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1853)鑑定基準の云う不随意の立退要求より生じる借家権価格

1.鑑定基準の不随意の立退要求より生じる借家権価格の定義

@ 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」とする)は、借家権割合が求められる場合は、借家権割合によって求めた価格を比較考量するものと云う。

A そして、鑑定基準は不随意の立退要求より生じる借家権価格について次のごとく述べる。

 「さらに、借家権の価格といわれるものには、賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体に現れるものがある。この場合における借家権の鑑定評価額は、当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料と現在の実際支払賃料との差額の一定期間に相当する額に賃料の前払的性格を有する一時金の額等を加えた額」(平成26年改正鑑定基準国交省版P50)

を借家権の鑑定評価額と定義する。

2.明渡立退料の借家権価格とは

 鑑定基準は、借家権価格の1つの形態として、「賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益」を挙げる。

 この経済的利益が、明渡立退料の借家権価格である。

3.借家権価格と移転費用とは異なる

 上記借家権価格が明渡立退料の全てであると思い込んでいる不動産鑑定士もいるようであるが、上記借家権価格の中に、明渡立退料を構成する移転費用は含まれない。

 借家権価格は権利価格である。

 移転費用は、費消される費用金額である。権利価格は費消される性格のものではない。

 このことから、借家権価格には、移転費用は含まれない。

 それ故、明渡立退料は、借家権価格のほかに別途移転費用が付加され無ければならない。そしてそのほかに営業損失の補償額も付加され無ければならない。

4.不随意の立退要求の借家権価格の求め方

@ 賃料差額からの借家権価格
 不随意の立退要求の借家権価格の求め方は、鑑定基準は、

 「当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料と現在の実際支払賃料との差額の一定期間に相当する額に賃料の前払的性格を有する一時金の額を加えた額」

と云う。

 同程度の代替建物の新規の支払賃料と、現行の支払賃料の差額から借家権価格を求めよと云う。

 経済的残存耐用年数が残っている場合には、同程度の建物の新規支払賃料となるが、経済的残存耐用年数が無い場合、或いは既にそれを通り越している場合の新規支払賃料はどうするかということになる。

 そうした場合にも、同程度という条件に固守すれば、経済的残存耐用年数を過ぎた新規支払賃料を採用すべきかと云うことになるが、私はその考え方には反対する。

 そうした場合は、経済的残存耐用年数10年程度の新規支払賃料を考えるべきと思う。

 それは、不随意の明渡立退は、賃借人に犠牲を強いるものであり、賃借人の立場も考えるべきものである。 築50年の建物であるから、築50年の建物の新規賃料で良いと判断すべきものではない。中古建物として考えればよいと私は思う。

 鑑定基準は「差額の一定期間に相当する額」と述べるが、「相当する額」は、「相当する額の現在価値」とするべきと私は思う。

 例えば、差額賃料が年間100万円とし、一定期間を10年とすれば、「相当する額」は、

              100万円×10=1000万円

となる。

 しかし、この求められた1000万円とは、10年先の経済的利益を含めた価格であり、その金額を現在の価格と云う訳には行かない。

 現在の価格とするには、割引率で現在価値に引き戻す必要がある。

 当該店舗の入っているビルの還元利回りが2.2%であったとすれば、利率2.2%、期間10年の年金現価率は、8.8893であるから、

                1000万円×8.8893≒889万円

となる。

 現在価値の借家権価格は、889万円と云うことになる。

 ここで借家権価格から少し離れ、借地権価格について鑑定基準はどの様に扱っているか見てみる。

 鑑定基準は、借地権価格の求め方について、次のごとく述べる。

 「借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現在価値」(平成26年改正鑑定基準国交省版P45)

 鑑定基準は、借地権価格の求め方も借家権価格の求め方と同じく、経済的利益を権利価格と考え借地権価格とするが、借地権価格の場合には、「経済的利益の現在価値」とする。

 借地権価格の場合には、「経済的利益の現在価値」とするのに、借家権価格の場合には「一定期間に相当する額」とする。

 借地権価格、借家権価格は共に、差額賃料から求めるのに、一方は現在価値とし、他方は現在価値とせず「相当する額」とする。現在価値としないということは、論理の整合性が無かろう。

 借地権価格が現在価値としているのであれば、借家権価格も現在価値とすべきでは無かろうか。論理の整合性を考えれば、そうすべきである。

 それとも、それが出来ないという特別の理由があるのであろうか。

 鑑定基準の文言からは、特別の理由があることは記述されていなく、特別の理由の存在を読み取ることは、私には出来ない。

 借家権価格も現在価値とすべきである。

A 一時金の額の借家権価格
 差額賃料による借家権価格のほかに、「前払的性格を有する一時金の額等」が、借家権価格を形成すると鑑定基準は云う。

 この一時金とは、保証金或いは敷金である。

 例えば、現在の貸主に預けている保証金が500万円であるとする。同程度の店舗を他で新規に借りる場合には800万円になるとすると、

              500万円−800万円=▲300万円

300万円不足することになる。

 500万円は現在の貸主から返却されるからそれで充当出来るが、残りの300万円は現賃借人が自己負担しなければならない。

 自己負担する300万円は、新賃貸人に預けたとしても、何れ賃借人に返却されることから問題はない。

 問題になるのは、300万円の運用益である。それは新賃貸人が取得することになる。300万円の生み出す運用益は、本来は賃借人が受け取るべきものである。

 明渡立退によって300万円の金額の支出を負担し、その生み出す運用益は賃借人のものであるのに賃借人のものにならない。ここに賃借人の損失が発生する。

 この運用益損失が借家権価格を形成するのである。

 その求め方、金額は、運用利率を0.5%とすると、年間運用益は、

          3,000,000円×0.005=15,000円

15,000円である。

 期間は、新しい賃貸借期間が始まることから30年とする。

 利率0.5%、期間30年の年金現価率は、27.7940である。

          15,000円×27.7940=416,910円

 416,910円が一時金が形成する借家権価格である。

 この鑑定コラムを読む人の中には、現在価値は、各年の利益を複利現価率で割り戻した総和であるべきと主張される方がいるかもしれない。

 例えば1年目は、0.5%の期間1年の複利現価率0.995024であるから、1年目の現在価値は、

          15,000円×0.995024=14,925.36円

である。

 2年目は、0.5%の期間2年の複利現価率は0.990074であるから、2年目の現在価値は、

          15,000円×0.990074=14,851.11円

である。

 この繰り返しを期間30年まで行い、その総和が、30年間の現在価値であると云われるかもしれない。

 その通りであるが、その答と、利率0.5%、期間30年の年金現価率を15,000円に乗じた金額と同じである。

 そのことを実際に検証してみたのが、鑑定コラム187)「土地使用貸借の価格は更地価格の20%にもなるのか」に記してある。

 その鑑定コラムを見て、理解して欲しい。

 賃料差額が形成する借家権価格と一時金が形成する借家権価格の合計が、不随意の立退要求の借家権価格である。

 この不随意の立退要求の借家権価格の具体的求め方については、稿を改めて記述する。


  鑑定コラム1851)
「土地収用委員会裁決と最高裁判決」

  鑑定コラム859)「明渡し立退料の鑑定」

  鑑定コラム836)「店舗明渡し立退料には移転先店舗の造作費は必要である」

  鑑定コラム1231)「立退料考1」

  鑑定コラム1264)「立退料考 2」

  鑑定コラム1274)「立退料考 3 借家権価格割合」

  鑑定コラム1287)「立退料考 4 価格控除方式」

  鑑定コラム1348)「東京弁護士会での講演レジュメを書き終えて」

  鑑定コラム1852)「判例に見る店舗明渡立退料」

  鑑定コラム187)「土地使用貸借の価格は更地価格の20%にもなるのか」

  鑑定コラム1854)「借地権価格、借家権価格は「現在価値」で鑑定基準の統一を」


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