平成26年改正鑑定基準は、「継続賃料固有の価格形成要因」という用語が作られた。
それが出て来るところは、家賃の継続賃料のそれぞれの手法の記述の中に出て来る。
差額配分法では、「賃貸人等に帰属する部分については継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ」適切な判断をせよと云う。
利回り法では、「継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合いを踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ」求めよと云う。
スライド法では、「変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に対応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ」求めよと云う。
賃貸事例比較法(ここでは継続賃料の賃貸事例比較法を指す)では、「試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因」の比較を適切に行えと云う。
改正26年鑑定基準に出て来た「継続賃料固有の価格形成要因」という概念は、一体どういうものなのか。
用語が新しく作られ使われる時には、その使用の前に、その用語の説明が必要である。そうしないと、どういうことを言っているのか分からなくなる。
しかし、改正26年鑑定基準には、その説明が無い。「継続賃料固有の価格形成要因」の用語が初めて使われるのは、総論の章であり、その頁は、26年改正鑑定基準国交省版P32である。それ以前には、その用語の説明が無い。
用語の説明がなされるのは、各論の「地代の継続賃料を求める場合」の項である。それは26年改正鑑定基準国交省版P52である。20頁もあとで、それも家賃の項で無く、地代の項に出て来る。そこに至るまで「継続賃料固有の価格形成要因」とは、どういう概念を持つものか分からずに疑問を抱えながら読み進まざるを得ない。
基準の記述項目構成としては、失敗の配置構成である。
26年改正鑑定基準国交省版P52の「地代の継続賃料を求める場合」で説明されている「継続賃料固有の価格形成要因」の概念とは、下記のものである。
「(1) 近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の推移及びその程度
(2) 土地価格の推移
(3) 公租公課の推移
(4) 契約の内容及びそれに関する経緯
(5) 賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度」
これは、地代の項に記述してあるが、「宅地の賃料」を「建物の賃料」に読み替えれば、家賃の継続賃料にも適用出来ることになろう。
上記(1)(2)(3)は、借地借家法32条1項の賃料増減額請求事由の法定項目である。
従前賃料合意時点(直近合意時点)から価格時点までの間に、周辺の賃料、土地価格、対象土地建物の公租公課が変動した場合、その変動状況要因を考えよということである。
(4) の契約の内容及びそれに関する経緯は、賃貸借契約がどういう内容で契約されたのか、その契約内容を良く認識せよと云うことであろう。
サブリース契約であるとか、親族との賃貸借契約であるため賃料が時価の半分であるとかという契約等の内容を認識し、その要因を改訂賃料にも充分折り込めと云うことであろう。
契約の経緯とは、契約締結してから価格時点までの間に、契約内容の変更等の有無に注意し、あればその要因を賃料に反映せよということであろう。
これら契約の内容と経緯の検討については、裁判官が判決文の中でよく使う便利な用語の「諸般の事情」に該当するものと思われる。
(5)の「賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度」は、寄与が特にあれば、その寄与は賃料の増減額に影響を及ぼすから、その要因を考えよということのようである。
上記要因を例示して、これが「継続賃料固有の価格形成要因」と基準は云う。
この例示する要因は、新規賃料と継続賃料と比較すると、賃料に開差が生じることを前提にした対処要因である。
では何故、新規賃料と継続賃料との間に賃料の開差が生じるのか。
それは、賃貸人、賃借人という二人しかいない限られた市場であることが原因している。
新規賃料は、多くの人が市場参加し、その自由な競争によって賃料が形成される。
それに比し、賃貸借契約された賃料の市場は、賃貸人、賃借人の二人の市場である。市場参加者は二人に限定されることから、自由性がない。賃料も不特定多数の参加によって自由に決められるものでは無い。既に契約で決められており拘束された賃料である。
それら要因と同一人との賃貸借期間が長く続くことによって、新規賃料と継続賃料の間に開差が生じるのである。
このことが、「継続賃料固有の価格形成要因」である。
26年改正鑑定基準は、結果の現象のみ捉えて「継続賃料固有の価格形成要因」を述べているが、それは視点を間違えている捉え方である。
「継続賃料固有の価格形成要因」とは、新規賃料の市場と継続賃料の市場が異なると云うことと、賃貸借の期間が長く続くということである。
この2つの根本要因のことを見逃して、賃料、地価、公租公課の推移及び変動を論じても仕方なかろう。
(著書『賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス発行 電話03-3341-6573)の改訂版の原稿を現在執筆中であるが、その中から一部を転載)