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781)敷引特約は合法であると最高裁は認めた

 京都・大阪を中心として、関西地方で居住建物の賃貸借契約に伴い行われている「敷引」という特約の賃貸借行為について、最高裁判所は、「敷引特約は合法」即ち違法性は無いという判決を、平成23年3月29日(第一小法廷)に下した。

 その事件番号は、平成21年(受)第1679号である。
 その事件名は、「敷金返還等請求事件」である。

 事件の概要は、京都の賃貸マンションの賃借人が、保証金40万円を退去時に21万円「敷引」として差し引かれるのは不当であると訴えた事件である。

 この不当であるという法律根拠を、消費者契約法10条に求めているものである。

 最高裁判決は、敷引特約と消費者契約法10条の関係について、まず、以下のごとく述べる。

 「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」

 判決は、敷引特約が消費者契約法10条に違反する場合は、どういう場合であるか、その判断基準を示す。

 そうした違法となる判断基準を示しておいて、では、本件案件の場合は、その判断基準に照らして考えるとどうなるのかと、下記のごとく判決は述べる。

 「これを本件についてみると、本件特約は、契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するものであって、本件敷引金の額が、契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また、本件契約における賃料は月額9万6000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1ヶ月の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
 そうすると本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」

 東京には「敷引」という用語は無い。

 上記の事件では、居住の建物の預かり金を「保証金」と云う用語を使っている。

 東京にあっては、保証金は商業建物の賃貸借の場合に使われる一時金の名前であり、居住建物の場合の一時金には保証金の名称は使わなく、「敷金」と言う名称を使っている。保証金と敷金とは、名前が異なるごとく、その性質も異なる。

 上記事件では、保証金の他に敷金という一時金は授受されていない。
 対象となる建物は居住の建物である。
 そして「敷引」という用語が使われていることから推定すると、保証金の名称を使っているが、それは敷金の性質のものと判断される。

 判決も「敷金の性質を有する本件保証金」と言っており、本件の保証金は敷金の性質を有したものと解している。

 では「敷金」とはどういうものなのか。

 『賃料<地代・家賃>評価の実際』P10 拙著(プログレス)で、敷金について次のごとくいう。(拙著を引用して手前味噌で申し分け無いが、お許しを)

 「敷金とは賃貸借終了時における賃料の未払金や損害金を担保するために、賃貸借契約時に貸主に差し入れされる一時金をいう。賃貸借契約が終了した時に未払金や損害金があれば、これより控除して残額を支払うのである。それらのものが無ければ、全額返金される。一般的には無利息である。

 賃貸借契約が継続中に賃料の不払いがあっても、敷金をその不払賃料に充当することはない。賃料の不払いは不払いで、その行為は契約解除の理由となる。

 敷金充当は賃貸借契約が終了する時に行われる行為である。
 賃貸人が賃貸借契約中に変わっても、敷金の返還義務は新賃貸人に引継がれる。」

 敷金は、未払賃料や損害金を担保するものであり、それらが無ければ全額借主に返却されるべき性質のものである。

 敷金を未払賃料もなく、損害金の発生の有無の調査も全く行わず、高額の一定の金額を契約しているからと言って貸主が一方的に取得することは、借地借家法の法律の精神から考えて違法と私は思う。

 本件の敷引の金額は

    経過年数1年未満    控除額18万円
        2年未満       21万円
        3年未満       24万円
        4年未満       27万円
        5年未満       30万円
        5年以上       34万円

である。

 そして本件賃貸借は、2年経過による更新契約をすることなく、2年未満で賃借人は退去した。

 それでもって預かり金40万円より21万円控除されたのである。
 2年未満の部屋の使用で21万円もの破損が生じたのか。
 その破損の調査を実際に行ったのか。
 現実では全く室内の破損は無かったのではないのか。
 それにもかかわらず21万円の金額を控除するとは、その行為は不合理そのものであろう。

 私の敷金の考え方より見れば、21万円の控除は違法である。
 内装壁紙等の破損等していれば、その補修費は実費精算で行われるべきであり、その有無も確かめずに、契約で合意しているからといって21万円の控除という行為は、借地借家法の強行法規の性格から賃借人に不利な契約条項であり、違法であると判断すべきと私は思う。

 第一小法廷の7人の裁判官全員の意見が一致して判決すると判決文に書かれているが、裁判官の中で一人くらい「破損の実地検分も行わず契約書での契約金額が明示してあるからと言って21万円の控除は、借地借家法の強行法規の性格から見て違法である」という意見を述べる人がいてもよいと私は思うが。
 
 判決文の中で、私が最も嫌う「あながち不合理なものとはいえず」という言葉が使われている。

 その言葉は判決文の中で次のごとく使用されている。

 「また、上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえず、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。」

 この「あながち不合理なものとはいえず」という言葉は、裁判官の判断に数理的合理性、科学的合理性、論理的合理性が全く欠ける裁量そのものを表している言葉である。

 私は、「あながち不合理なものとはいえず」とか「必ずしも不合理とは思われない」という裁判官がよく使う文言が大嫌いである。

 間違った証拠、証言、考え方であっても、裁判官は、おうおうにして、上記2つの言葉を使って、それを適正な証拠、証言、考え方であることにしてしまう。この恣意的行為に私は怒りたいのである。

 不合理なものは不合理であり、それが合理的なものにはなり得ないのである。


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