○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

195)まさかの身近な最高裁判事

 暮れも押し迫った平成16年(2004年)12月21日の新聞夕刊、政府発表の人事異動欄を見て目を疑った。

 まさにびっくり仰天の境地である。違う人ではないのかと記事を疑い、読み返して見た。後の行からも読み返してみた。間違いなかった。

 政府は12月21日の閣議で、最高裁判所の新しい判事に、弁護士の中川了滋氏を充てる人事を了承したという記事である。
 2人の最高裁判事の任期が終わり、新しく2人の判事が就任することになった。
 そのうちの一人が中川了滋氏である。
 我が母校の学部の先輩である。歳もあまり離れていない。
 大学生の頃は、学年も違い面識もなかった。同じ教授の講義を受けて卒業している。
 知り合ったのは、卒業後、私も自由業として不動産鑑定業を開業した後の、大学同窓会の会合である。

 過日も、電話で長々と母校の法科大学院のことについて話した人である。
 大学の先輩・後輩のよしみもあり、不動産鑑定で裁判事件の評価をしていることから、法学者、弁護士、裁判官を含めて法曹の世界の人々に、不動産鑑定評価に対する理解と基礎知識の習得の必要性を話していたのである。

 裁判官が不動産鑑定書を読みこなす事が一般的には出来ず、不動産鑑定書を鵜呑みにして判決を下すことは、裁判の信頼性を失うものである。法科大学院は司法試験の合格率を競う場でなく、幅広い法律的素養をも培うところでもあり、借地借家法に伴う価値判断の不動産鑑定の基礎知識の習得は絶対必要であると。

 民事訴訟事件で最も多いのは不動産がらみの事件である。
 その際に不動産価格、地代家賃の金額が必ず争いに関係してくる。
 この不動産価格、地代家賃の金額に対する経済価値の妥当性の判断は、法律的な解釈で解決出来るものではない。それらの事は、中川さんも長年弁護士をやってこられていることから、わかり痛感されているのではないでしょうかと話した。

 まさか話した相手の人が、最高裁の判事になられるとは。
 今から思えば、気安く「中川さん」と呼んで、随分と偉そうな事を言ってしまったと思っている。

 中川氏は大学同窓会の東京会の会長をやっておられた。
 おごり偉ぶらず、腰の低い、柔和な人である。
 以前、中川先輩から、旧制第四高等学校のOB達が月一回、後輩の人々の話を聞くのを楽しみにしている会合があるが、それに講師として出て話をしてくれと頼まれた事があった。

 とてもではないが、私ごときの者が、旧制第四高等学校のOBである王子製紙の河毛二郎会長などの大先輩の財界の大御所の前で、偉そうに話などできるものではないと断ったことがある。

 中川氏が第一東京弁護士会の会長になられた時も驚いたが、今回の最高裁の判事の就任は、その比ではない。
 今迄は代理人弁護士として、裁判官に判断を仰ぐ立場であったのが、一転、仰がれ判断を下す立場になるのである。
 その判断も、裁判所としての最高の立場での判断を示すのである。
 最高裁の判断・判決が一つ出れば、同じ内容案件の下級審の事件は、すべて右に習えになるのである。

 東大法科出身の裁判官が多くいるのに、地方の大学出身の弁護士を、よくぞ最高裁の判事に登用したものと、最高裁の人事登用判断に敬服する。

 甲斐中判決とか藤田宙靖判決と呼ばれるごとく、いつの日にか中川了滋判決と呼ばれる最高裁判決を目にすることになるであろうか。

 今迄は「中川さん」と気楽に呼びかけ、酒を酌み交わし話していたが、もうこれからは、そんな事もできず、機会もないことになるであろう。
 残念であるが、仕方がない。

 しかし、まさか身近に、最高裁判事になる人がいたとは、夢にも思っていなかった。



 コーヒーブレイクの鑑定コラム
  鑑定コラム39)「河口湖のラベンダー満開」

  鑑定コラム51)「ある裁判官の訃報」

  鑑定コラム12)「ある邂逅」

  鑑定コラム146)「ある大学教授の最後の講義」

  鑑定コラム622)「最高裁判所裁判官の職ご苦労様でした」

  鑑定コラム699)「「最高裁判所判事を終えて」中川了滋氏の講演」


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ