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699) 「最高裁判所判事を終えて」中川了滋氏の講演

 2010年9月の初め、銀座7丁目の「ライオン銀座7丁目店」の6階ホールで「北の都会」が開かれた。

 旧制四・金沢大学卒業生の集いの会である。
 毎月一回同窓生の講師を招き、ビールを飲みながら話を聞く会である。
 勿論最初と最後は旧制四の寮歌、応援歌が歌われる。

 2010年9月の会は、昨年(2009年)12月末で最高裁判所の裁判官を辞められた中川了滋氏の講話であった。

 午前12時少し前に会場に着いたが、いつもは空席があるのに、今回は空席は殆ど無かった。

 空いているテーブルは、演壇の真ん前のテーブルで、そこは当日の講師と四の先輩達が着席する上等席のテーブルである。

 止むを得ず空席を求めて、前の上等席に近づくと手招きする人がいた。
 その人の隣に座ることになった。
 本日の講師である中川了滋氏である。

 スピーチの始まる前に連絡事項等が有り、その間にビールが出て来るので、久しぶりに会う先輩にビールを注ぎ、先輩からビールを注がれ、しばしの間談笑の時間を過ごした。

 いつもは40名程度の参加であるが、前最高裁裁判官であった中川了滋氏の話とあって、ホールは満杯であった。

 本日の講師の紹介は、同期の友人が行うことになっており、中川氏の紹介は、西田鉄平氏が行った。

 西田鉄平氏は、国交省で「国土利用計画法」という法律を作った人である。
 この法律は、不動産業界、不動産鑑定業界には大変関係ある法律である。
 土地価格の平成バブル退治に重要な役目をした法律である。
 また、現在各県が10月頃発表している土地の「基準地価格」というものがあるが、その根拠となっている法律である。
 西田鉄平氏はその後、我が業界の団体である社団法人日本不動産鑑定協会の専務理事を務められた。

 専務理事を辞められた後、
 「お前達の業界団体はなんとだらしない団体なのだ。もっとしっかりしないか。」
とお叱りの言葉を食らった。
 私は、協会の役員をしていたわけではないので、返事のしょうも無かったが。

 私が桐蔭横浜大学の客員教授になった時は、大変喜んで下さった。お祝いとして都内の高級料亭で一席設けて下さった。
 いつかこの御礼はしなくてはならないと思っている。

 西田鉄平氏の紹介のあと、中川了滋氏の講話が始まった。

 中川氏は、最高裁判所での判決の苦労話、調査官とのことを話されたが、それらの内容は内輪のことであり、本コラムで書くことは憚れることから止める。

 中川氏は、約5年間最高裁裁判官として勤められた。その間に関与した事件は、

          民事・行政事件   6,998件
          刑事事件      4,784件
           計        11,782件(年平均2,356件)
  であったという。

 私はこの数値を聞いて驚いてしまった。
 扱い件数が多すぎる。
 一人の最高裁の裁判官は、これほどの多くの訴訟事件を扱っているのか。
 せめて年間500件程度に止めるべきでは無いのか。  最高裁の裁判官の人数を大幅に増加し、25人程度にした方が良いではなかろうか。
 最高裁判所の裁判官の人数を25人に増やしたからといって、質の低下を招くという様な柔な法曹界のレベルでは無い。

 必要なところに税金を注ぎ込むのが賢い税金の使い方であろう。

 最高裁判所裁判官一人年間扱い件数2,300件余はいささか多すぎる。

 中川了滋裁判官が、最高裁で扱った主な判決を下記に記す。

@ 貸金業の一括弁済特約契約によるみなし弁済請求事件(平成18年1月13日)

 サラ金と呼ばれる消費者金融に大打撃を与えた最高裁の判例である。
 利息制限法の上限金利は15〜20%であるが、出資法の上限は29.2%であり、借り手が任意で支払った場合、29.2%の利息は有効で「みなし弁済」と呼ばれていた。グレーゾーン利息とも呼ばれていた。

 これを「特約は借り手に高利を事実上強制するもので超過利息は受領出来ない」という判決を下した。

 この中川了滋判決によって、続々と超過利息返還訴訟が発生し、消費者金融業者の倒産が続出した。
 つい最近も大手の「武富士」が、会社更生法の適用申請(平成22年9月28日)に追い込まれた。

A 高知落雷訴訟(平成18年3月12日)

 高知の高校サッカー試合中に落雷を受けて重度の障害を負った高校生の家族の損害賠償事件で、「落雷は予見可能」として高校側に注意義務があるとした判決である。

 中川氏は、この判決の背後には、ゴルフ場の落雷事件での予見可能性と同じ考え方があったと述べられた。

B B型肝炎訴訟(平成18年6月16日)

 B型肝炎ウイルスに感染したのは、集団予防接種の際の注射器の使い回しによるものであると認定し、国の責任を認めた。

C 中国人強制連行訴訟(平成19年4月27日)

 第二次世界大戦中に日本に強制連行されて、過酷な労働を強いられた中国人にたいして、日中共同声明(1972年)で中国政府との間で賠償請求放棄が締結されており、国への損害賠償は認められないとした。

 一方、裁判外の解決方法を示唆する次の文言を付けた。
 「被害者の精神的・肉体的苦痛は極めて大きく、N(判決には会社名の明示あるが筆者の文字変換による。以下同じ)建設など関係者の被害救済の努力が期待される」

 これにより、当事者のN建設等の企業との間で、次々と和解解決しているようである。

 その他の主な判決として、次のものがある。

D 蛇の目利益供与事件(平成18年4月10日)
E 旧拓銀融資事件(平成20年1月28日)
F 長銀粉飾決算事件(平成20年7月18日)
 
 不動産の賃料関係では、サブリース自動改訂賃料の従前賃料合意時点はどこかという判決(平成20年2月29日)がある。

 この判決については、重要であり、いつか稿を改めて論じたい。


 鑑定コラム195)「まさかの身近な最高裁判事」

 鑑定コラム622)「最高裁判所裁判官の職ご苦労様でした」


 鑑定コラム652)「四漕艇部琵琶湖遭難昭和16年4月6日」

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