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790)分譲マンションの再調達原価には分譲業者の利潤等が加算される

 分譲マンションの再調達原価を、下記のごとく求めている不動産鑑定書にお目にかかった。

 1件だけではない。3件である。
 異なる3人の不動産鑑定士が書いた不動産鑑定書である。

 @ 建築工事費u当り21万円×延べ床面積=再調達原価
 A 建築工事費u当り25万円×延べ床面積=再調達原価
 B 建築工事費u当り30万円×専有面積=再調達原価

 いずれの不動産鑑定士も建築工事費は現在の建物工事費の推移より求めたと述べている。
 つまり、建物の建築工事費原価そのものである。

 建物工事費原価に延べ床面積を乗じた金額が、分譲マンションの再調達原価であるとしている。

 中にはBのごとく、建築工事費原価に専有面積を乗じた金額を分譲マンションの再調達原価であるとする強者(つわもの)もいる。

 上記3つの分譲マンションの再調達原価の求め方は正しいであろうか。

 正しいと思う人は、今後、分譲マンションの価格評価、賃料評価は止められたい。

 その様な考え方の不動産鑑定書が大手を振って、我が物顔で闊歩されては甚だ迷惑する。しかし現実には大手を振って闊歩しているのである。
 それだから私の手許にまでも、その類の不動産鑑定書がどうしてか舞い込んでくるのである。

 私が最近1年、月1回土日の2日間をかけて賃料講義を行って来た。
 その原因は、例えば上記のごとくの価格の考え方で賃料を求めている不動産鑑定書が後を絶たないので、適正な求め方を知らしめなければと思って始めたのである。

 賃料講義においては、基礎価格について、分譲マンションの場合は特に注意するように受講者には話している。

 賃料講義を聞いた人は、初めて自己の考えの間違いを知る。
 受講者に聞けば、今迄誰も正しい求め方を教えてくれなかったと言う。

 賃料の基礎価格は、価格評価が基礎になっていることから、価格評価が間違っていると、賃料評価も間違ってくることになる。

 賃料と価格とは関係無いと思っている人が多くいるであろうが、とんでもないことである。

 賃料あっての価格であり、賃料が分からなければ価格など求められないといっても良いくらい、不動産鑑定には賃料評価の知識は必要であり、重要である。

 賃料評価の基礎価格の考え方から、分譲マンションの価格を考えれば、上記で例示したごとくの分譲マンションの再調達原価の求め方は間違いと分かる。

 鉄骨造、鉄筋コンクリ−ト造、鉄骨鉄筋コンクリ−ト造の共同住宅を、日本では「マンション」と称している。

 木造あるいは軽量鉄骨造の共同住宅を「アパート」と称している。

 但し沖縄では、前記「マンション」と東京等で称している共同住宅も、「アパート」と呼んでいる。

 マンションと称される共同住宅も、所有形態によって所有権のものと区分所有権のものがある。

 所有権のマンションとは、一棟の所有権マンションである。一棟の所有権マンションを全て自分の居宅とする人はいないであろう。
 賃貸マンションと考えるのが普通であろう。
 それ故、所有権のマンションは、賃貸マンションであると考えられる。

 区分所有権のマンションとは、一棟のマンションが各戸ごとに独立した区分所有権のマンションで、通常は分譲マンションである。

 所有権賃貸マンションの価格は、土地の更地価格プラス建物価格で価格を求める。

 区分所有権の分譲マンションの価格は、所有権賃貸マンションの価格と同じ求め方ではない。

 区分所有マンションの価格は、通常、土地・建物を一体として複合不動産の区分所有マンションとして不動産市場が成立し取引される。その取引価格は専有面積当りの価格を中心にして把握されている。

 しかし土地・建物を一体として複合不動産の比準価格でなく、積算価格であえて求める場合、即ち、土地価格は土地の取引事例から、建物は建築費からの再調達原価より求める場合には充分注意する必要がある。

 土地価格に建築費より減価修正した建物価格を加算した額は、区分所有権の建物の積算価格にはならない。その価格は所有権建物の積算価格であり、区分所有権建物の積算価格ではない。

 区分所有権建物の場合、土地価格は問題ないが、建物価格には一棟の建物の所有権が複数の区分所有権に細分されたことによる建物価格上昇要因を考慮する必要がある。区分所有権にするための分譲業者の利潤、諸経費、細分化による市場性の回復等の要因による修正である。

 区分所有建物の再調達原価には、上記要因を考えなければならない。

 区分所有権の建物は、新築時に諸費用として建物工事費の最高1.42倍の諸費用の計上が認められている。

 旧国土庁(現国土交通省)の課長通達『国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評価等について』(国土庁土地局地価調査課長)の第2.5.イに次の通達文章がある。

 「土地と新築建物を一括譲渡する場合の当該建物の譲渡額相当額の算定については、別記2により算定した額を基準とすることができるものとする。」として、別記2は次のごとくいう。

 「土地の建物(新築に限る)を一括譲渡する場合の建物の譲渡相当額は、次式により算出するものとする。
     建物建築原価×142%=建物の譲渡価額相当額」

 新築分譲マンションの建物価格は、建物原価の42%増までしか認めないという通達で、いわゆる「42%通達」と言われているものである。

 バブル経済の頃は、建物原価に42%を乗じた金額増を建物の譲渡価額相当と把握することは合理的であったが、バブル崩壊後のマンション価格の下落により、その割合を建築費に乗じた場合、マンション価格が高くなりすぎて売れなくなってしまった。

 現在は142%より下位の水準に来ていると思われる。

 「42%通達」を逆読みすれば、同じ「マンション」と呼ばれるものでも、分譲マンションの建物価格は、賃貸マンションのそれよりも最高1.42倍高いということになる。

 区分所有マンションの建物価格、再調達原価を求める場合には、このことを充分知っていないと、誤った区分所有マンションの再調達原価及び区分所有マンションの価格を求めてしまうことになる。

 私も鑑定評価の仕事で間違えることもあり、あまり同業である不動産鑑定士の揚げ足をとって間違っているとあえていいたくないが、分譲マンションの再調達原価の誤りは目に余る。

 最初に掲げた3人の不動産鑑定士は、自覚せず、勉強もせず、自分の価格の鑑定の求め方は正しいんだと頑なに思い込んで、いつまでも上記のような求め方で区分所有マンションの価格を求めていると、大やけどをするかも知れない。

 
  鑑定コラム817)
「分譲マンション土地には地積大の減価は行わない」


  鑑定コラム1212)「超高級マンションの再調達原価の1つの求め方」

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