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平成26年改正鑑定評価基準に地代を求める新しい手法として、「賃貸事業分析法」という手法が出来た。
新しく出来た手法となるが、その手法は、収益分析法を援用した地代の求め方として行われていた手法を、「賃貸事業分析法」と云う名称を付けて、独立させたものである。
求め方は、更地価格の収益価格を求める土地残余法のやり方である。
但し、地代にそれを使用する場合には、少し注意する個所がある。
改正鑑定評価基準が手法として認めたためか、その手法による地代の鑑定書を初めて見た。地方裁判所の鑑定人不動産鑑定士の鑑定書である。
しかし、その求め方を見て、驚いた。
求め方が根本的に間違っている。
その間違っている求め方を、設例で説明する。
下記のごとく求めている賃貸事業分析法の地代があるものとする。
数値、金額等は仮定である。
土地面積 800u
想定賃貸建物 普通建物 延床面積500u
その賃貸収入 年間800万円
この賃貸建物の必要諸経費として、次の費用が計上されている。
イ、修繕費 20万円
ロ、プロパティマネジメント 30万円
ハ、維持管理費 30万円
ニ、公租公課(建物) 40万円
ホ、火災保険料 5万円
ヘ、取壊費積立金 5万円
計 130万円
建物の帰属収益 300万円
上記賃料収入と必要諸経費・建物帰属収益より、純収益は、
800万円−130万円−300万円=370万円
370万円と求める。
この求められた370万円を収益地代とし、この収益地代から差額配分法を行って継続地代を求めている。借地権への配分利益が抜けているが、ここではそれについて言及しない。
この求め方のどこが間違っているのかわかるであろうか。
大きな間違いを指摘する。
上記記載の設例鑑定では、必要諸経費に減価償却費が含まれていない。
価格評価の土地残余法では、キャッシュフローであるため減価償却費を経費に含めずに純収益を求め、その純収益を償却前還元利回りで除して、収益価格を求める。
土地価格を求める場合には、その求め方で良いが、地代を求める場合に、純収益をその求め方で行うと、とんでもない地代を求めることになる。
間違いである。
どうして間違いかについて説明する。
更地評価の収益価格を求める土地残余法は、そこで想定する賃貸建物を建てるのは、土地所有者である。建物建設費は土地所有者が負担する。
それ故、建物建設の投下資本の回収である減価償却費を必要諸経費で見なくても、その減価償却費の金額相当の利回りを加算した還元利回り(償却前還元利回り)にすれば、求められる収益価格は同じである。
それ故、更地の土地残余法の必要諸経費に減価償却費を入れなくても良い。
しかし、この考えを地代評価に取り入れて、純収益を求めると、とんでもないことが起こり、間違いとわかる。
地代評価の場合、建物を建てるのは土地所有者ではなく、借地権者であり、建物の減価償却費は建物所有者(借地権者)の利益に属するものである。この根本的なことが、設例鑑定では分かっていない。これを専門家の判断と云えるものなのか。
この根本的なことが分かっていない誤判断によって、どういうことが生じるか。その現象を以下に述べる。
純収益は、下記算式で求められる。
売上高−必要諸経費=純収益
必要諸経費とは、減価償却費、公租公課等である。
上記設例では、減価償却費を必要諸経費に計上していないので、その分は純収益の中に含まれることになる。
その純収益が地代となることから、地主は、それを地代として借地権者に徴求することになってしまう。
借地権者は、本来自分の利益であるべき減価償却費相当を、地代として地主に支払うことになる。支払わなければならない理由は存在しないのに。
地主は、建物の建設費を全く負担しないにもかかわらず、その建物建設費の減価償却費分を、地代として受け取ることになる。
例えば、借地権者が自分の負担で賃貸建物を建て、その建設費が4000万円かかったとする。期間30年で減価償却するとすれば、
4000万円÷30≒130万円
である。この130万円は、借地権者が資本投下した4000万円の資本回収であり、借地権者に属するものである。しかし設例では、この130万円を毎年地代として、地主は受け取れるということになる。
こんな理不尽なことは無いであろう。設例の考えでは、そう言うことになる。
減価償却費を必要諸経費に入れずに純収益を求めて地代を求めると、上記のごとく理不尽な間違いが生じる。
上記設例の場合、減価償却費が130万円とすれば、
370万円-130万円=240万円
240万円が収益地代とされるべきものである。この収益地代より地代を求めるのであるが、前記したことを繰り返すと、設例では借地権への配分利益が抜けている。これも間違っているが、ここではそれについて論及しない。
賃貸事業分析法の必要諸経費には、減価償却費を計上しなければならないのである。
設例の間違いがこれで分かったであろう。
設例では、もう1つ同じ様な間違いを犯している。
必要諸経費で、公租公課を建物の分のみ計上している。土地の公租公課を計上していない。
土地の公租公課を計上していないため、土地の公租公課相当は、純収益に含まれることになる。
地代は、
純賃料(純収益)+必要諸経費
で構成されている。
地代の必要諸経費は、土地の公租公課である。
とすると、賃貸事業分析法の必要諸経費に土地の公租公課が含まれずに純賃料が求められていると、
土地の公租公課を含む純賃料+公租公課(土地の公租公課)=地代
と云うことになり、借地人は、土地の公租公課を二重に地代として支払うことになる。
上記2つの間違いがある地代鑑定を適正であると、認めることは出来ないであろう。
地代評価の求め方など全く知らない裁判官は、地裁選任の鑑定人不動産鑑定士の鑑定結果は適正であるとして、間違いが分からず判決してしまう。
その様な地代判決を出されては、借地権者はたまったものでは無い。
地主は大喜びであろうが。
しかし、上記設例のごとくの裁判所の鑑定人地代鑑定書が出回っては、甚だ迷惑である。
当事者の借地権者は激怒している。不動産鑑定士への不信感は爆発寸前である。
不動産鑑定士ょ、もっと勉強してくれないか。この様な類の鑑定書を書いていたら、不当鑑定で措置請求されるかもしれないょ。
不動産鑑定士協会なにをしている。しっかりせょ。専門家職業集団の信用力がガタ落ちするょ。それでも良いのか。
裁判官も、丸投げして専門家の判断であるからと云って鵜呑みせず、結果の論理の正当性を吟味してくれないか。
鑑定コラム1273)「鑑定基準に「賃貸事業分析法」という新しい地代手法が導入された」
鑑定コラム1552)「賃貸事業分析法の具体的な求め方」
鑑定コラム2774)「賃貸事業分析法の必要諸経費には減価償却費が含まれる東京高裁の判例」
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