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1572)期待利回り1%は築20年要因に相当する

 建物の経年と利回り(還元利回り及び期待利回り)とは、密接な関係がある。

 期待利回り1%は、築20年の要因に相当する割合である。

 対象建物は古いからと言って、その要因修正として安易に+2%の割合を加算して期待利回り、或いは還元利回りを決めたら、とんでもない賃料或いは価格を求めることになる。安易にその様なことをしないように。

 建物の経年と期待利回りの関係について述べる。

 なおこの原稿は、2016年11月16日に、東京赤坂のホテルニューオータニの小会議室で開かれた、賃料評価の実務について話する田原塾平成28年11月会の講話テキストを追記補筆したものである。



@ 期待利回りは、積算賃料の純賃料を求めるために、基礎価格に乗じる利回りである。

 次の算式で使用される。

     基礎価格×期待利回り=純賃料

 基礎価格は、土地価格と建物価格を加算したものである。

 この土地価格、建物価格に特殊な要因修正の必要が無く、その価格が基礎価格を構成するとすれば、期待利回りは、下記の算式で求められる。

                純賃料
         ────────── = 期待利回り                        
           土地価格+建物価格

 建物価格は、経年要因によって大きな影響を受ける。

 新築の建物価格は高く、古くなると建物価格は安い。その価格現象は、経年による価格減価が原因する。

A 建物経年と期待利回りの関係を分析してみる。

 (モデル)

 a, 土地  

   土地面積    150u 土地単価    2,000,000円/u 土地総額 300,000,000円
 b, 建物
   建物延べ面積  750u   賃貸面積 525u    建築後     10年    経済的耐用年数 40年
   残存経済的耐用年数 30年 再調達原価 250,000円/u 再調達原価総額 187,500,000円 建物価格 140,625,000円
 c, 収入
支払賃料        5,000円/u  賃料収入(月額)      2,625,000円 賃料収入(年額)      31,500,000円 共益費(月額)      750円/u
共益費(年額)      4,725,000円 保証金         支払賃料の10ヶ月 保証金運用利率      0.02 保証金運用益      525,000円
収入計      36,750,000円
空室率(5%)      0.95
総収入 36,750,000円×0.95=34,912,500円
 d, 必要諸経費
減価償却費 140,625,000円/30= 4,687,500円 公租公課 支払賃料の0.1 31,500,000円×0.1= 3,150,000円
小規模修繕費 再調達原価の0.3% 187,500,000円×0.003= 562,500円 大規模修繕費 再調達原価の1.0% 187,500,000円×0.01= 1,875,000円
維持管理費 支払賃料の8% 31,500,000円×0.08= 2,520,000円 火災保険料 再調達原価の0.1% 187,500,000円×0.001= 187,500円
計   12,982,500円
経費率 12,982,500円÷34,912,500円=0.372
 e, 純収益
          34,912,500円−12,982,500円=21,930,000円
 f, 還元利回り(期待利回り)
   21,930,000円 ────────────────= 0.05 300,000,000円+ 140,625,000円

B 上記モデルを使って分析する。

 条件は、下記とする。

 土地価格は、変更しない。

 建物価格は、経年分のみ減価する。

 総収入は、変更しない。

 支出は、減価償却費以外は変わらない。

 減価償却費は、

                建物価格
           ──────── = 減価償却費                         
              残存耐用年数

とする。

 但し、建物価格の再調達原価はモデルの新築時の再調達原価を使用する。

 このことから、どういうことが生じるかと云えば、全年同じ金額の減価償却費となる。

 それは、次の算式から立証される。経年をXとする。

                            全経済的耐用年数−X
    建物価格=再調達原価×────────────     ・・・・1式  
                       全経済的耐用年数

1 減価償却費=建物価格× ─────────── ・・・・2式 全経済的耐用年数−X

 2式の建物価格に1式を代入すると、

 減価償却費=

全経済的耐用年数−X 1 再調達原価×───────────  ×───────────         全経済的耐用年数 全経済的耐用年数−X

 分子、分母の(全経済的耐用年数−X)が相殺されて、

                       1
    =  再調達原価× ──────────                           
                 全経済的耐用年数

となる。

 例えば築10のモデルの場合、減価償却費は 4,687,500円である。

15年の場合の減価償却費は、次のとおりである。

 建物価格は、

                             40−15
          187,500,000円× ──────  = 117,187,500円           
                               40

である。

 減価償却費は、経済的残存耐用年数は25年(40-15=25) であるから、

                               1
          117,187,500円×  ───    = 4,687,500円                
                              25

4,687,500円である。築10年の金額と同じである。

 実際の評価の場合は、築15年時のその時の再調達原価を使うため、上記のごとくは起こらない。モデルで説明するために生じた現象である。

 この結果、支出は変わらないことになる。

 支出が変わらないことから、純収益(純賃料)も変わらないことになる。

 つまり下記の算式となる。

                     純賃料(不変)
         ──────────────── = 期待利回り            
           土地価格(不変)+建物価格(変動)

C 新築時の還元利回り(期待利回り)を求める。

 純賃料は、21,930,000円である。

 土地価格は、300,000,000円である。

 新築時の建物価格は、

         250,000円×750u=187,500,000円

である。

 土地建物の価格は、

            300,000,000円+187,500,000円=487,500,000円

である。

 新築時の還元利回り(期待利回り)は、

               21,930,000円
             ───────  = 0.04498 ≒ 0.045                    
              487,500,000円

4.5%である。

D 築5年時の還元利回り(期待利回り)を求める。

 築5年時の建物価格は、

                              35
        187,500,000円 × ──── = 164,062,500円                 
                              40

である。

 土地建物の価格は、

            300,000,000円+164,062,500円=464,062,500円

である。

 築5年時の還元利回り(期待利回り)は、

               21,930,000円
             ───────  = 0.0472 ≒ 0.047                     
              464,062,500円

4.7%である。

E 築25年時の還元利回り(期待利回り)を求める。

 築25年時の建物価格は、

                              15
        187,500,000円 ×  ──── = 70,312,500円                  
                              40

である。

 土地建物の価格は、

            300,000,000円+70,312,500円=370,312,500円

である。

 築25年時の還元利回り(期待利回り)は、

               21,930,000円
             ───────  = 0.0592 ≒ 0.059                     
              370,312,500円

5.9%である。

F 以下同様にして求めると、下記である。

      築年              建物価格        還元利回り(期待利回り)

  新築 187,500,000円 4.5% 5 164,062,500円 4.7% 10 140,625,000円 5.0% 15 117,187,500円 5.3% 20 93,750,000円 5.6% 25 70,312,500円 5.9% 30 46,875,000円 6.3% 35 23,437,500円 6.8% 39 4,687,500円 7.2%

G 還元利回り(期待利回り)1%の違いは、

        新築   4.5%
        築20年  5.6%

であるから、築20年の要因に相当することになる。

 上記モデルでは、新築4.5%、築39年7.2%であるから、経年1年当りの利回りは、
 
                   7.2%−4.5%
                ────────    = 0.069% ≒ 0.07%         
                       39

0.07%となる。

H 利回りを求める方式として、積み上げ方式がある。

 私は、この方式をあまり勧めない。

 それは、積み上げる利率が、未だデータによって合理的に立証されていないためである。

 しっかりと学術的に論証され、データによって裏付けがなされれば、信用出来るが、未だその域に達していない。

 建物の経年が古いと云って、安易に+1%のリスク加算したら、その1%は、築20年の要因に相当することになる。

 そのことを理解しているのかということになる。

 建物の価格によって、還元利回り(期待利回り)が大きく変動することが上記分析で分かった。

 類似地域の還元利回り(期待利回り)が、例えば3.5%であったから、その利回りを対象店舗の利回りに採用して、対象店舗も3.5%の利回りとした場合、類似地域の3.5%の利回りの元になったデータの建物の築年経過年数をはっきりと把握しないと、対象店舗の採用利回りを大きく間違えることになる。

(2016年11月16日開催の田原塾28年11月会の講話テキストより)



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  鑑定コラム1549)「地代の期待利回りの求め方」

  鑑定コラム1462)「店舗の売上高に対する家賃割合の求め方」


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