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1287)立退料考 4 価格控除方式

 借家権価格の求め方の1つに、価格控除方式という手法がある。
 その求め方の算式は、下記である。

 (算式)

  自用の建物及びその敷地の価格−貸家及びその敷地の価格=借家権価格

 自用の建物及びその敷地を「自建」、貸家及びその敷地を「貸建」と呼び、それらの価格を「自建価格」、「貸建価格」と、以後呼ぶことにする。

 自建は、所有者自らが居住し、使用していることから、賃借人はいない。

 貸建には、賃借人がいる。
 賃借人がいることから、その貸建には借家権が附着していると判断される。

 そうすると、自建価格から貸建価格を差し引けば、貸建に附着している借家権価格が求められると云うことになる。

 例えば下記のごとくである。

 自建価格を4,800万円とする。
 貸建価格を4,200万円とする。

       4,800万円 − 4,200万円  = 600万円

600万円が借家権価格ということになる。

 上記の求め方を知れば、簡単に求められてよいではないかと思われるであろうが、この求め方には、問題点が潜んでいる。

 上記算式を見ると、あたかも自建の建物と貸建の建物が別々に存在しているごとく錯覚するが、そうでは無い。

 存在しているのは、貸建の建物一つのみである。

 ここで考えている自建価格と云うのは、貸建を自建と想定した場合の価格なのである。

 では、自建の価格をどの様にして求めるかというと、原価法、収益還元法、取引事例比較法で求めることになる。

 他方、貸建の価格は、どの様にして求めるかと云えば、これも原価法、収益還元法、取引事例比較法で求めることになる。

 求められた自建の原価法の価格と、貸建の原価法の価格に相違があるかと云えば、相違は無い。同一価格となる。

 収益還元法の価格はどうかと云えば、自建の収益価格は、第三者への新規賃貸想定を考え、新規賃料による賃料から求められた価格である。

 貸建の収益価格は、賃貸借契約が継続している現行の実際実質賃料で求められた価格である。

 自建と貸建の収益還元法の価格には、上記賃料の種類の違いから、価格差が出て来る。

 しかし、価格差がプラスばかりで無く、マイナスの価格差が出て来る場合もある。
 マイナスの価格差とは何かということになる。

 それは、継続賃料の方が新規賃料より高い場合である。
 新規賃料が、常に継続賃料より高いというものではない。

 継続賃料が新規賃料より高い場合があるのかという疑問があるかもしれないが、賃料減額訴訟が数多く引き起こされるということは、そうした事例はあると云うことを示している。

 マイナスの価格差の存在があり得ると考えると、新規賃料と継続賃料によって求められた収益価格に価格差があるから、その差が借家権価格と云う主張も無理がある。

 自建の取引事例比較法は難しくないが、貸建の取引事例比較法はその附着する借家権価格をどう判断するかで難しい。

 そもそも、類似の貸建の取引事例が近くに存在するのかということになる。
 類似の貸建の取引事例を捜すことの方が困難である。

 此処で、考えを大きく変えてみる。

 鑑定評価上の3つの価格、即ち原価法の積算価格、収益還元法の収益価格、取引事例比較法の比準価格は、鑑定評価の理論上は一致することになっている。

 とすると、求められている積算価格、収益価格、比準価格は、同一価格になると云うことから、それぞれの価格差から借家権価格が発生するという考えは、理論的にはあり得ないと云うことになる。

 自建の積算価格から、貸建の収益価格を控除して、その価格が借家権価格という主張は、理論的には無理のある主張ということになる。

 こうした問題が潜んでいることから、この控除方式の借家権価格の求め方は、やらない方がよい。

    (2014年7月10日開催の田原塾7月会の講話テキストに加筆して)


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  鑑定コラム1852)「判例に見る店舗明渡立退料」

  鑑定コラム1853)「鑑定基準の云う不随意の立退要求より生じる借家権価格」

  鑑定コラム2124)「差額賃料の3年分は借家権価格ではない」


  

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