

  鑑定コラム579)「空室損失は経費ではない」

  鑑定コラム639)「借地権付建物の基礎価格」

  鑑定コラム645)「鑑定協会は実務修習テキストの継続賃料の減価償却費の求め方を即刻訂正せよ!」

  鑑定コラム646)「自らの間違いを正当であると主張する不動産鑑定士がいるいる」


  鑑定コラム1710)「こりゃ あかん 実務修習の継続賃料の章を考え直した方が良い」

  鑑定コラム1841)「維持管理費等は実質賃料が分からなければ分からないものなのか」

  鑑定コラム2245「建物等取壊費用の積立金」は償還基金率で求めるべきではないのか」


 上野俊秀氏著の『建築プロジェクトの企画設計・事業収支計画と投資採算評価の実務』(プログレス 2007年)は、下記のアドレスで概要が見られます。
  http://www.progres-net.co.jp/books.html#kentikup

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