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1326)借地権割合をどの様にして求めるのか

 更地価格に対する借地権の価格の割合を、借地権割合と云う。

 算式で示せば、

                 借地権価格
              ───────  = 借地権割合                        
                 更地価格
である。

 土地の利益配分で考えれば、

               借地権者に帰属する利益
            ──────────────  = 借地権割合            
       その土地から得られる利益
である。

 この借地権割合が、50%とか60%、あるいは70%であると巷間云われることがある。

 ではその割合は、どの様にして求めるのか。

 借地権者は、土地を借りて建物を建て、土地を最有効使用或いは最適使用し、その得られた収益より地代を支払っている。

 借地権者の自用の建物では、収益が客観的に把握出来ないことから、賃貸建物を想定し、その賃貸建物の収益より、借地権割合を求める。

 条件は下記とする。

 土地面積  400u
 容積率      500%
 想定建物  RC造6階建、延床面積1950u
 用途    店舗併用事務所

 賃料は周辺の賃料と比較して求める。賃貸面積等は下記とする。


建築面積 共用面積 賃貸面積 賃料 月額賃料 敷金ヶ月 敷金
1階 320 100 220 12000 2640000 10 26400000
2階 320 63 257 4200 1079400 3 3238200
3階 320 63 257 4200 1079400 3 3238200
4階 320 63 257 4200 1079400 3 3238200
5階 320 63 257 4200 1079400 3 3238200
6階 320 63 257 4200 1079400 3 3238200
PH 30 30 0 0 0   0
1950 445 1505   8037000   42591000


 土地価格は、周辺の土地取引事例と比較して、u当り360万円とする。

             3,600,000円×400u=1,440,000,000円
 建物価格は、以下のごとく求める。

 国土交通省発表の『建築着工統計調査』によると、東京都の平成26年1月  〜12月1年間の事務所用途のRC造の建築統計デ−タは次の通りである。

                    棟数            78棟
               のべ床面積     146,598u
                工事予定額   5,020,854万円
 このデ−タより、

     5,020,854万円÷146,598u=34.25万円
である。

 東京都のRC造の事務所の建築工事費を、

                        u当り    34.25万円
  と求める。

 上記工事費に次の修正を行って、対象建物の再調達原価を求める。

   
               ・設計監理費        1.05
                    34.25万円×1.05≒36万円

36万円×1,950u=702,000,000円

 新築を考えているから、減価修正は1.0の修正である。

               702,000,000円×1.0=702,000,000円

 想定建物価格を、702,000,000円とする。

 土地建物の価格は、

         土地価格     1,440,000,000円
         建物価格            702,000,000円
           計              2,142,000,000円
である。

 想定建物の総収入は、

          支払賃料    8,037,000円×12=96,444,000円
          敷金運用益     42,591,000円×0.015=638,865円
            計                             97,082,865円
である。

 空室率を8%とする。

 修正総収入は、

      97,082,865円×(1−0.08)=89,316,236円
である。

 公租公課等の必要諸経費は、減価償却費を含めて総収入の35%とする。

 純収益は、

           89,316,236円×(1−0.35)=58,055,553円
である。

 この58,055,553円が、当該土地から得られる利益である。

 総合還元利回りは、


       純収益        58,055,553円
   ───────────────── =  0.027                     
      土地建物価格   2,142,000,000円
2.7%である。

 上記2.7%の総合還元利回りは、土地建物の複合不動産の利回りである。

 この総合還元利回りから、土地、建物の個別の還元利回りを求める。

 土地の還元利回りをXとする。
 建物の還元利回りは、

                    X + 償還基金率相当
とする。

 建物の経済的耐用年数を40年とする。
 償還基金率を算出する利回りは、

                    1/40 = 0.025
とする。

 利回り0.025、期間40年の償還基金率は0.0148である。
 建物の還元利回りは、X+0.0148である。

          1,440,000,000×X + 702,000,000×(X+0.0148)
       ────────────────────────  =0.027   
                   1,440,000,000+702,000,000
 これを解けば、

                    X=0.022
である。

 土地の還元利回りは、2.2%である。

 建物の還元利回りは、

                    2.2%+1.48% ≒ 3.7%
である。

 還元利回りと期待利回りは、貨幣の表と裏の関係にあることから、求められた各還元利回りは、それぞれの期待利回りとなる。

 まとめると、

    土地期待利回り   2.2%
        建物期待利回り      3.7%
である。

 この求められた土地の期待利回り2.2%は、更地の期待利回りである。

 2.2%の利回りであるところを、理由にならない理由をつけて5.0%が期待利回りであるとして、地代を求めている鑑定書に何度も遭遇して来た。

 鑑定コラムで私が求め方がまちがっていると激しく指摘しているのが、ここである。2.2%が家賃より求められる更地の期待利回りなのに、それがどうして2.2%を遙かにオーバーした5%の期待利回りを採用するのか。

 家賃収入の倍以上に、確実に不動産収入が得られるものなのか。

 2.2%を採用しても、更にそれに借地権者の利益相当を減額しなければならないことから、地代の期待利回りは2.2%の半分近くの期待利回りになるのである。

 それを5%を更地に乗じて地代を求めては、とんでもない馬鹿高い地代が求められる。

 それを差額配分法で修正しても、修正仕切れるものでは無い。
 求められる継続地代は、著しく市場を乖離した地代となる。

 借地権割合は、次に求める。

 上記で求められた純収益58,055,553円は、土地建物が協働して求められたものである。

 この純収益のうち、建物に属する利益は、建物価格と建物の期待利回りより求められる。

         702,000,000円×0.037=25,974,000円
である。

 賃貸建物を建て、その賃料収入から得られる上記純収益は、土地建物が同一所有者に属していることを前提にしている。

 その場合は、建物配分利益を土地所有権者が取得してもよい。

 しかし、建物建設のための資本投下者が他人である場合、即ち借地権者の場合には、建物配分利益を土地所有権者は自分のものとすることは出来ない。

 もし、土地所有権者が自分のものとした場合には、資本投下を一銭も出さずに利益を得ることになり、それは不当利得ということになる。

 建物の配分利益は、建物建設のための資本投下を行った借地権者が得るべきものである。

 ここに、借地権価格、借地権割合が発生する原因が生じる。

 賃貸収益による純収益を得るためには、その他に賃貸建物を維持管理する費用、修繕費等が必要である。

 土地の公租公課を除いたそれら必要諸経費と収益を確保する為の労力は、借地権者の提供によるものである。

 とすると、それらの費用負担と労力は、借地権価格、借地権割合を形成するものとなる。

 その必要諸経費のうち、特に重要視されるべき費用項目は、維持管理費と修繕費そして建物の公租公課である。

 この経費割合は、拙著『賃料<地代・家賃>評価の実際』(p81 プログレス)によれば、必要諸経費全体を1.0とすると、貸ビルの場合、

       減価償却費    0.355  
             維持管理費       0.101
             修繕費      0.163
             公租公課         0.359
             損害保険料       0.017
である。(上記割合はデータの平均であるため、合計しても1.0にならない)

 この必要諸経費のうち、減価償却費は建物に帰属する利益で考慮されているので考えない。
 公租公課の割合0.359の中には、土地の分が含まれている。建物の分を求める。
 土地建物の価格割合で配分する。

         土地価格   1,440,000,000円(0.672)
         建物価格       702,000,000円(0.328)
          計           2,142,000,000円(1.00)

0.359×0.328≒0.118

 建物の分の公租公課は、0.118である。

 借地権者が負担する必要諸経費割合をまとめると、

              維持管理費     0.101
              修繕費       0.163
              建物公租公課    0.118
              損害保険料     0.017
                計       0.399
  である。

 賃料収入に占める必要諸経費の割合を0.35とすると、その必要諸経費は、

          89,316,236円×0.35=31,260,683円
である。

 これの0.399の割合の金額が借地権者の負担する部分である。

          31,260,683円×0.399=12,473,013円

 借地権者が負担する費用は、

      12,473,013円
である。

 借地権者が費用負担しているものは、借地権者に利益配分されるものである。

 借地権者に利益配分される金額をまとめると、

   建物投下資本配当利益分    25,974,000円  
      維持管理費・修繕費等の負担分  12,473,013円
      計           38,447,013円
である。

 土地所有権者の利益配分は、

             58,055,553円−38,447,013円=19,608,540円
である。

 それぞれの利益割合は、借地権割合、底地割合になる。

 借地権割合と底地割合は、下記のごとく求められる。

     底地利益:借地権利益=19,608,540円:38,447,013円

 全体を100%として、上記利益割合比を変換すると、底地割合は、

               19,608,540円
             ───────  × 100 = 33.8%≒34%              
        58,055,553円
34%である。

 借地権割合は、

               38,447,013円
             ───────  × 100 = 66.2%≒66%              
        58,055,553円
66%である。

 これが借地権割合の求め方である。

 名儀書替料を借地権価格の10%とすると、

             66%×0.1=6.6%
             66%+6.6%=72.6%

72.6%となる。これが名儀書替の責を借地権者が持っている一般的借地権割合である。

 底地割合は、

      34%−6.6%=27.4%
である。

 国税庁の相続税路線価の借地権割合、底地割合は、切りの良い割合として、

    借地権割合  72.6%  →  70%
        底地割合      27.4%  →    30%
としていることになる。

 借地権割合の求め方を以上で説明した。

 この求められた借地権割合を、更地価格に乗ずれば、根拠ある合理性ある借地権価格が求められることになる。

 上記借地権割合の求め方は、鑑定評価基準には明記してない。

 新しい考え方による借地権割合の求め方である。

 借地権割合は、現行の鑑定評価基準の考えの発想では求めることが困難である。新しい考え方を導入しない限り求め方が分からない。

      (平成27年3月12日に開かれた田原塾27年3月会の講話録に加筆して)


  鑑定コラム1323)
「明日の田原塾で借地権割合の新しい求め方を発表する」

  鑑定コラム1330)「国税の借地権割合の求め方」

  鑑定コラム1365)「借地権価格と地代」

  鑑定コラム1671)「その借地権割合は大丈夫か」


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