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648)吉田東洋暗殺−NHK大河ドラマ『龍馬伝』

 NHKが日曜日の夜の大河ドラマとして、今年(2010年)は『龍馬伝』を放映している。

 『龍馬伝』とは坂本龍馬の物語である。

 三菱の創始者岩崎弥太郎が、龍馬との交流を交え、ドラマの語り部になってドラマが進行する手法でドラマが造られている。

 NHKが坂本龍馬をドラマの題材に取り上げるのは良いが、筋書きがあまりにも歴史の事実と違い過ぎ、創作がありすぎる。

 龍馬と岩崎弥太郎とは、ドラマでは極頻繁に会っているごとく描かれているが、二人は高知と安藝と距離的に離れて育っており、ドラマの様な交流はなかった。

 岩崎弥太郎が龍馬を知るのは、後藤象二郎の紹介であったと記憶している。

 岩崎が、長崎の土佐藩の出張所の会計責任者として土佐藩の金策に駆けづり回っていた時、龍馬の亀山社中の運営資金の面倒もみて、龍馬との付き合いが始まったと聞く。

 また、岩崎弥太郎は貧しかったが、NHKの描くドラマで描かれている程の極貧の境遇で育っていない。

 3月28日のドラマでは、後藤象二郎が岩崎弥太郎に坂本龍馬暗殺を指示するが、その様なことはあり得ない。

 また、吉田東洋が武市半平太を足けりで蹴飛ばす状景があったが、郷士(下士)が、吉田東洋に会見など出来るものではない。

 吉田東洋は、藩主の代わりに土佐藩を任されていた藩執政の最高位の人であり、徳川幕府で云えば大老の職にあった人である。上士ならともかく、下士の身分の武市半平太がいくら優れていたとしても、藩の執政の最高位の人に面会出来、その執政の最高位の人である吉田東洋が、武市半平太を足蹴りすることなど、身分上下の厳しい時代を考えれば、あり得ないことである。

 ドラマとして脚色して面白く描くことは、視聴率を上げるためには良いことかもしれないが、歴史としての事実を押し曲げてまでの放送は、正しい姿ではなかろう。

 ドラマで初めて龍馬を知る若い人もいるであろう。
 それらの人の脳裏には、NHKが創作して放送した龍馬と弥太郎の姿がインプットされてしまうことになる。

 吉田東洋は、岩崎弥太郎の能力を見抜き、彼を登用した。
 岩崎弥太郎にとって、吉田東洋は自分を引き立て、人生の扉を開けてくれた大恩人である。

 吉田東洋がいなかったら、現在の三菱は存在していないと思われる。

 2010年3月28日のドラマは、坂本龍馬脱藩の話と、武市半平太の指示により、土佐勤王党の3人によって、田中泯扮する吉田東洋が暗殺されるシーンで物語りは終わった。

 人に、邪魔な人の暗殺指令を出して殺して、自分は生きようとする人を、私はどうしても好きにはなれない。生理的嫌悪感をもよおす。

 田中泯扮する吉田東洋は、暗殺されてしまった。
 もうドラマには、田中泯の吉田東洋はでて来ない。

 田中泯は、今、撮影中の放浪俳人の井上井月の記録映画『ほかいびと〜伊那の井月〜』(北村皆雄監督)で、主人公の井上井月を演じている。

 その記録映画で、田中泯に会うことにしょう。
      

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