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622)最高裁判所裁判官の職ご苦労様でした

 日本経済新聞の政治面の一番下の片隅に、「首相官邸」というタイトルで、ベタ記事がある。

 それは、首相の当日の一日の主な行動を記したものである。

 読売新聞では、「鳩山首相の一日」というタイトルで、同じ様なベタ記事が載せてある。

 2009年1月8日の読売新聞の「鳩山首相の一日」に、前日7日の首相の行動が記してある。

    9時45分  官邸
  10時45分  市村浩一郎民主党衆議院議員
  11時06分  横田尤孝、甲斐中辰夫新旧最高裁判事ら
   13時01分    菅副総裁に財務相、仙谷行政刷新相に国家戦略相、川端文部科学相
               に科学技術相の補職辞令交付・・・・・・

 旧制第四高等学校生と、その後を継いだ金沢大学生との交流を深める会として、「北の都会(きたのみやこかい)」というのがある。

 毎月4日午後12時より、銀座7丁目の「ライオン銀座7丁目店」の一室を借りて、「卓話」という懇親会が開かれている。その回数は681回と聞く。

 私も随分以前より出席を誘われていたが、出席を断っていた。しかしどうしても断り切れず、2009年1月会に初めて出席した。
 今年の1月会は、1月4日ではなく、7日に開かれた。

 サッポロビール飲み放題で、卒業生の講話を聞き、親睦を深めるのが目的の様である。

 歳も行った旧制四高の先輩達は、この日を楽しみにして毎回出席している人もいると聞く。

 今回の卓話の講師は、四高昭和24年文甲卒で、東大法学部から通産省(現・経済産業省)の局長、防衛庁の局長を経て、経済産業調査会理事長を勤められた方であった。
 人生の経歴を聞けば、圧倒されて、とても近寄れる人ではない。

 会が始まって早々に挨拶があった。
 挨拶した人は中川了滋氏であった。

 中川氏は昨年の暮れ最高裁判所裁判官を定年で退職された。スピーチでそのことに触れ、

 「本日、午前中宮内庁長官と鳩山首相に辞任の挨拶をしてきました。
 これで全ての公的職務を済ませました。これからは・・・・・」

 翌日8日の読売新聞を見ると、7日の「鳩山首相の一日」の記事の中で、

   「11時06分  横田尤孝、甲斐中辰夫新旧最高裁判事ら」

と新旧最高裁判事の首相官邸の訪問が記されている。中川氏もこの時一緒に行かれたことになる。

 首相への挨拶を終えて、すぐ銀座7丁目の「ライオン銀座7丁目店」で12時より開かれる「北の都会」に駆けつけられたものと思われる。

 久しぶりに中川氏と会った。
 今後は、再び気楽に酒の盃を傾けて、話することが出来そうだ。

 中川氏も判決に加わった最高裁大法廷の判決として、平成21年(2009年) 9月30日判決の2007年参議院議員選挙無効訴訟裁判(平成20(行ツ)209 選挙無効請求事件)がある。

 2007年の参議院議員選挙の1票が4.86倍の開きがあるから、その選挙は無効であるという請求訴訟である。

 最高裁の大法廷は、請求を棄却した。
 即ち、2007年の参議院議員選挙は憲法違反ではなく、選挙は有効であるという判決を下した。

 しかし、最高裁の15人の裁判官のうち5人の裁判官が、4.86倍の格差は「違憲」とする補足意見を述べた。

 中川裁判官もその内の一人であった。

 2009年10月1日の日本経済新聞の社説は、この最高裁の判決に対して、次のごとく述べる。

 「・・・・・現行の定数配分を違憲として中川了滋裁判官が指摘するように「憲法は二院制と3年ごとの半数改選を定めているにすぎない」、格差を縮めるのを難しくする、都道府県単位の選挙区割りと、選挙区ごとの偶数の定数を配分する方法は、どちらも憲法を根拠にしていない。だから憲法が要請する1票の価値の平等を図る妨げになるなら、正さなければならない枠組みなのである。・・・・・・」

と中川了滋裁判官の意見を取り入れて社説で主張する。

 私自身は、2倍内の格差が許容されるべき格差であって、4.86倍の格差は、明白な憲法違反であると思う。

 もしこの裁判で中川了滋氏が、「違憲ではない」という方にまわったら、最高裁判所裁判官を辞められて、一介の弁護士に戻られた時には、会った時文句を言ってやろうと思ったが、それを云う必要性はなくなった。

 本件判決で違憲とした裁判官は、下記の裁判官である。括弧書きは出身職域である。

     中川了滋 (弁護士)
          那須弘平 (弁護士)
     田原睦夫  (弁護士)
          近藤宗晴  (裁判官)
          宮川光治  (弁護士)

 以下に、最高裁判所大法廷の2007年参議院議員選挙の判決で、違憲と判断した中川了滋裁判官の補足意見を、判決文より転載する。補足意見を述べた他の裁判官の補足意見は省略する。
 最高裁判決の補足意見とはどういうものかと知ることも無駄ではないであろう。
 また法律家・最高裁判所の裁判官までになった人が主張する意見の論理構成はどういうものかを知ることが出来ると思う。

              *

 裁判官中川了滋の反対意見は,次のとおりである。

 私は,本件定数配分規定は憲法に違反するものであり,本件選挙は違法であると考える。その理由は次のとおりである。

1 多数意見は次のとおり述べる。@憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。Aしかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において,調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。

 私は,以上の点については賛成するものである。したがって,国会の定めた本件定数配分規定が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得るものであるかどうかが問われなければならない。

2 多数意見は,参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること,憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らし,相応の合理性を有するものであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえないとする。そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,基本的に国会の裁量にゆだねられているものであるとした上,本件選挙当時において選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.86であったとしても,国会において定数較差の問題について今後も検討が行われることとされていること,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには相応の時間を要するから本件選挙までにそのような見直しを行うことは困難であったこと等の事情を考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできないとして,本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできないとする。

 確かに,現行法制下での参議院議員の選挙制度は,創設された当初から,都道府県を選挙区とし,半数改選制への配慮から,各選挙区につき,ホ小限を2人とする偶数の議員定数を配分する制度を採用してきているところ,このような都道府県単位の選挙区設定及び定数偶数配分制には上記のような一定の合理性を認めることができる。しかし,憲法は二院制と3年ごとの半数改選を定めているにすぎず,都道府県単位の選挙区設定及び定数偶数配分制は憲法上に直接の根拠を有するものではない。そして,参議院議員の定数配分については,その後当初の人口分布が大きく変わり,それに伴う人口比例による配分の改定が適宜行われなかったこともあって,最大較差1対6.59まで拡大したこともあり,そのような較差は,当審判決により,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態と判断された。ところが,その後2回にわたる定数改正があったにもかかわらず,本件選挙当時にはなお1対4.86の最大較差があったものである。上記1@のとおり,投票価値の平等を憲法の要求であるとする以上,そのような較差が生ずる選挙区設定や定数配分は,投票価値の平等の重要性に照らして許されず,これを国会の裁量権の行使として合理性を有するものということはできないと解するべきである。このような較差が生じている不平等状態は違憲とされるべきものと考える。

3 以上によれば,本件定数配分規定は違憲であるが,国会による真摯かつ速やかな是正を期待し,事情判決の法理に従い本件選挙を違法と宣言するにとどめ,無効とはしないものとするのが相当である。

               *


 鑑定コラム195) 「まさかの身近な最高裁判事」

 鑑定コラム699)「「最高裁判所判事を終えて」中川了滋氏の講演 」

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